277話 盗掘団の捕縛作戦 先遣隊メンバーの発表
”白銀の剣士”ソフィアと戦ってから数日が経過した。
この数日は、俺たちミリオンズは比較的安全な活動のみを行った。
具体的にはファイティングドッグ狩りなどだ。
冒険者ギルドの受付嬢ネリーは、この数日間で盗掘団の捕縛作戦の考案などを行っていると言っていた。
先遣隊と後発隊のメンバーの選定も合わせて行っているそうだ。
盗掘団は西の森の奥地に居座っている。
当然、そこに行くには西の森を突っ切る必要がある。
国や街の警備兵などよりも、冒険者のほうが適任だ。
ただし、盗掘団にはCランククラス以上に相当する強者がいるらしい。
そのため、先遣隊には特別表彰者で固めた少数精鋭が配置されるというわけだ。
「さて。今日は冒険者ギルドに呼ばれているのだったな」
「そうですね。おそらく、盗掘団の件だとは思いますが」
「ボクたちが先遣隊メンバーに選ばれているといいけど。そのために最近の活動を安全重視にしていたしね」
俺、ミティ、アイリスがそう言う。
盗掘団の捕縛に貢献すれば、叙爵に一歩近づく。
先遣隊に選定されれば、活躍の機会も多いだろう。
「タカシはきっと選ばれてるんじゃないかな。何と言っても、期待の新星だし」
「そ、そうですね。それに、きっとミティさんやアイリスさんも選出されていると思います」
モニカとニムがそう言う。
俺たちミリオンズの中では、俺、ミティ、アイリスの3人が特別表彰者だ。
先遣隊に選ばれている可能性も高いと思う。
「ふふん。私たちミリオンズの代表として、しっかり活躍してきなさいよ。私たちも後発隊としてがんばるから」
「ああ。任せてくれ。……まあ、まだ選ばれたと決まったわけじゃないが」
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。
俺たちミリオンズで、冒険者ギルドへ向かう。
●●●
冒険者ギルドの中には、人がたくさんいた。
ざっと30人以上はいるか。
人混みをかき分け、受付嬢のネリーのところまでたどり着く。
「ネリーさん。すごい人ですね」
「タカシさん。お待ちしていましたよ。例の盗掘団の件です。サザリアナ王国から依頼金も奮発されましたし、みなさんやる気です」
「そうでしたか。それで、人選や作戦内容のほうは……」
「もうすぐ、ギルドマスターのマリーから説明があります。もう少々お待ちください」
ネリーがそう言う。
ギルドマスターのマリーは、30代くらいの女性だ。
俺も何度か話したことがある。
ボフォイの冒険者ギルドのマスターであるベイグや、ゾルフ砦のマスターのテスタロッサあたりとも面識があると言っていた。
俺たちはしばらく待つ。
ギルド内で待機している者の中には、見覚えのある顔がいくつかある。
Dランクパーティの”荒ぶる爪”。
ディッダ、ウェイク、ダン、ボブの4人パーティだ。
かつて西の森にて、狩り勝負をしたことがある。
スメリーモンキー戦では、ともに戦った。
Dランクパーティ”ラーグの守り手”。
4人パーティ。
ゾルフ砦からラーグの街に戻ってくるときの隊商の護衛依頼で同行した。
Cランクパーティ”漢の拳”。
ガルハード杯やメルビン杯にも出場していた、ギルバートが率いるパーティだ。
肉弾戦を得意とする。
彼らはゾルフ砦を拠点に活動しているようだが、時おりラーグの街にもやってくる。
彼らと初めて会ったのは、ラーグの街からゾルフ砦への隊商の護衛依頼だったしな。
そして、Dランクパーティ”疾風迅雷”。
マクセル、ストラス、セリナ、カイル、レベッカの5人パーティだ。
マクセルは雷竜拳を使う武闘の達人。
ストラスは足技を得意とする兎獣人。
セリナはスピード自慢のオーガ。
カイルとレベッカは、マクセルの子分であり、息の合った連携攻撃を得意とする。
……ん?
