276話 vs”白銀の剣士”ソフィア
酒場で”光の乙女騎士団”のテストを行っているところだ。
彼女たちのリーダーであるソフィアを挑発して、戦闘態勢に入っている。
「よし。覚悟できてんだなお前」
「ハハッハハハ!!! こいつはケンカじゃなくてテストさ!! 来い、力を見てやる…」
俺はそう言う。
ソフィアが十分に強ければ、盗掘団捕縛作戦を遂行する上で強力な味方となるだろう。
それに、俺たちミリオンズへ勧誘するのもありだ。
オーケーをもらえるかは別問題だが。
「ここじゃ店の人に迷惑がかかる。表へ出るよ」
「いいだろう」
ソフィアの提案に、俺はそう同意する。
酒代とカウンターの修理代として金貨数枚を店員に渡しておく。
ソフィアと店の外に出る。
彼女のパーティメンバー3人、それにミティ、アイリス、ユナもいっしょだ。
「ケンカとはいえ、僕は暴力は嫌いだ。勝負は木剣で。1本取ったほうの勝ちとしよう」
「ずいぶんと平和な勝負だな。まあそれでもいいが」
俺はアイテムボックスから木剣を取り出す。
ソフィアも、アイテムバッグから木剣を取り出す。
彼女の二つ名は”白銀の剣士”だ。
その白銀の剣を使った戦闘を体験できないのは少し残念だが、仕方ないか。
「さあ、どこからでもかかってこい」
俺はそう言って、ゆったりと構える。
俺は、剣についてだれかに指導してもらったことはない。
独学だ。
とはいえ、ステータス操作により剣術レベル4にまで強化しているし、そこらの冒険者に負けることはない水準にまで達している。
「じゃあ遠慮なく。……せいっ!」
ソフィアが素早く踏み込み、鋭い一撃を繰り出してくる。
俺はヒラリと躱す。
さらに追撃が繰り出される。
俺は木剣で受け止める。
「いい太刀筋だ。しかし、素直過ぎる。……ふんっ!」
俺はソフィアの胴に軽い一撃を入れる。
「くっ。まだまだ!」
ソフィアが闘気を開放する。
これで、彼女の移動速度や攻撃力は高まったことだろう。
俺もこのままだと不利になるかもしれない。
だが。
「はっ!」
俺も闘気の出力を上げる。
「とんでもない闘気量だ。でも、僕は負けない!」
ソフィアがそう言う。
俺の闘気術はレベル4にまで強化している。
レベル4は、かなりの上級だ。
まともに鍛錬してたどり着こうとすれば、まず10年以上はかかるだろう。
ソフィアの闘気術のレベルは、おそらくレベル2か3ぐらいか。
まあ、彼女はまだ10代後半ぐらいだしな。
チートなしでは、10代でスキルレベル4はかなりめずらしい。
アイリスの闘気術、モニカの料理術、ユナの弓術あたりも、俺が加護を付与した時点ではレベル3だった。
レベル3でも一般的にはなかなかの水準だ。
10代のうちにたどり着けるレベルとしてはトップクラスと言っていい。
「東神流……十六夜連斬!」
闘気によって向上した身体能力を活かして、ソフィアが攻撃を繰り出してくる。
高速の連撃だ。
「いいぞ! その調子だ!」
俺は16の斬撃を全て受け流す。
俺は剣術レベル4に加えて、視力強化レベル1と回避術レベル1を取得しているからな。
俺から1本取ることは、生半可な実力では不可能だ。
「くっ。はあ、はあ……」
ソフィアの体力が切れてきた。
一方の俺は、まだまだ余裕だ。
実力で上回っていて余裕があるし、そもそも体力自体も俺のほうがあるだろう。
俺は体力強化をレベル2にまで伸ばしているからな。
……あらためて考えても、俺はステータス操作に頼りっぱなしだな。
ステータス操作がなければ、このソフィアにも普通にボコボコにされていたと思う。
さて。
ともかく、俺が優勢で、ソフィアが劣勢だ。
しかし、ソフィアの闘志はまだ尽きていない。
「こうなれば、奥の手だ。はああ……!」
ソフィアが力をため始める。
いや、力をためるというよりは。
神に祈るようなポーズだ。
そして、彼女が聖気をまとってこちらに駆け寄ってくる。
「神よ、僕に力を。聖剣エクス……。あっ」
