279話 先遣隊vsブギー盗掘団
俺、ミティ、アイリス、マクセル、ギルバート。
盗掘団捕縛作戦の先遣隊が、西の森を進んでいく。
数日後、無事に盗掘団のアジトらしき場所を発見した。
山にたくさんほら穴がある。
大きめのほら穴をアジトとして使用しているようだ。
そこを中心に、盗掘を行っているわけか。
ここで、サザリアナ王国南部の地理を整理しておこう。
ラーグの街は、サザリアナ王国の中の南西部にある。
ラーグの街の南には、巨大な山脈が東西に走っている。
その山脈沿いに東へ向かうと、ゾルフ砦がある。
ゾルフ砦は、サザリアナ王国の中の南東部にある。
また、ラーグの街の西には西の森がある。
西の森をさらに西に進むと、山脈にぶつかる。
俺たちの現在位置はここだ。
この山脈は南北に走っている。
ラーグの街の南山脈と西山脈は途中で合流しており、上から見るとL字のような形状になっているということになる。
俺たちは盗掘団のアジトの様子をうかがう。
入り口あたりには、見張り役が立っている。
こんな森の奥地にはなかなか人は来ないはずだが、最低限の見張りは立てているというわけか。
まあ、人だけじゃなくて魔物も警戒する必要があるしな。
「(みんな。無事にアジトを見つけたな。どうしようか?)」
俺はみんなにそう小声で問う。
「(乗り込みましょうか? 私たちなら、何とでもなるはずです!)」
「(ガハハ! 我もミティの嬢ちゃんに賛成だ!)」
ミティとギルバートがそう言う。
ちょっと威勢が良すぎる気もするな。
ミティとギルバートは、イケイケドンドンな性格だし。
「(うーん。まだ盗掘団の規模がわからないしね……。乗り込むのは危険だと思うけど)」
「(そうだな。もう少し敵の戦力を探りたい。ここ以外にも拠点があるかもしれないし)」
アイリスとマクセルがそう言う。
この2人は、冒険者としての経験はやや浅いものの、対人戦の経験は豊富だ。
戦闘における判断については信頼できる。
「(……よし。乗り込むのはまだだ。もう少し接近して様子を見よう)」
「「「「(了解!)」」」」
俺の言葉に、4人が同意する。
この臨時パーティのリーダーは俺だ。
よほど変な指示でもない限りは、俺に従ってくれることになっている。
5人で慎重に歩みを進める。
俺の気配察知スキルによれば、ほら穴周辺にこの見張り役以外の気配はない。
彼に気づかれないようにさえ注意していればいいだろう。
そう油断していたのがいけなかった。
カランカラン。
俺が何かに足を引っ掛けてしまい、音が鳴り響いた。
どうやら、いわゆる鳴子の仕掛けを作動させてしまったようだ。
「なんだなんだ!? 魔物か!?」
「いや、侵入者だ!」
「であえであえ!」
ほら穴の奥から、盗掘団らしき面々が出てくる。
俺の気配察知スキルでは、ほら穴の奥までは把握できなかったが。
やはり、中には人がいたようだ。
「(まずいな……。撤退しよう)」
マクセルがそう言う。
しかし、撤退は間に合わなかった。
「なんだ、てめえらは!? まさか、冒険者どもか!?」
ちょうど後ろから、盗掘団らしき面々がやってきたのだ。
俺の気配察知スキルは、意識を向けたあたりの生物の気配を察知できるスキルである。
後方は、あまり意識していなかった。
まさか後方から現れるとは。
彼らは魔物の死体を運んでいる。
狩りの帰りだろうか。
「ちっ。ここの場所を嗅ぎつけやがったか!」
「ただで帰すな!」
「囲め囲め!」
前方からは、ほら穴から出てくる盗掘団の面々。
後方からは、狩りの帰りらしき盗掘団の面々。
俺たち先遣隊は、あっという間に彼らに囲まれてしまった。
「うっ。すいません。俺の判断ミスです」
俺がもっと慎重に行動していれば……。
「過ぎたことは仕方がない。何とか応戦して道を切り開こう」
「そうだね。ボクも全力で戦うよ」
マクセルとアイリスがそう言う。
「ガハハ! 我も暴れたくてウズウズしておったのだ! ちょうどいい!」
「そうですね。私も暴れます!」
ギルバートとミティがそう言う。
俺を気遣ってくれているのだろうか。
ありがたい。
まあギルバートとミティのことだし、暴れたいのは本心かもしれないが。
彼らは結構脳筋だからな。
「よし、てめえら。こいつらを生け捕りにしろ! サザリアナ王国との交渉に使えるかもしれん! 活躍した者には褒美をやろう!」
「ひゃっはー! 了解しやした。ブギー頭領!」
「ひーはー! 褒美はオレのモンだあ!」
