262話 ゾルフ砦へ エドワード司祭に近況報告

 ハガ王国に来て1週間ほどが経過した。


 この1週間で、のんびり観光したり、格闘の練習をしたり、スプール湖でキャッキャウフフと遊んだりした。

メンバーはもちろん、俺、マリア、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナだ。


 それにバルダイン、ナスタシア、六天衆や六武衆も顔を見せてくれた。

彼らはハガ王国の重鎮のはずなのだが。

暇なのだろうか。

まあ、忙しくてもたまには休息が必要だが。


 平和そのもののハガ王国にこれ以上滞在する必要はない。

そろそろこの国を離れる頃合いだ。

バルダインの足の調子も安定しているしな。

完治したと言っていいだろう。


「じゃあまたな。マリア」

『うん! また来てね。タカシお兄ちゃん。それにお姉ちゃんたちも』

「マ、マリアちゃんも元気でね」


 俺、マリア、ニムがそう言う。


「陛下。また遠くないうちに来ます。ご自愛くださいませ」

『うむ。足を治療してくれて、本当に感謝している。これで、国のことだけではなく、個人的な借りもできてしまったな。我にできることがあれば、何でも言ってくれ。力になろう。武力でも、金銭でもな』

「ありがとうございます。そのときは、ぜひよろしくお願いします」


 俺とバルダインが別れのあいさつを済ませる。

それにミティたちやナスタシアたちも、別れのあいさつを済ませていく。


 この国には転移魔法陣を設置済みだ。

また、加護の対象者であるマリアの件もある。

今後もこの国に来る機会はいくらでもあるだろう。



●●●



 ハガ王国の次に来たのは、ゾルフ砦だ。

まあ特に用事はないのだが。


 ハガ王国とゾルフ砦は、そこそこ近い。

そのため、転移魔法のMPの消費量はさほどでもない。

せっかくハガ王国にまで来たことだし、寄っていこうという話になったのだ。


 顔なじみの人にあいさつをしていこう。

まずは、エドワード司祭とメルビン師範だ。

ギルバート、ジルガ、ミッシェル、マーチンあたりにもできれば顔を見せておきたいところではある。


「さて。まずは、エドワード司祭のところに行くか」

「そうだね。彼は、教会にいるはずだよ」


 ゾルフ砦には、聖ミリアリア統一教の教会がある。

エドワード司祭の依頼により、少し前に建設されたものである。

みんなでそこへ向かう。


 少し歩き、教会が見えてきた。


「ふふん。こんな立派な教会ができていたなんてね。前に私が来たときにはなかったはずだけど」

「ああ。4か月ほど前……去年の11月頃に建てられたらしいぞ」


 ユナがこの街に来たのは、防衛戦があった6月頃だ。

エドワード司祭が教会の建設を依頼したのは、防衛戦や後処理が終わって落ち着いた8月頃。

完成したのは11月頃だ。

ユナが知らないのは当然だ。


 さほど大きくはないが、しっかりとした教会である。

どことなく厳かな雰囲気もある。


 俺とアイリスは、去年の12月7日にこの教会で結婚式を挙げた。

今は3月だ。


 もう3か月経つのか。

月日が経つのは早いものだ。

彼女に愛想を尽かされないよう、がんばっていかないとな。


 そんなことを考えつつ、教会の中に入る。


「こんにちは。お久しぶりです。エドワード司祭」

「やっほー」


 俺とアイリスでエドワード司祭に声をかける。


「……ん? おお、タカシ君にアイリス君。それにミティ君たちも。久しぶりですね。元気にしていましたか?」

「ボクたちは元気だよ。エドワード司祭も元気そうだね」


 アイリスがそう言う。

俺たちミリオンズは、全員が元気だ。

ステータス操作や加護の恩恵により、全体的に身体能力が高めだからな。

それに多少のケガや体調不良は、俺とアイリスの治療魔法により治療できる。


「おかげさまでね。アイリス君たちは、どうしてここに? タカシ君との結婚生活が嫌になりましたか?」

「それはだいじょうぶだよ。……3人目の奥さんが増えそうだけどね」


 アイリスがジト目で俺を見る。

3人目というのは、モニカかユナのことだろう。

彼女たちは、俺との結婚を意識してくれている。


 また、ニムとも将来的にはそういう話もあるかもしれない。

そういえば、このサザリアナ王国では、何歳から結婚できるんだろう。


 この国の常識や文化は、もちろん日本とは異なる。

14歳や12歳で結婚できてもおかしくはない。

ニムはまだ10歳と少しなので、さすがにまだ早いだろうが。


「3人目ですか……。奥さんが増えても、ちゃんとアイリス君のことを大切にしてくださいね」

「もちろんです」


 エドワード司祭の言葉に、俺はそう返答する。

アイリス、ミティ。

それに、モニカ、ユナ、ニム。

結婚した人には、惜しみない愛を注ぐつもりである。


「愛さえあれば、なんとかなるでしょう。タカシ君であれば、稼ぎは心配ないでしょうしね。噂を聞きましたよ。なんでも、サザリアナ王国とウェンティア王国の国境付近の紛争を解決したとか。ここゾルフ砦の冒険者ギルドでも、ちょっとした騒ぎになっていました」


