275話 こいつはケンカじゃなくてテストさ!!

 ラビット亭でのダリウスとマムへの報告を終えた。

俺、モニカ、ニムで自宅へと帰ってきた。


 モニカと俺は、近いうちに結婚することになった。

ニムとは婚約だ。

それらの内容を、ミティ、アイリス、ユナにも報告しておく。


「おめでとうございます! タカシ様のすばらしさであれば、4人の妻を娶るのも当然のことでしょう。ちょっと複雑な気持ちもありますが……」

「そうだねー。先に結婚していたミティやボクのことも、ないがしろにしないでね」

「それはもちろんだ。精一杯がんばっていくよ」


 ミティとアイリスの言葉に、俺はそう返答する。


「ふふん。私のことも忘れないでね。先にパーティを組んでいたモニカとニムちゃんに譲りはしたけど、次は私だからね」

「ああ。ユナとのことも考えているよ」


 もともと結婚していたミティとアイリス。

近いうちに結婚するモニカ。

婚約したニム。

そして、ユナ。

彼女たち全員を幸せにしなければならない。


「みんなで幸せな家庭を築くためには、まずは稼いでいかないとな。それに、叙爵の件もある。何か大きな功績をあげたいが……」

「そうですね。私たちも情報収集をしてみました。なんでも”光の乙女騎士団”というパーティが、西の森の奥地で盗掘団と接触したそうです」


 ミティがそう言う。


「光の乙女騎士団? なかなか大層なパーティ名だな」

「騎士団と名乗っているけど、国などに任じられた正式な騎士じゃないみたいだよ。騎士のように高潔な心で任務を遂行していくという決意を込めているらしい」


 アイリスがそう説明する。


「タカシ様。こちらをご覧ください。彼女たちのリーダーは、特別表彰者です」


 ミティがそう言って、紙を数枚差し出す。

そこにはこう書かれてあった。



二つ名:”白銀の剣士”ソフィア

ギルド貢献値:1200万ガル



「ふむ。なかなか面白そうな人材だな。貢献値こそミティやアイリスより低いものの、そもそも特別表彰されている時点で一定以上の実力はあるだろうしな」


 俺はそう言う。

あと、言葉にはしなかったが、顔もなかなかかわいい。

少し抜けた顔つきではあるが。


「……ん? あと2枚あるな」

「ああ。そちらは”光の乙女騎士団”には関係ありませんが。タカシ様にもお知らせしておいたほうがいいかと思いまして」


 ミティがそう言う。

2枚目と3枚目の紙には、知った顔の写真が描かれていた。



二つ名:”雷竜拳”のマクセル

ギルド貢献値:2500万ガル



二つ名:”マッスルパンチ”ギルバート

ギルド貢献値:1700万ガル



「マクセルさんとギルバートさんか。懐かしいな。彼らもがんばっているようだ」


 マクセルは、武闘の達人だ。

雷竜拳を扱う。

前回のゾルフ杯では、アドルフの兄貴に次いで準優勝したと聞いている。

ガルハード杯では、エドワード司祭、リルクヴィスト、ミティと並んで同時優勝した。


 ゾルフ砦の防衛戦や潜入作戦でも活躍していた。

そして、その件をきっかけに冒険者として活動を始めたのだ。


 あれから8か月。

わずか8か月で特別表彰者になるとは。

チートもないのに、なかなかやるおる。


 ギルバートは、筋肉ムキムキのおっさんだ。

ガルハード杯では2回戦でマクセルに敗れ、メルビン杯では2回戦でモニカに敗れた。


 とはいえ、実力は確かだ。

ゾルフ砦の防衛戦や潜入作戦でも活躍していた。

それ以前から冒険者として活動していたので、実績も豊富である。


「彼らと次に会うのが楽しみだな。わざわざ知らせてくれてありがとう、ミティ」

「いえ。どういたしまして」


 ミティがそう言う。


「マクセルさんは本当に強いからねー。合同訓練でも、いつも勉強させられていたし」

「ギルバートさんも強いよ。次に戦ったら、私が勝てるかどうか……」


 アイリスとモニカがそう言う。


「まあ、今は”光の乙女騎士団”の件が先だな。彼女たちに接触して情報を集めてみようか」

「ふふん。昼間に会ったのだけど……。何か気分を害してしまったのか、有益な情報を教えてくれなかったのよ」

「ふむ? あまり他のパーティに協力的じゃない人たちなのか、たまたま虫の居所が悪かったのか……。ダメ元で、今度は俺が行ってみよう」


 俺はそう言う。


「では、私もお供します!」

「ボクも行くよ。念のためにね」

「ふふん。そうね。私も行くわ」


 ミティ、アイリス、ユナがそう言う。

俺たち4人で行くことになった。

もう夜も遅いので、ニムは留守番だ。

そして、彼女の義理の姉になる予定のモニカも共に留守番となる。


 俺たち4人で、夜の街に繰り出す。

うまく”光の乙女騎士団”に会えるといいのだが。



●●●



 ”白銀の剣士”ソフィアが率いる”光の乙女騎士団”を探して、夜の街を歩く。 

道行く人から情報収集をしたところ、有益な情報を得ることができた。

彼女たちは、とある飯屋で食事中らしい。

目立つ剣を持っているので、わかりやすいそうだ。


 俺たち4人は、そこへ向かう。


「ええと。昼間はなぜか情報を渡してくれなかったのだな?」

「そうですね。私の交渉がマズかったのかもしれませんが」


 俺の問いに、ミティがそう答える。

