253話 治療回りと復旧作業の手伝い

 キメラの件があった翌日になった。

昨日は、ある程度大きなケガをしている人だけを治療しておいた。

そして、俺たちミリオンズやウォルフ村の戦士たちは、街の宿屋に泊まった。


 今日は、俺とアイリスで残りの治療を手伝っていく予定である。

ユナ、ミティ、モニカ、ニムは別行動だ。

彼女たちは街の復旧作業を手伝う。

ドレッドとジークも同じく復旧作業を手伝う。

シトニとクトナ、それにウォルフ村の戦士たちは、状況の報告のためにウォルフ村に帰っていった。


「さて、治療していくか」

「そうだね。ボクもがんばるよ」


 さっそく、俺とアイリスで街のケガ人を治療していく。

まずは領軍の兵士たちだ。

俺たちとの戦闘や、キメラとの戦闘によって負傷した人がたくさんいる。


「……神の御業にてかの者を癒やし給え。ヒール」


 俺は初級の治療魔法を発動する。

ケガ人とはいっても、軽傷の人が多い。

自然治癒でもそのうち治るぐらいのものだ。


「……神の御業にてかの者を癒やし給え。ヒール」


 アイリスも、俺から少し離れたところで順番に治療魔法をかけている。

しばらくして、俺とアイリスは数人ずつの治療を終えた。

一度彼女と合流する。


「ふう。なかなか人数が多いな。時間がかかりそうだ」


 最初は兵士たちを治療していた。

噂を聞きつけたのか、いつの間にか民間人も並んでいた。

まあもちろん、ケガ人を差別したりはしないが。

人数が増えて、なかなか終わりそうにない。


「そうだねー。エリアヒールの合同魔法を試してみようよ。せっかくだし」


 アイリスがそう言う。

同系統の属性の魔法は、複数人で息を合わせることにより効力を増幅させることができる。


 かつて、サザリアナ王国の男爵家の娘であるサリエを治療を試みたときは、上級治療魔法のリカバリーでもまだ完治はできなかった。

そこで使用したのが、リカバリー同士の合同魔法だ。

これにより、サリエの病を完治させることができた。


 そういえば、サリエのその後の容態も少し気になるな。

おそらくは問題ないとは思うが。

治療したのは、1か月半ほど前のことだ。

この1か月半で、体力なども戻っているかもしれない。

この街やウォルフ村での用事がひと段落したら、またサリエの様子を見に行ってみようかな。


 ……おっと。

話がそれたな。


「エリアヒールの合同魔法か。確かに、練習にはいい機会だな。一刻を争う重傷の人はいないようだし、万が一失敗しても問題ないしな」


「うん。もちろん、成功させるつもりではいるけどね」


 俺とアイリス。

2人で、息を合わせて治療魔法の詠唱を開始する。


「「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」」


 周囲に大きな優しい光が発生する。

成功だ。

俺たち2人の息の合った合同魔法が発動した。


「こ、これは……」

「痛く……ない。治療魔法だ!」

「あの人たちがかけてくれたようだぞ。確か、冒険者のタカシさんとアイリスさんだ!」


 兵士や民間人たちが俺たちを見て、そう言う。

ふふふ。

俺たちも有名になったものだな。


「タカシ? 初めて聞く名前だ」

「紅剣のタカシさんを知らねえのか。期待の新星だぜ!」

「貢献か。確かに、街の平和に貢献してくれているものな!」

「いや、その貢献じゃない。くれないの剣と書いて、紅剣だ」

「俺は見たぜ! でっかい怪物を、あの紅い剣で鋭く斬りつけているのをな!」

「うおおおお! 紅剣! 紅剣!」


 兵士や民間人たちから、コールが巻き起こる。

少し照れくさいが、うれしい気持ちもある。

俺は手を振って声援に応える。


「ふーん。いいなあ、タカシ。ボクもがんばったのに」

「そうだなあ。やっぱり、特別表彰者でもともと顔が売れているからかな?」

「そうだろうねえ。ボクも、もっとがんばらないとな」

「……いや、待て。みんなの声をよく聞いてみろ」


 兵士や民間人たちからのコールは、俺に対してのものだけではない。


「女性のほうは、アイリスさんか。あまり聞いたことのない名前だな」

「なんでも中央大陸から来た武闘神官とやらの見習いらしい。各地で困っている人を助けて回っているとか」

「なんじゃそりゃ!? すげえな。聖女さまかよ」

「それに、武闘の実力もすげえぜ。あの怪物を素手で殴り飛ばしていた。それに、何でもオウキ隊長との勝負に勝ったとか」

「マジかよ。武闘に優れた聖女。武闘聖女か」

「武闘聖女さま!」

「聖女さまー!」


 兵士や民間人たちがアイリスをそう呼ぶ。


「聖女さま? いいえ、通りすがりの武闘神官見習いです」


 アイリスがそう言って、照れくさそうに顔を隠す。


「どうしたんだ? いいじゃないか、聖女で」


「うーん。聖女は、聖ミリアリア統一教の認定がないと名乗りにくいんだよ。もちろん、宗派外の人が勝手にそう呼ぶのを止めたりはしないけど……。なんとなく照れくさい」


 アイリスがそう言う。

聖女という肩書には、何やら特別な意味があるようだ。


 その後も、俺とアイリスで治療回りを行っていった。

兵士や民間人たちにも、感謝してもらえたと思う。

彼らの忠義度もそれなりに上がっていた。


 こういう社会貢献でも、忠義度は広く浅く稼ぐことができる。