盗掘団のブギー頭領とやらの指示に従い、下っ端戦闘員たちがこちらに向かってくる。
戦うしかないか。
しかし、ブギー頭領の口ぶりからすると、負けても命までは取られないようだ。
そうなると、こちらとしても致死性の火魔法や剣術は使いにくいな。
うっかり相手を殺してしまうと、報復として俺たちも殺されるかもしれない。
「疾きこと風の如し」
「侵掠すること火の如し」
「聖闘気、”四聖の型”」
俺、ミティ、アイリスは闘気を開放する。
ここは武闘をメインにして戦おう。
幸い、俺たちは3人とも武闘の心得がある。
そして。
「ガハハ! 侵掠すること火の如し」
「動くこと雷霆(らいてい)の如し」
ギルバートとマクセルも武闘家だ。
彼らが闘気を開放する。
マクセルの技は初めて見たが、今は置いておこう。
「ひゃっはー! いったい何が変わったっていうんだ!?」
「ひーはー! 正義の味方気取りの冒険者は、ボコボコにしてやんよぉ!」
下っ端戦闘員が俺たちに駆け寄ってくる。
俺たちの闘気を見てもひるまないとは。
なかなかの胆力だ。
……いや、闘気を感知できていないだけか。
あまりにも実力差があると、相手の強ささえ知覚できないのだ。
「スリー・ワン・マシンガン!」
「迅・砲撃連拳!」
俺とアイリスの連撃だ。
これでまずは牽制する。
そう思ったが。
「「ぐはあっ!」」
下っ端戦闘員が後ろに弾き飛ばされる。
そのままグッタリとしている。
マジか。
これだけでKOとは。
やり過ぎないように気をつけないと。
「ガハハ! マシンガンパンチぃ!」
「雷鳴三卦!」
ギルバートとマクセルも、下っ端戦闘員たちを蹴散らしていく。
「ビッグ……ボンバー!」
ミティが、その場で地面にハンマーを叩きつけた。
ドゴオン!
大きな音とともに、地面に大きな窪みができる。
圧倒的な破壊力だ。
盗掘団の面々に直接的なダメージは与えていないものの、威圧効果は計り知れない。
「ひいぃっ! なんだこいつらは!?」
「聞いてないぜ! ブギー頭領! オレたちには荷が重い!」
まだ立っている下っ端戦闘員たちがそう音をあげる。
「ぐぬぬっ。冒険者ギルドめ。精鋭を送り込んできよったか。……ジョー、ナディア、パルムスたち3人を呼んでこい!」
「ひゃっはー! ジョー副頭領は、こっちに向かっているところですぜ」
「ひーはー! ナディアの姉御とパルムスの兄貴は、B拠点にいるはずです! 俺たちが呼んできやしょう!」
ブギー頭領の言葉を受け、下っ端戦闘員のコンビがそう言う。
彼らには、俺とアイリスで先ほど大ダメージを与えたはずなのだが。
ポーションか何かを使ったのだろうか。
盗掘団の割に、なかなかリッチだな。
その下っ端戦闘員コンビが駆け出す。
彼らが向かった先に、第ニのアジトがあるようだ。
俺たちも追って、潰しておくか。
だが、その前に今目の前にいるやつらを蹴散らしておかないとな。
……と、そんなことを考えているうちに、新たな参戦者が現れた。
「ブギー頭領。お待たせしました。俺にお任せを」
「おお、来たか。ジョー。お前の音魔法で時間を稼いでくれ!」
「御意」
ジョーと呼ばれる大柄の男の参戦だ。
「ジョー副頭領が来てくれたぞ!」
「俺たちもまだまだやれますぜ!」
彼は副頭領のようだ。
ブギー頭領と、ジョー副頭領。
彼ら2人を撃破して捕らえれば、任務の大半は達成したと言っていいだろう。
その後は、第ニの拠点にいる残党を撃破していけばいい。
ナディアとパルムスとかいう幹部クラスにだけは気をつける必要があるが。
ジョー副頭領が参戦したことにより、盗掘団の戦闘態勢は落ち着きを取り戻している。
ここからが第ニラウンドとなる。
「おとなしく降伏する気はないのか? 痛い目を見ることになるぞ」
俺はそう警告する。
「ふん。冒険者どもめ……! 狙いは”オリハルコン”か!? ”蒼穹の水晶”か!? 俺の夢まであと1歩なんだ。てめえらなんかに渡してたまるか!」
ブギー頭領は徹底抗戦の構えだ。
それにしても、オリハルコンや蒼穹の水晶などというめずらしそうな代物を持っているようだ。
俺たちは盗掘団を捕縛しに来ただけで、そのようなお宝の存在は知らなかったのだが。
しかし、せっかくだしいただいておくか。
盗掘団の持ち物だし、強奪してしまってもだいじょうぶだろう。
他人が苦労の末手に入れた宝ってのはまた…格別の味がするもんだ。
グヘヘ。
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