最初は友好的な雰囲気だったが、途中から態度が変わったそうだ。


「ふむ。では、もっと下手に出て情報提供をお願いしてみるのがよさそうか?」

「うーん。どうだろう……」


 俺の言葉に、アイリスが首をひねる。


「むう。逆に、少し高圧的に接してみるのもありか? ギルド貢献値はこちらが上だしな。せっかくだし、人材のテストも兼ねてみようかな」

「ふふん。それも悪くないかもしれないわね」


 俺の言葉を受けて、ユナがそう言う。


「よし。まずは俺が1人で中に入る。みんなは少し遅れて来てくれ。少し威圧するような雰囲気でな」

「わかりました!」

「おっけー」


 方針は決まった。

俺は周囲の人を威圧できるように、闘気を開放しておく。

そして飯屋の扉を開け、中に入る。


「”白銀の剣”を持った女がここにいるか?」

「「タ、タカシだァ!!!」」


 店内がざわつく。

闘気を開放している影響で、店内の人を威圧することに成功しているようだ。

それに、特別表彰のおかげで俺の知名度もそれなりに高い。

店内が緊張感に包まれる。


 俺は店内を見渡す。

……いた。

カウンター席だ。


 カウンター席に、”光の乙女騎士団”らしき人たちが座っている。

その中でも右端に座っているのが、ソフィアだろう。

確かに、あの銀色に輝く剣は目立つな。

俺はその女のほうを向いて、口を開く。


「へェ…。お前が…? 貢献値1200万ガルの女か………。”白銀の剣士”ソフィア」


 若い女性だ。

ミティやアイリスと同年代くらいだろう。

少しとぼけた、ヘラっとした顔をしている。


 あまり強そうには見えないが……。

いざというときには強いのだろうか。


「何だ……?」

「ソフィアに用みたいだね」

「ねえ、タカシって…。昼間のやつらのリーダーじゃない?」


 ”光の乙女騎士団”の人たちがそう言う。

俺は店内を歩き、彼女たちのところへ向かう。


「俺に一番高い酒だ。それとこの娘にも同じモンを」


 俺はそう言って、カウンター席のソフィアの右隣に座る。


「………ああ」


 店員がそう返事をする。

まずはソフィアに好きなものをおごって懐柔策……と言いたいところだが。

俺の狙いは別にある。


 ……と、そこでミティ、アイリス、ユナも遅れて店内に入ってきた。


「んん? 何だ。満席じゃないですか……」


 ミティがそう言う。

彼女たちがこちらまで歩いてくる。


「タカシ様の隣には私が座ります。どきなさい!」

「何しやがる。……ぐっ!」


 ミティが俺の右隣に座っていた男を力づくで押しのける。

さらに続けて、その隣に座っていた男2人も押しのけた。

これで、ミティ、アイリス、ユナの3人分の席を確保できたことになる。


「………何だ? あの娘は。相当な力だぞ」

「…アイツだろ。”百人力”のミティってのは。それに隣のは”武闘聖女”のアイリスだ」


 店内の客たちがそうつぶやく。

やはり、俺やミティ、アイリスの知名度は高まっている。


「席くらいすぐに空けなさい。気の利かない奴らですね」


 ミティがそう言って、俺の隣に座る。

”少し威圧するような雰囲気で”という俺の指示通りの言動だ。

かわいいミティがやっているのでまだマシだが、やっていることは完全なチンピラである。


 アイリスとユナは、ミティの隣に座った。

これで席順は、左から”光の乙女騎士団”の3人、ソフィア、俺、ミティ、アイリス、ユナの順となった。


「ホラ。お待ちどう」


 そうこうしているうちに、店員が酒を俺たちに持ってきた。

俺はそのうちの1つをソフィアに差し出す。


「まあ飲め」

「おお、ありがとう。……なんだ、いい奴だな」


 ソフィアがのんきにコップに口をつける。

完全に油断している。


 俺は彼女の頭を掴み。

コップごと、テーブルに叩きつけた。


 バキィッ!

木製のカウンターテーブルが割れる。

あとで弁償しよう。


「うわっ!!! やりやがった!!!」

「ぎゃははははっ! ケンカかっ!?」


 店内が騒然となる。

ソフィアは倒れ込んでいる。

少しやり過ぎたか?


「ん…」


 ソフィアが何事もなかったかのように立ち上がる。

やはり特別表彰者。

なかなかのタフさを持つようだ。

まあ、ケガをしていたら俺があとで治療魔法をかけるつもりだったが。


「立ち上がるのか。ハハッハァ!!」


 期待通り……。

いや、期待以上の彼女のタフさを見て、俺はテンションが上がる。


「よし。覚悟できてんだなお前」


 ソフィアがそう言って、俺をにらむ。

臨戦態勢だ。


「オオ!? あいつ、タカシ相手にやる気だぞ」

「わっはっはっは。ケンカだケンカ。やれやれ!!!」


 ギャラリーたちが騒ぎ立てる。

だが、1つ誤解があるな。


「ハハッハハハ!!! こいつはケンカじゃなくてテストさ!! 来い、力を見てやる…」


 強いようなら、盗掘団捕縛の際に強力な味方となるだろう。

それに、俺たちミリオンズへ勧誘するのもありだ。

ギルド貢献値1200万ガルの実力に偽りがないか、見せてもらおう。

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