 エドワード司祭がそう言う。

俺の活躍ぶりは、遠くのこの地にまで届いていたようだ。


 ウォルフ村の一件で、俺のギルド貢献値は上がった。

また、ミティとアイリスは新たに特別表彰者になった。

改めて二つ名とギルド貢献値を整理しておこう。



二つ名:”紅剣”のタカシ

ギルド貢献値:5500万ガル


二つ名:”百人力”のミティ

ギルド貢献値:1800万ガル


二つ名:”武闘聖女”アイリス

ギルド貢献値:2100万ガル



「俺たちの活躍が、ここまで届いていたのですね。うれしいことです」

「へへーん。ボクもがんばったんだよ」


 アイリスがドヤ顔でそう言う。

調子に乗るのは彼女の悪癖だが、今回は本当にがんばっていた。


 ウォルフ村でオウキ隊長を撃破し。

アルカの協力を取り付けて。

ディルム子爵領でキメラを撃破し。

戦後にケガ人たちを治療して回り。

街の復旧作業を手伝い。

そして、ディルム子爵の父親の難病を治療した。


「調子に乗らないこと。……と言いたいところですが、今回は手放しでほめておきましょう。よくがんばりましたね。アイリス君」

「う、うん。こう素直にほめられると、なんだか調子が狂うなあ」


 アイリスが照れくさそうにそう言う。


「胸を張ってください。立派な二つ名をいただいたようですしね。確か、”武闘聖女”でしたか」

「あっ。それも知っているんだ。……勝手に聖女を名乗って、怒ってない?」

「だいじょうぶですよ。冒険者ギルドがそう名付けただけでしょう。アイリス君に怒っても仕方ありません。まあ、聖ミリアリア統一教会から冒険者ギルド本部には、クレームがいくでしょうが。”聖女という言葉を気安く使うな”とね」


 エドワード司祭がそう言う。

アイリスも、ディルム子爵領で”聖女さま”と住民たちから呼ばれたときには、少し微妙そうな顔をしていた。

聖ミリアリア統一教会においては、聖女という肩書には特別が意味があるそうだ。


「うーん。まあ、もともと聖女認定も目指していたしね。早いか遅いかだけの違いだよ」

「強気ですね。期待していますよ。……さて。聖女の件は置いておくとして、アイリス君にはいいニュースがあります。手紙でお知らせしようとしていたのですが、直接来てくれて手間が省けました」

「いいニュース? なんだろう」


 アイリスが首をかしげる。


「アイリス君は、晴れて武闘神官見習いを卒業です。これからは武闘神官と名乗ってください。そして、役職も助祭へと昇格です」

「えっ。うそ!? ……やったあ!」


 アイリスが満面の笑みで喜ぶ。


 聖ミリアリア統一教会の階級は、一般信徒<助祭補佐<助祭<司祭<司教<枢機卿となっていると以前聞いた。

そして、武闘神官はこの階級の枠組みとは別に定められている制度である。


 エドワード司祭は、武闘神官兼司祭。

アイリスは、武闘神官見習い兼助祭補佐であった。

今回の昇格で、武闘神官兼助祭ということになる。


「おめでとうございます。がんばってきたかいがありましたね」

「おめでとう、アイリス」


 エドワード司祭と俺でそう祝福する。

ミティやモニカたちも、祝いの言葉を口にしている。


「ありがとう。これからも世のため人のためにがんばっていくよ。もちろん、タカシやミティたちと幸せな家庭を築くことも忘れないけどね」


 アイリスがそう言う。

滅私奉公は美徳ではあるが、度が過ぎると家族にとっては害悪になりうる。

アイリスは、そのあたりのバランスは適度に取れている。


 俺、アイリス、ミティ。

それに、今後の流れ次第では、モニカ、ユナ、ニムたちとも家族になるかもしれない。

みんなでがんばって、幸せな家庭を築いていきたいところだ。

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