278話 盗掘団捕縛作戦、開始

 盗掘団の捕縛作戦の、先遣隊のメンバーが発表された。

俺、マクセル、アイリス、ミティ、ギルバート。

全員が特別表彰者の、豪華なメンツだ。


 一方で、同じくメンバーに選出されたソフィアは、この場に来ていなかった。

連絡がつけば、彼女も先遣隊に参加する予定である。


「マクセルさん、ギルバートさん。よろしくお願いしますね」

「ああ。進化した俺の雷竜拳を見せてあげよう」

「ガハハ! 久しぶりだな、タカシ。我もパワーアップしておるぞ! 楽しみにしておけ!」


 俺、マクセル、ギルバートがそう言う。

ミティとアイリスも、彼らとあいさつを済ませる。


「ではまず、臨時とはいえパーティリーダーを決めましょうか」

「そうだな。……タカシ君がいいんじゃないか? この中で最もギルド貢献値が高いしな」


 俺の言葉を受けて、マクセルがそう言う。


「私はもちろん賛成です!」

「そうだねー。普段から、ボクたちのリーダーを務めてくれているしね」


 ミティとアイリスがそう言う。


「ええと。ギルバートさんはどう思われますか?」

「ガハハ! 我もタカシの指示に従うことに異論はない!」


 俺の問いに、ギルバートがそう答える。


「そうですか。なら、俺がリーダーをさせていただきますね」

「それは問題ないが……。1ついいかな? タカシ君」

「なんでしょうか?」


 マクセルからの物言いだ。


「その敬語、無理に使う必要はないよ。冒険者としては先輩だしね」

「ガハハ! 我も別に気にせんぞ!」


 マクセルとギルバートがそう言う。


「そうですか? ……わかった。では、普通の口調にさせてもらおう」


 俺はそう言う。

丁寧な口調はあまり慣れていないので、少し違和感があったところだ。

彼らが気にしないということなので、普段の口調に戻すのがいいだろう。


 先遣隊に残念ながら選ばれなかった人たちは、後発隊に参加となる。

総勢で20人以上。

俺たちミリオンズの中では、モニカ、ニム、ユナの3人だ。


 3人とも、実力では特別表彰者クラスなのだが。

実績がやや不足しており、まだ特別表彰はされていない。

そのため、先遣隊の選考からは漏れてしまったのだろう。


「タカシ。選抜おめでとう。でも、気をつけてね」

「ミティさんとアイリスさんも、お気をつけて」

「ふふん。戦果を期待しているわよ」


 モニカ、ニム、ユナがそう言う。

後発隊の中では、彼女たち3人の実力は抜きん出ているはず。

大きな活躍が期待できる。


 後発隊の中でのライバルは、”疾風迅雷”のストラスやセリナあたりか。

彼らも、実力の割には冒険者としての実績が少ないため、特別表彰はまだされていない。

そういう意味では、モニカ、ニム、ユナあたりと実力は近いかもしれない。


 あとは、”荒ぶる爪”のディッダとウェイク、”ラーグの守り手”のリーダー、”漢の拳”のサブリーダーあたりはそれなりに強い。

彼らもモニカたちのライバルになりうる。

まあ、盗掘団の捕縛という目的は同じなのだから、過度な競争はせずに協力するほうがいいだろうが。



●●●



 数日が経過した。

あれから、先遣隊のメンバーで臨時パーティを組み、連携の確認や遠征の準備などを行ってきた。

結局、ソフィアはこのラーグの街を離れていたようで、先遣隊には不参加となった。

俺、ミティ、アイリス、マクセル、ギルバートの5人パーティである。


 今は、先遣隊と後発隊で西の森の端にやってきたところだ。


「よし。最初の目的地に着いたな。後発隊は、ここでしばらく休憩するぞ。先遣隊は、少しだけ休憩したら出発してもらう」


 冒険者ギルドのギルドマスターであるマリーがそう言う。

彼女は、後発隊の指揮官として同行している。