ソフィアが俺に斬りかかってくる。
だが、予備動作が大きかった割にはそれほどでもない攻撃だ。
「ここらで終わりにするか。……ふんっ!」
俺はソフィアの胴に、重めの一撃を入れる。
「がふっ!」
ソフィアがそれをモロに受ける。
地面に倒れ込む。
これは文句なしの1本だろう。
テスト終了だ。
「「「ソフィア!」」」
”光の乙女騎士団”の面々が、倒れたソフィアに駆け寄る。
メンバーに治療魔法の使い手がいるようだ。
ソフィアに手をかざし、彼女に治療魔法をかけている。
「テストは終わりだ。絡んで悪かったな。少し悪酔いしていたようだ。迷惑料として、これを受け取ってほしい」
俺はそう言って、金貨数枚を彼女たちに差し出す。
少し問答があったが、最終的には押し付けることに成功した。
そして、俺、ミティ、アイリス、ユナはその場から立ち去る。
”光の乙女騎士団”から十分に離れた。
「タカシ様。ソフィアとやらはいかがでしたか?」
「そうだな。強いのは強かったが、特筆するほどでもなかったよ」
俺はそう言う。
特別表彰者と言っても、1200万ガルではこの程度か。
これなら、”最初から強い人”に狙いを定めて加護の付与を狙うのは、さほど有効ではないかもしれない。
ステータス操作のチートの前では、初期の戦闘能力の差などはすぐに縮まってくる。
「うーん。最後のほうには、何か奥の手がありそうだったけど。聖気をまとっていたし……」
「ああ。それは俺も感じた。だがいずれにせよ、素の剣術の腕前があのレベルだと、それほど期待はできないな」
俺たちの中ではアイリスとユナが最初から強かった。
一方で、俺、ミティ、モニカ、ニムは戦闘についてはほぼ素人だった。
しかし今では、6人の中で戦闘能力の差はそれほどない。
総合力としてはアイリスとユナが少し優れているような感じはあるが、微差だ。
初期の戦闘能力よりも、やる気や度胸のほうが大切だ。
やる気や度胸についても、極端にないわけでなければよい。
最低限のやる気や度胸があれば、少しずつでも経験を積んでレベリングを行える。
そうすれば、スキルを強化していくことができる。
スキルを強化して自身の力を実感すれば、やる気や度胸も付いてくることだろう。
そう考えると、初期の戦闘能力、やる気、度胸は、いずれもさほど大切ではない。
もっとも重要なのは、そもそも加護の条件を満たすかどうかだ。
加護の条件を満たすには忠義度が50必要となる。
効率的に加護の対象者を増やしていくにはどうすればいいだろう。
まずは初対面のときに、俺への忠義度を確認するのがよさそうか。
初対面で忠義度5以下なら第一印象は悪い。
10前後は普通。
15以上は好印象だと言っていい。
第一印象が良い人に対して積極的に忠義度を稼いでいきたいところだ。
もしくは、何らかの出来事により忠義度を大幅に稼ぐことができることもある。
国の危機を救う手伝いをし、足の治療もしたバルダインは、忠義度が47に達している。
難病を治療したサリエは、忠義度30を超えている。
その他、ラーグの街やディルム子爵領での治療回りなどでは広く浅く忠義度を稼ぎ、複数人から忠義度20以上を達成している。
「いろいろ考えたのだが。やはり、俺の力を適用できるか否かが大きいな。最初は素人でも問題ないさ」
「ふふん。それもそうね。タカシの力なら、どんどん強くなれるわけだしね。弓や火魔法なら、私が教えることもできるわ」
ユナがそう言う。
「ああ。せっかく有望そうな人材を報告してくれたミティには悪いが」
「いえ。問題ありません。これからは、タカシ様に憧れを抱いている者がいないか探してみますね」
「よろしく頼む」
俺、ミティ、アイリス、ユナはそんなことを話しながら、屋敷への向かって歩いていく。
今日はもう遅い。
明日以降の活動に備えて、帰ったらさっさと寝ることにしよう。
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