274話 光の乙女騎士団
タカシ、モニカ、ニムがラビット亭で話し合いをしている頃。
ミティ、アイリス、ユナは、冒険者ギルドに来ていた。
彼女たちが受付まで歩みを進める。
「こんにちは。ネリーさん」
「あら、こんにちは。ミティさん。それにアイリスさんとユナさんも」
冒険者ギルドの受付嬢であるネリーが、そうあいさつをする。
彼女が言葉を続ける。
「本日はどうされましたか? タカシさんの姿がないようですが……」
「今日は情報収集だけだよ。西の森の奥地にいるっていう、盗掘団の情報を集めたくてね」
ネリーの問いに、アイリスがそう答える。
「ああ、盗掘団の件ですか。我がギルドにて、捕縛作戦を考案中です。ミリオンズの皆さんが手伝ってくれるのであれば、とても助かります」
「ふふん。もちろんそのつもりよ。それで、具体的な作戦はどんなものになりそうなの?」
ユナがそう問う。
「そうですね。詳細はまだ決まっていませんが。精鋭揃いの先遣隊数人と、残りの後発隊に分ける予定と聞いています」
「へえ? 精鋭揃いの先遣隊を数人ねえ。どうしてまた?」
「大人数で西の森を移動すると、森の魔物たちを不用意に刺激してしまうリスクがあります。また、盗掘団に存在を察知される可能性も高まります。そのため、少人数の先遣隊により敵勢力を把握し、可能であればそのまま撃破するという方向性で考えています」
ネリーがそう説明する。
彼女が言葉を続ける。
「他の街のギルドにも要請して、特別表彰者で固めた先遣隊を組む予定です。タカシさん、ミティさん、アイリスさんは選出される可能性が高いでしょう。ぜひ参加していただけると助かります」
「わかりました! むんっ」
「うん。ボクももちろん参加させてもらうよ」
ネリーの言葉に、ミティとアイリスがそう答える。
「ふふん。私は残念ながら選出されない可能性が高そうね。まあ、後発隊としてがんばろうかしら。その前に、みんなのためにもっと情報収集をしておきたいわね」
「それでしたら、あちらに座っている”光の乙女騎士団”の方々と話してみてください。彼女たちが西の森の奥地を探索中に、盗掘団と接触したのです。もちろんギルドとしても正式に情報提供は受けていますが、冒険者同士で生きた情報を共有されたほうが有益かと」
ネリーがそう言う。
彼女が指を指した先では、4人の女性がテーブルを囲んで座っていた。
彼女たちが”光の乙女騎士団”だ。
年齢は10代後半くらい。
若手パーティだ。
「それもそうね。わかったわ」
ユナがそう言う。
ユナ、ミティ、アイリスの3人は、”光の乙女騎士団”のほうへ向かう。
”光の乙女騎士団”は4人とも、白銀の鎧を身にまとっている。
ただし、何かがあったのかベコベコに凹んでいる。
その上、汚れている。
せっかくの白銀の鎧が台無しだ。
武器は、4人それぞれ異なる。
剣、槍、弓、そして杖だ。
「ふふん。あなたたちが”光の乙女騎士団”ね?」
「そうだよ。君たちは?」
ユナの問いに、”光の乙女騎士団”の1人がそう返答する。
「私たちは”ミリオンズ”よ。私はメンバーのユナ」
「そう。僕はリーダーのソフィアだよ。それで、何か用なのかな?」
ソフィアがそう問う。
「ええ。あなたたちが西の森の奥で見たという、盗掘団の情報を聞きたくてね」
「ああ。盗掘団の件か。なんでまた?」
ソフィアがそう言う。
「ふふん。私たちが彼らを捕縛するためよ!」
「私たちにかかれば、違法な盗掘団など敵ではありません。蹴散らしてあげます!」
「そうだねー。悪いやつらは捕まえないとね」
ユナ、ミティ、アイリスがそう言う。
「……悪いけど、君たちに渡す情報はないよ。他を当たってくれるかな。ギルドにも情報は渡してあるし」
