263話 ハルク男爵邸へ

 ゾルフ砦にて、エドワード司祭に近況報告をした。

アイリスの武闘神官見習いからの卒業といういいニュースがあった。


 その後、メルビン師範にあいさつしたり、冒険者ギルドに顔を出したりした。

ギルバートやジルガ、それにミッシェルやマーチンにあいさつしておいた。


 次の目的地は、ハルク男爵の街だ。

彼の娘のサリエの様子を見ておきたい。


 サリエとハルクの忠義度は、それぞれ30を超えている。

加護の条件を満たす忠義度50に対して、あと1歩というほどでもないが、それなりにいい値ではある。

ずっと放置しているよりは、定期的に顔を出して維持しつつ、さらなる上昇を狙ったほうがいいだろう。


 ハルク男爵の街には、転移魔法陣を設置していない。

無闇に設置しすぎると、常時消費するMP量がバカにならなくなってくるからな。


 転移魔法陣を利用してここゾルフ砦からラーグの街に移動し、それから馬車で移動するのがいいだろう。

俺たちがハガ王国やゾルフ砦に行って不在の間は、ラーグの街で有料で馬の面倒を見てくれるところに預けておいた。

今後も利用する機会は多そうだ。


 ただ、毎回預けたり引き取ったりするのは少し手間だ。

できれば俺の屋敷の敷地内で飼いたいところではある。


 金には相当な余裕があるし、人を雇うことは問題ない。

奴隷を購入してもいいかもな。


 まあ、馬の世話係よりも、戦闘員やメイドを先に雇いたいところではあるが。

敷地内で馬を飼うと、匂いも気になる。

対策を一考する必要がある。



●●●



 数日後。

ミリオンズのみんなでハルク男爵の街にやってきた。


 屋敷に赴く。

門番からメイドへと引き継がれ、屋敷の中へと案内される。

客室に通され、ハルク男爵とサリエと対面する。


「ハルク男爵。お久しぶりです」

「おお。タカシ君。久しぶりだね」


 俺とハルク男爵で、あいさつを交わす。


「お久しぶりですわ。タカシさん、アイリスさん」

「久しぶりー。元気そうだね」


 サリエとアイリス。

それにミティ、モニカ、ニム、ユナも、それぞれあいさつを交わす。


「ああ。君たちの治療のおかげで、サリエの体調はすこぶる調子がいい。念のために週に一度は治療魔法士を呼んではいるが、それもそろそろやめようかと考えているぐらいだ」

「ええ。体力も少しずつですが戻ってきました。最近では、街に散歩に行くこともあるんですよ」


 ハルク男爵とサリエがそう言う。

彼女を治療してから2か月ほどが経過している。

この2か月で、最低限の基礎体力は戻っているようだ。


「そうですか。それは何よりです」

「念のために様子を見に来たんだけど、無用な心配だったみたいだね」


 俺とアイリスはそう言う。


「いえいえ。来てくださってとてもうれしいです。また冒険の話を聞かせてください」

「うむ。せっかくだし、ディナーに招待しよう。ゆっくりしていってくれ」


 サリエとハルク男爵がそう言う。

サリエは、以前から冒険者に興味を持ってくれている。

まあ彼女自身が冒険者になりたいというよりは、物語の一種として楽しんでいるような感じだが。


 サリエは武芸の心得がない。

基礎体力もない。

残念ながら、加護の条件を満たさない限りは俺たちミリオンズに加入するわけにはいかないだろう。


 そういう点では、ユナはさすがと言わざるを得ない。

彼女は加護の条件を満たす前から、ミリオンズに一時加入して行動を共にしていた。

攻撃力という点では俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニムには見劣りしていた。

しかし、冒険者としての判断力や立ち回りにおいては、経験の豊富さを感じさせる優秀さがあった。


「ありがとうございます。ごちそうになります」

「またおいしい料理が食べられるんだね。勉強になる」


 モニカがそう言う。

彼女は料理人だ。

貴族向きの料理をこの機会に味わって吸収していくつもりだろう。

以前ここに滞在したときや、ディルム子爵邸で何度かごちそうになったときにも、熱心に味わって食べていた。


「ディナーまで時間がある。私は仕事が少し残っているので、申し訳ないがそれまで離れせてもらおう」

「私は、少し休憩させてもらいますね」


 ハルク男爵とサリエがそう言う。


「わかりました。俺たちは……」

「そうだな。タカシ君たちは、客室でゆっくりしていてくれ。……おおい! セルバス。タカシ君たちをご案内しろ」

「ははっ。承知しました。……タカシ様、それに皆様。こちらへ」


 執事のセルバスの案内に従い、俺たちは屋敷の中を歩いていく。

相変わらず、なかなかの豪邸だ。

ディルム子爵邸よりは少しだけ小さいかもしれないが。


 家の大きさで言えば、日本の一般住宅≦この世界の一般住宅<<タカシ邸<ハルク男爵邸≦ディルム子爵邸といったところか。

俺の家も、なかなかの広さを持つ。

パーティ資金には余裕があるし、そろそろ執事やメイドを雇いたいな。

そんなことを考えつつ、歩いていく。


「こちらでございます。以前ご案内したときと同じ状態にしております。どうぞ我が家のようにくつろいでくださいませ」


 セルバスに通された部屋は、大きな客室だ。

以前来たときにも、この部屋に案内され、数日間泊まった。


 大きな部屋の中に、さらに小部屋がいくつかある。

ベッドは全部で6つ以上ある。

俺たち全員でこの部屋に泊まることができる。


「相変わらずいい部屋ですね。ありがとうございます」

「いえ。お嬢様の恩人に対して当然のおもてなしでございます。……では、私はこれで失礼致します。定期的に様子をうかがいに参りますが、何かご用向があれば、そちらのベルにて連絡をお願いします」


 セルバスがそう言って一礼し、去っていった。


「きゃっほー!」


 アイリスが叫び、ベッドにダイブする。

ニムもそれに続く。


「ふかふかのベッドだー!」

「や、やわらかいです。いい気持ちです」


 アイリスとニムがそう言う。

君たち、前も同じことをしていたよね。


「タカシ様。またいっしょにお風呂に入りますか?」


 ミティがそう言う。

ここの風呂はでかい。

みんなでいっしょに入ろうとすれば、入れるだろう。


「そうだな。ぜひお願いしたい!」


 俺は土下座せんばかりの勢いでそう言う。

混浴は男のロマンだ。


「もう、しょうがないなー」

「私もいいけど……。責任はとってね」


 アイリスとモニカがそう言う。

モニカが言う責任とは、結婚のことだろう。

彼女は最近、結婚のことをよく口にする。

いよいよ彼女との結婚も現実味を帯びてきた。


「ふふん。ちょっと恥ずかしいけど、私もいいわよ」

「わ、わたしもだいじょうぶです!」


 ユナとニムがそう言う。

ユナとの混浴は、初めてとなる。

彼女の裸体を拝むのが楽しみだぜ。

ぐへへ。


「後でみんなで入りましょう!」

「そうだな! 楽しみにしておこう」


 ミティの言葉を受けて、俺はそう言う。

お風呂はディナーの後になる。

お楽しみはディナーのあとで、というわけだ。

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