直接的な戦闘能力はさほどないものの、サポート系の技能と、最低限の自衛力は持っているらしい。


 ここから先は、森の中の移動となる。

マリーの言う通り、精鋭で構成された俺たち先遣隊が先行する。

後発隊は遅れて慎重に行軍する予定だ。


 俺たちは、少しだけ休憩する。

そして、出発の時間となった。


「では、行ってくる。モニカ、ニム、ユナもがんばってな」

「うん。後方は私たちに任せてよ。危なくなったら撤退してきてね」


 俺たちミリオンズは、二手に分かれることになる。

先遣隊の、俺、ミティ、アイリス。

後発隊の、モニカ、ニム、ユナだ。


 先遣隊の俺たちは、盗掘団のアジトの場所や規模を調査し、可能であれば制圧するのが役割だ。

後発隊は、先遣隊だけでは盗掘団を制圧できそうにない場合に備えて、先遣隊の後に続く。

西の森を大人数で移動することになるので、行軍速度は遅めになる。


「タカシ様の叙爵に向けて、私も精一杯がんばります! むんっ」

「ボクもがんばるよ。無法者は許せないしね」


 ミティとアイリスがそう言う。

彼女たちも、気合が入っている。


「く、くれぐれもお気をつけて」

「ふふん。敵は盗掘団だし、搦め手に注意するようにね。タカシたちならだいじょうぶだとは思うけど」


 ニムとユナがそう言う。

確かにユナの言う通り、今回の相手は盗掘団なので今まで通りにはいかないかもしれない。


 俺たちが今まで戦ってきた相手を整理してみよう。


 まずは、ホワイトタイガー、ミドルベア、キメラなどの魔物。

いずれも強敵ではあった。

だが、魔物は本能に従って行動するので、戦闘自体は単調だ。

単純にどちらの戦闘能力が高いかだけで勝負はつく。


 次に、ミッシェルやギルバートなど、ゾルフ砦の武闘家。

バルダインやクレアなど、ハガ王国の強者。

アカツキ総隊長やガーネット隊長など、ディルム子爵領の兵士。

アルカやニューなど、冒険者。

彼らは多少の搦め手も使ってきた。

ただし、基本的には正面から正々堂々と戦うことが多かった。


 今回の盗掘団との戦闘はどうなるか。

正面から戦うことができれば、俺たちが負けることは考えにくい。


 盗掘団にもそれなりの強者がいるとは聞いているが、たかが知れているだろう。

せいぜいCランク程度か。

Bランク以上の実力があるのなら、違法な盗掘に手を出さずとも稼ぐ手段はいくらでもあるわけだからな。


 そう考えると、ユナの言う通り搦め手には注意すべきだ。

罠とか、状態異常系の魔法攻撃とか。


「マクセル。俺たちのリーダーとして、情けない姿を見せるんじゃねえぞ」

「もちろんさ。任せておけ。俺の雷竜拳で蹴散らしてくるよ」


 ストラスの言葉に、マクセルがそう答える。


「マクセルさん。お気をつけて行ってきてください」

「ああ。カトレアさんも無理はしないようにね」


 カトレアの言葉に、マクセルがそう返す。

……ん?

言っている内容自体は、パーティメンバーを気遣う普通の言葉だ。

むしろどこか他人行儀な印象さえ受ける。


 だが、2人の間に流れる空気は……。

俺の気のせいだろうか。

なんとなくいい雰囲気だ。


 まあ、他人の色恋に口を出すつもりはない。

俺はこの件が落ち着いたらモニカと結婚する。

そしてニムとも婚約している。

彼女たちを幸せにするためにも、活躍して叙爵されたいところだ。

自身の活躍と任務の達成に集中しよう。


「諸君の活躍に期待しているぞ!」

「しっかり頼むぜえ!」

「くっくっく。任せたぞ」


 マリー、ディッダ、ウェイクたち後発組がそう激励の言葉を口にする。

そして、俺たち先遣隊は西の森の中を進み始めた。

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