ソフィアが何かに対して気分を害したのか、突然そっけなくなる。
「ふふん。生きた情報が欲しいのよ。おとなしく情報を渡しなさいな」
「君たちの情報が、街の平和にも繋がっていくんだよ。ちゃんと冒険者としての責任を果たそう!」
ユナとアイリスがそう言う。
「……うるさいなー。あんまりしつこいと、ブッ飛ばすよ」
「ソフィア! それはダメだ!」
ソフィアが煩わしそうに言った言葉を受けて、彼女のパーティメンバーが慌ててそう言う。
「フン…ハハ!! 面白い奴らですね。この私たちをブッ飛ばす…!?」
ミティがそう言う。
彼女は本来は温厚で心優しい気質だ。
しかし、タカシの加護による戦闘能力の急成長によって、少し増長しているところはある。
加えて、彼女が絶対の忠誠を誓っているタカシの叙爵のチャンスだ。
興奮と焦りにより、普段の精神状態とは異なっている。
情報をおとなしく話さない”光の乙女騎士団”に対して、若干の苛立ちを覚えてしまうのも無理はないだろう。
「………それにしても貧相なナリですね。ホラ、好きな武具を持っていっていいですよ」
ミティはそう言って、アイテムバッグから武具を取り出し、床に並べる。
確かにミティの言う通り、”光の乙女騎士団”の4人の鎧はみすぼらしい。
ベコベコに凹んでいる上、汚れている。
せっかくの白銀が台無しだ。
「ミティ。もったいないわよ。コイツラなんかに」
「ハハ……その辺の駆け出し冒険者にプレゼントしたほうが有効でしたかね」
ユナの言葉に、ミティがそう答える。
冒険者たちに高品質な武具をプレゼントして忠義度を稼ぐのは、タカシが考えていた計画の1つではある。
ただ、今回の状況とセリフを考えると、挑発と受け取られてしまいかねない。
「え? いいのか?」
ソフィアがうれしそうに、武具を拾おうとする。
彼女は物事をあまり深く考えないタイプであった。
ミティたちの挑発めいた言動を気にしていない。
だが、ソフィアのパーティメンバーは別だ。
「……! ソフィア。行くわよ!! 不愉快っ」
「ちょ、ちょっと……。自分で歩けるからー」
パーティメンバーの1人に引きずられるようにして、ソフィアは去って行く。
残りの2人もそれに続く。
「何だ…。要らないのですか? ハハハ。ハハハハハッ!!!」
去っていく”光の乙女騎士団”の背中に、ミティの笑い声が響いた。
そして、ユナが何かに気づく。
「ミティ、アイリス。あんまりからかうのも悪いわよ」
ユナがそう言う。
彼女は1枚の紙を手に持っている。
特別表彰者が描かれた紙だ。
「あいつらもあいつらなりに…一生懸命冒険者として活動してきたのよ。ホラ」
ユナがそう言って、その紙をミティに渡す。
そこには、こう書かれてあった。
二つ名:”白銀の剣士”ソフィア
ギルド貢献値:1200万ガル
「そりゃタカシやミティ、それにアイリスと比べればゴミだけど。”並”のレベルじゃよく頑張ってる方ね……!! ーーあァ、どうせ、今度の盗掘団捕縛作戦の先遣隊には選出されやしないだろうけど」
ユナがそう言う。
彼女も特別表彰者ではないのだが、それは棚に上げている。
「ーーですが、へェ……。”1200万ガル”ですか。今のヘナチョコが……? こいつをタカシ様に見せてみましょう」
ミティがいいことを思いついたという顔をして、そう言う。
タカシは、人材の発掘に対して貪欲だ。
新しいパーティメンバー、屋敷の警備員、そしてハーレム要因など。
きっと、興味を示してくれることだろう。
タカシのうれしそうな顔を思い浮かべながら、ミティたちは屋敷への帰路についた。
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