加護付与には忠義度50が必要なので、どちらかといえば狭く深く稼ぎたいところではあるが。

今回の件も決して無駄とはならないだろう。

こういう日々の積み重ねが大切なのだ。



●●●



 次の日になった。

治療回りは昨日である程度は片付いた。

残りは領軍の治療魔法士にやってもらう。


 俺たちは、力仕事だ。

ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

それにドレッド、ジークとともに作業を行う。


「よし。みんな、がんばろうな」

「お任せください。むんっ!」


 ミティがそう言って、張り切る。


 力仕事といえば、もちろんミティだ。

現状のミリオンズの腕力のステータス値を整理してみよう。

ミティ:333

タカシ:115

ニム:93

アイリス:92

ユナ:78

モニカ:52

以上のようになっている。


 ミティがぶっちぎりで強い。

ステータスの数値としては、ミリオンズ内で2位の俺の3倍近くある。

彼女の腕力は非常に頼りになる。


「わ、わたしもがんばります!」

「もちろんボクも、昨日の治療回りに引き続きがんばっていくよ」


 ニムとアイリスがそう言う。

実は、ミリオンズ内で3番目に腕力が強いのはニムだ。

腕力強化のスキルをレベル2にまで伸ばしているからな。


 ニムは見かけ以上に力が強い。

ラーグの街でチンピラを撃退したことがある。

メルビン師範との模擬試合では、予想以上の腕力でメルビン師範がバランスを崩したこともあった。

メルビン杯1回戦では、ビリーを相手に勝利を収めた。


 俺のチートの恩恵によるところが大きいとはいえ、彼女は頼りになる戦力として成長してくれた。

今や、俺たちミリオンズになくてはならない存在だ。


 さっそく、俺たち8人で街の復旧作業の手伝いを始めていく。

領軍の兵士が俺たちに指示をくれる。


「これをあの屋根の上に持っていってくれないか」

「わかった。任せてよ」


 モニカが荷物を受け取り、そう言う。


「ちょっと待っててくれ。今、はしごを持ってくるから」


 依頼した兵士がそう言う。

しかし。


「はしごは要らないよ。……青空歩行」


 モニカが高くジャンプし、さらに空中でジャンプをして、屋根の上に登った。

見事な身のこなしだ。


「え、ええ? いったい何が起きた……?」

「わからん。空中でジャンプしたように見えたが……。そんなはずが……」


 兵士たちが驚きに目をむく。


「へへへ。鍛え抜かれた脚力を使えば、空中でジャンプできるそうだぜ。俺も痛い目に合わされた」


 カザキ隊長が現れ、そう言う。


「すごいでしょ。脚力と料理には自信があるんだ」

「へへへ。しかし、屋根の上に登るだけなら、俺でもできるぜ」


 カザキがそう言って、魔法の詠唱を開始する。


「……解き放て。レビテーション。そして……爆ぜろ。リトルボム」


 カザキが爆風によりふわりと上昇し、モニカの隣の屋根に登る。

これが、モニカが言っていたカザキの戦闘スタイルか。

確か、重力魔法で体重を軽くしているのだったか。


「むう。なかなかやるね」

「へへへ。俺もどんどん作業を手伝っていくぜ。任せときな」


 そんな感じで、高所の作業はモニカとカザキが率先して行っていく。


「私たちもやっていきましょう。この木材をあそこまで運ぶそうです」


 ミティがそう言う。

彼女が丸太数本に手をかける。


「いけそうか? 無理はするなよ」

「問題ありません。ふんっ」


 ミティが丸太数本をまとめて持ち上げる。


「相変わらずすごい力だな。さすがだ。ミティ」

「えへへ。ありがとうございます」


 ミティがうれしそうにそう言う。


「俺も負けてられん。……と言いたいところだが、俺では1本が限界だな」

「おう。俺もそれぐらいだな」


 俺とドレッドはそう言う。

それぞれ、丸太1本を1人で持ち上げる。


「わ、わたしは小さめの丸太1本なら、なんとか1人でだいじょうぶです」

「ボクも同じくらいかなー」


 ニムとアイリスがそう言う。

彼女たちは、俺やドレッドよりもやや小さめの丸太をそれぞれ1人で持っている。


「ふふん。みんなすごいわね。私は到底ムリだわ」

「…………我もムリだ。獣化すればまだしも、通常状態では厳しい。2人で持とう」


 ユナとジークがそう言う。

彼女たちは、2人で通常サイズの丸太1本を持っている。

獣化すれば1人で持つことも可能なようだが、ただの復旧作業でそこまではしないようだ。

まあ、赤狼族のことを広めるのは時期尚早だろうしな。


 そんな感じで、みんなで力仕事を行っていく。

特に目を引くのは、もちろんミティだ。

小さい体で丸太数本を軽々と運んでいく姿は、注目の的となる。


「す、すげえぞ、あの嬢ちゃん!」

「1人で何人分もの仕事をしている……。彼女がいれば百人力だ!」

「百人力! 百人力!」


 兵士や民間人から、そういった声があがる。

現ハガ王国でも見たことがあるような光景だ。

彼女の二つ名は百人力で定着しつつある。


 そうして、街の復旧作業は順調に進み、俺たちの名声も少し広まっていった。

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