いや、あと1人追加のメンバーがいるようだな。
「こんにちは。マクセルさん、ストラスさん」
「おお、タカシ君じゃないか。奇遇だね。……いや、そういえばラーグの街を拠点にしていると言っていたか」
俺のあいさつに、マクセルがそう返す。
「へっ。タカシもがんばっているみたいだな。なあ? 紅剣のタカシさんよお」
「ええ。おかげさまでね」
やはり、特別表彰者は広く周知される。
知名度はうなぎのぼりだ。
特別表彰者と言えば。
「マクセルさん。あなたも特別表彰の対象者になっていましたね。見ましたよ」
「ああ。見てくれたのかい。ああやって表彰されると、励みになるね」
マクセルがそう言う。
数日前にミティが彼の特別表彰の紙を俺に見せてくれたのだ。
二つ名:”雷竜拳”のマクセル
ギルド貢献値:2500万ガル
「おめでとうございます。冒険者ランクもCになられたとか」
「そうだな。順調だよ」
マクセルがそう言う。
彼が冒険者登録をしてから、まだ8か月ほどしか経っていない。
それなのにCランクに昇格して、特別表彰までされるとは。
さすがだ。
前回のゾルフ杯準優勝者の実績は伊達ではない。
マクセルといい、ウィリアムといい、アルカといい。
ステータス操作のようなチートスキルもないのに、すごい。
俺はチートの恩恵を多大に受けまくっているからな。
本来であれば、彼らと同じ土俵には立てていないはずだ。
「へっ。俺もCランクにはなったぜ。特別表彰はまだだけどな」
「自分もCランクになったの。ストラス君には負けてられないの」
ストラスとセリナがそう言う。
彼らも、この8か月でCランクに昇格か。
まあ、冒険者になる前から鍛錬は積んでいて、実力は確かだったしな。
ちなみに、カイルとレベッカはまだDランクだそうだ。
パーティランクは、現在Cランクへの昇格を申請中らしい。
そして、新メンバーが1人いる。
「カトレアちゃん。久しぶりだね」
「ミティちゃんも。元気にしてた?」
疾風迅雷の新メンバーは、ドワーフのカトレアだ。
彼女はミティの幼なじみである。
2人は幼い頃は仲が良かった。
しかし、ちびっ子相撲大会での敗北をきっかけに、カトレアは霧蛇竜ヘルザムに精神を汚染されてしまった。
彼女はミティの家族を経済的に困窮させることで、ミティの奴隷落ちの原因をつくった。
ミッションのために俺たちミリオンズでミティの故郷であるガロル村を訪れた際に、ミティとカトレアは再会した。
一悶着はあったが、俺とアイリスの聖魔法、それにミティとカトレアの絆により、ヘルザムの精神汚染を浄化することに成功した。
その後も若干のぎこちなさは残っていたが、淑女相撲大会を通して昔のような仲に戻りつつあったところだ。
「私は元気だよ。タカシ様のお役に立つため、がんばってるんだ」
「特別表彰の貼り紙を見たよ。ミティちゃんはすごいね。私もがんばらなくちゃ」
ミティとカトレアがそう言う。
彼女たちが話している間に、俺はマクセルから話を聞く。
「カトレアさんは疾風迅雷に加入されたのですか?」
「ああ。俺が誘ったんだ。相撲大会や結婚式での、彼女の身のこなしを見てね。本人も、村の外に興味を示していたし」
確かに、カトレアの身体能力はなかなかのものだ。
淑女相撲大会では、ニムや村の参加者を下し、決勝戦まで勝ち進んだ。
俺とミティとの結婚式のブーケトスでは、見事な身のこなしでブーケに迫ったこともある。
そんな感じで、疾風迅雷の面々と雑談している内に、時間になったようだ。
ギルドマスターのマリーがやってきた。
「皆の者。よく集まってくれた。これより盗掘団の捕縛作戦の打ち合わせを始める」
マリーがみんなの前に立ち、そう言う。
彼女が言葉を続ける。
「まずは、先遣隊を少数精鋭で組む。先遣隊でアジトの場所や人数、それに戦力などの偵察を行ってもらう」
