302話 モニカとの結婚式 控室にて

 とうとう、今日は俺とモニカの結婚式だ。

その後には、パームスとナーティア、ダリウスとマムの結婚式も控えている。

さらに、俺とニムの婚約のお披露目会もある。


 会場は、ラビット亭……と言いたいところだったが、さすがに大人数は入らない。

ラーグの街の教会を借りている。


 このあたりにおける結婚式の風習は、ミティの故郷であるガロル村とさほど変わらないそうだ。

一応、教会のようなところで行われるのが一般的である。

とはいえ、普段はそれほど厳格な戒律などがあるわけでもない。

結婚式などの行事のときだけ、神が駆り出されるわけだ。


 この街の住民は、もともとはほぼ無宗教だ。

ゾルフ砦で聖ミリアリア統一教の布教に勤しんでいるエドワード司祭の影響により、この街にもわずかながら聖ミリアリア統一教の信徒が増えてきているようだ。

聖ミリアリア統一教は悪い教えというわけでもないし、広まって困るものでもないだろう。


 今日は、そのわずかな信徒のうちの1人が神官として結婚式を取り仕切ってくれる。

ただし、結婚式自体は聖ミリアリア統一教の流儀ではなく、この街の一般的な流儀で行われる。


 今回は3組合同の結婚式であり、婚約お披露目会でもある。

やや特殊な式の流れとなる。


 そんなわけで、今は結婚式の準備中だ。

新郎側の準備部屋には、俺、ミティ、ユナ、それに執事のセバスがいる。

新婦側のモニカは別の部屋で準備中だ。

あちらには、ニム、アイリス、それにメイドのレインとクルミナがいる。


 また、パームス、ナーティア、ダリウス、マムもそれぞれ別室で準備中だ。

まずは、俺とモニカの結婚式が行われる。

ダリウスは新婦の父親として、モニカとともにバージンロードを歩くことになる。


 俺とモニカの結婚式がひと段落したら、次は彼らの結婚式が始まる。

その後、俺とニムの婚約のお披露目会がある。

そのすべてが終われば、最後のイベントとして食事会が行われる。

こういう予定になっている。


「どうだ? いい感じか?」

「キリッとしていてカッコいいです!」

「ふふん。悪くないわね」


 俺の問いに、ミティとユナがそう答える。


 俺は今、結婚式用の正装を着ている。

このあたりの地域でごく一般的な正装を、仕立て屋に頼んでつくってもらっておいたのである。

日本で言えば、タキシードのような服だ。

まあ少し異なる点もあるが。


「緊張するな……」


 結婚式は、ミティ、アイリスに続いて、3度目だ。

しかし、何度やっても慣れそうにない。

俺は精神力が強くないのだ。


「モニカさんにとっては一生に一度の晴れ舞台です! タカシ様が同じように初々しい気持ちで臨むことは、悪いことではないと思います!」

「その通りね。今日の主役はたくさんいるけど、タカシとモニカ、それにニムちゃんが私たちにとっては重要よ。楽しめばいいわ」


 ミティとユナがそう言う。


 そんなことを話しつつ、準備を進める。

マクセルやギルバート、それに一時釈放されているブギー頭領やジョー副頭領もあいさつに来てくれた。

そして。


「やっほー。タカシお兄ちゃん」

「おお、マリア。よく来てくれたな」


 ハガ王国の姫、ハーピィのマリアだ。

年齢は9歳ぐらいである。

まあ来てくれたも何も、ハガ王国まで転移魔法陣で迎えにいったのは俺だけどな。


 それにしても、彼女はずいぶんと人族の言語を流暢に話せるようになったものだ。

ハガ王国とサザリアナ王国が友好条約を結んだのは、昨年の7月頃。

今日は5月25日。

もうそろそろ1年が経過しようとしている。


 わずか1年で新たな異言語を習得するとは、なかなかのものだ。

まあ、この世界には意思疎通の魔道具という便利なものがある。

それを併用しつつ勉強に励めば、習得もはかどるだろう。

イメージで言えば、自転車の補助輪のようなものだ。


 マリアとは、これまでも定期的に会っている。

昨年の12月のメルビン杯の頃や、今年の3月にウォルフ村から帰ってきた頃にも顔を会わせた。

昨年の時点では片言ぐらいだったが、上達するのはあっという間だな。

彼女もがんばったのだろう。


 今回来てくれたのは、マリアだけではない。


『タカシよ。これで3人目の妻だそうだな。それに、今後も複数人娶る予定とも聞いている。決して、彼女たちを不幸にするのではないぞ』


 ハガ王国の国王、バルダインだ。

王妃のナスタシアに、護衛も何人も付いてきている。

護衛の筆頭は、六武衆の”鑑定”のディーク、”牽制”のフェイあたりだ。


 一国の王がただの冒険者の結婚式に参加するのは少し違和感を覚えないこともないが、せっかくなので誘ってみたのである。

サザリアナ王国とハガ王国は友好的な関係を築いているし、大きな問題はないだろう。

この1年で、オーガやハーピィが友好種族であることは広く広まってきている。


「ええ、もちろんです」


 俺はそう返答する。

彼女たちと幸せな家庭を築いていけるよう、がんばるつもりだ。


「モニカお姉ちゃんも見てきたけど、きれいだったよ! マリアもあんな服がきたいな! そうだ。マリア、タカシお兄ちゃんとけっこんする!」


 マリアがそう言う。


『あらあら。マリアにはまだ早いわよ。もう少し大人になったらね』

「ぶー! マリアはもう大人なのに!」


 ナスタシアからそうたしなめられて、マリアがぶーたれる。。

ナスタシアは美人だ。

彼女の娘であるマリアも、まだ幼いながらも将来は美人になりそうな片鱗がある。


 しかし、さすがにまだ幼すぎる。

彼女自身、結婚がどういうものかすらわかっていないだろう。

子どものたわ言とスルーしていいだろう。

……いいよな?


 そんなことを話している内に、俺は準備を終えた。

万全の状態で待機する。

ミティ、ユナ、それにマリアやバルダインたちは、教会の式場に一足先に向かった。

新婦側の部屋にいたニムやアイリスも同様だろう。

その他の来賓の人たちも、教会の式場で待っているはずだ。


「タカシ様。そろそろお時間でございます」


 係の人からそう声が掛けられる。

いよいよ、結婚式が始まる。

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