少数精鋭の先遣隊か。
特別表彰者をメインに選抜されると聞いている。
ここに選ばれるかどうかで、活躍のチャンスが大きく異なってくることだろう。
「そして、残りは後発隊だ。西の森を大人数で慎重に進む。あまり急行してしまうと、森の魔物を無用に刺激してしまうし、盗掘団に気づかれてしまうかもしれんからな」
ふむ。
先遣隊に選ばれなくとも、後発隊には参加できるのか。
そちらでも多少の活躍のチャンスはあるだろう。
「ではさっそく、先遣隊のメンバーを発表する。呼ばれた者はこちらまで来てくれ。まずは、”紅剣”のタカシ!」
さっそく俺が呼ばれた。
無事に選ばれて何よりだ。
「ああ」
俺はそう返事をして、マリーのところに歩いていく。
自分で言うのもなんだが、俺のギルド貢献値5500万ガルはかなりの値だ。
このラーグの街周辺では、トップクラスである。
選ばれて当然とも言えるだろう。
「次! ”雷竜拳”のマクセル!」
「はいよー」
マクセルが軽い感じで返事をする。
彼が俺とマリーのほうに歩いてくる。
彼のギルド貢献値は2500万ガル。
俺が知っている中では、俺自身とウィリアムに次いで高い。
彼の対人戦における戦闘能力や勘はかなりのものだ。
非常に頼りになる。
「3人目は、”武闘聖女”アイリス!」
「おっけー」
アイリスが気安いノリで返事をする。
彼女がこちらへ歩いてくる。
彼女のギルド貢献値は2100万ガルだ。
聖闘気を活かした変幻自在の武闘スタイルと、上級まで使える治療魔法。
そして、気配察知や気配隠匿の技量も高い。
信頼できる仲間だ。
「続いて! ”百人力”のミティ!」
「はい!」
ミティが元気よく返事をする。
彼女がこちらへ向かってくる。
彼女のギルド貢献値は1800万ガルだ。
彼女の長所は、何と言ってもその怪力から繰り出される超攻撃力だ。
ハンマー、投石、格闘。
彼女の攻撃を受けて立っていられる者は少ない。
「5人目は、”マッスルパンチ”ギルバート!」
「ガハハ! 任せろ!」
ギルバートが大声でそう返事をする。
彼のギルド貢献値は1700万ガルだ。
マクセル、アイリス、ミティあたりと比べるとやや見劣りする戦闘能力ではある。
とはいえ、一般的に言えばかなり強いほうである。
冒険者としての経験も豊富だ。
安定した戦力になってくれるだろう。
「そして最後に! ”白銀の剣士”ソフィア!」
ソフィアか。
彼女のギルド貢献値は1200万ガルだ。
数日前に俺が彼女の実力をテストしたときの感触は、そこそこ程度であった。
一般的には強いほうだとは思うが、期待していたほどでもない。
ただ、戦いの最後のほうでは何やら奥の手がありそうな雰囲気を出していた。
その奥の手次第では、予想を超える活躍をしてくれるかもしれない。
「……? ソフィアは来ていないのか?」
マリーが首をかしげる。
マリーやネリーが辺りを見回す。
俺も見てみるが、ソフィアたち”光の乙女騎士団”の姿は見当たらない。
「ふむ。今日の打ち合わせの予定は連絡していたはずだが。……まあいい。今発表した5人で、先遣隊を組んでもらう。ソフィアに連絡がつけば彼女にも参加してもらうつもりだ。各自、連携を詰めておいてくれ」
マリーがそう言う。
ソフィアは、現時点では不参加か。
俺、マクセル、アイリス、ミティ、ギルバート。
先遣隊はこの5人だ。
5人中3人がミリオンズである。
それに、マクセルとギルバートも知らない仲ではない。
臨時パーティとはいえ、比較的やりやすいメンバーだと言えるだろう。
このメンツなら、盗掘団に多少の強者がいても軽く撃破できるだろう。
なんてことのない任務だ。
余裕だな。
気負わずに臨むことにしよう。
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