233話 それぞれの苦戦

 タカシとユナがアカツキ総隊長と対峙している頃。

ミティはガーネット隊長と交戦していた。

”負け知らずの戦闘狂”と称される、高い戦闘能力を持つ女性の隊長である。


 いや……。

交戦というと語弊がある。


「はあ、はあ……」


 ミティは逃げていた。

木々が生い茂る森の中を、彼女はジグザグに逃げ回る。


「ははははは! お嬢ちゃん。足はそれなりに速いようだな! しかし、逃げるだけじゃ私には勝てんぞ!」


 追いかけるガーネットがそう言う。

この追いかけっこを楽しんでいる顔をしている。

彼女は興奮した顔のまま、追撃の投擲を行う。


「そらそらあ!」


「うっ」


 ガーネットが投擲したいくつかの石がミティに当たる。

彼女が痛みにうめくが、逃げる足を止めることはない。


 ガーネットは、戦闘狂という二つ名ではあるが、考えなしに突進するような戦闘スタイルではない。

彼女はあらゆる戦闘技法に精通していた。

相手が逃げ回るのであれば、追撃としての投擲を行うまで。


 先ほどからガーネットが投擲しているのは、握りこぶしほどのサイズの石だ。

1つ1つは致命傷になりはしない。

しかし、度重なる投石はミティの体力をジワジワと削りつつあった。


「(ここじゃダメ……。もっと離れないと)」


「ははははは! もっと私を楽しませろ! いい声で鳴いてくれ!」


 興奮したガーネットが、ミティを追跡していく。

投擲により、ミティにダメージが蓄積していく。

ミティは劣勢に追い込まれていた。



●●●



 ミティがガーネット隊長から逃げ回っている頃。

アイリスは、オウキ隊長と交戦していた。

”過去何度も死線をくぐり抜けてきた不死身の男”と称される、高い耐久力を持つ男である。


「いくよ! はああ! 砲撃連拳!」


「ぬうう! 効かぬ!」


 アイリスのパンチの連撃を、オウキが平気な顔をして防ぐ。

彼はフルプレートの防具を着ている。

生半可な攻撃は効かない。


「ふはは! まさか、丸腰で戦いに臨む者がいるとはな。それで我に勝てると思っているのか?」


「思ってるよ。……はああ! 裂空脚!」


「ふん!」


 アイリスの鋭い回し蹴りを、オウキが受け止める。


「効かぬわ! たかが格闘でこのフルプレートの防御は破れぬ。諦めるがよい」


 オウキが淡々とそう言う。

ダメージを与えられないのであれば、アイリスに勝ち目はない。

はたして、この勝負はどうなってしまうのか。



●●●



 アイリスがオウキ隊長と交戦している頃。

モニカは、カザキ隊長と交戦していた。 

”わずか19歳で隊長に抜擢された天才”と称される、若手の有望株だ。


「……はああ! 裂空脚!」


「おっと!」


 モニカの鋭い回し蹴りを、カザキがひらりとかわす。


「危ねえ危ねえ。思ったよりも速いじゃねえか。こりゃ、距離を取って戦わないとな」


 カザキがそう言って、モニカから距離をとる。


「距離を取ってもいっしょだよ」


「なんだと?」


 モニカが小声で雷魔法の詠唱を進める。


「……我が敵を撃て! ライトニングブラスト」


「む!? うおおっ!」


 カザキが高速反応で何とか雷魔法を回避する。

見てから回避余裕でした。


「ちぇっ。これも避けられたか」


「なるほどな。近づけば格闘、離れれば雷魔法か。厄介な嬢ちゃんだぜ」


「それほどでも。できれば降参してくれるとありがたいんだけど?」


「いや、そういうわけにはいかねえな。これでも隊長なんでね。それに、嬢ちゃんの戦闘スタイルには弱点がある」


「弱点? そんなものはない。いくよ!」


 モニカが再び接近して格闘戦を仕掛けようとする。

しかしその前に。


「……爆ぜろ! リトルボム」


 ボン!

カザキとモニカの間で、何かが爆発した。

カザキの爆破魔法だ。


 モニカにダメージはない。

辺りに砂埃が発生し、モニカがカザキの姿を見失う。


「くっ。どこへ……」


「……爆ぜろ! リトルボム」


 どこからかカザキの声がする。

爆破魔法による追撃だ。


 小さな火の玉のようなものがフラフラと飛んでくる。

それが地面にぶつかり、爆ぜる。


 モニカは何とか爆破を避ける。

そして、カザキの声がした方向を見る。

上だ。


「なっ!? と、飛んでる……?」


「そうだぜ! これが俺の戦闘スタイル! 希少な爆破魔法と重力魔法の合わせ技だぜ!」


 カザキが空を飛びながらドヤ顔でそう言う。

正確に言えば、飛行というよりは滑空に近い。


 重力魔法で自身の体重を軽くし、爆破魔法による爆風で空に飛び立つ。

腕に仕込んでおいた翼のようなもので、ゆっくりと滑空する。

このときも重力魔法をかけ続けているので、通常よりも滞空時間は長い。


 そしてある程度降下してきたタイミングで爆破魔法を使い、再び飛翔する。

こうして、擬似的な飛行能力を得ているのだ。


「へへへ。空を飛ぶ相手には手も足も出まい! 格闘はもちろんだが、雷魔法も上方への射出には不向きだからな!」


「くっ。でも、攻撃できないのはお互い様だよ」


「そうでもねえぜ! ……爆ぜろ! リトルボム」


 カザキから放たれた爆破魔法が、モニカを襲う。

何とか回避はするが、爆発の余波によりじわじわとダメージが蓄積していく。


「へへへ。勝負は見えたなあ! こりゃ相性のいい相手と当たったもんだぜ!」


 カザキがそう言う。

確かに、彼はモニカにとって相性の悪い相手だ。

はたして、モニカはこの劣勢をくつがえすことができるのだろうか。



●●●



 モニカがカザキと交戦している頃。

ニムは、ダイア隊長と交戦していた。

60歳にしていまだ現役の、ベテランの隊長である。


「ご、ご老体といえども容赦はしません。降参するならば、今のうちですよ?」


「ほっほっほ。生きのいいお嬢ちゃんじゃの」


 ニムの強い言葉を、ダイアが気にかける様子はない。

どこ吹く風だ。


「降参するならば今のうちか。それはこっちのセリフじゃの」


 ダイアが優しい目でニムを見る。

彼が言葉を続ける。


「ワシには、君ぐらいの孫がおっての。痛めつけるのは心が痛い。抵抗せんでおくれ」


「そ、そういうわけにはいきません」


 ダイアからの降伏勧告に、もちろんニムは応じない。

彼女は、タカシに恩義を感じている。

そのタカシがこの村の力になると言っているのだから、彼女もそれに従うのである。


 それに……。

ニムは、タカシによって強化された自分の力に、自信を持っていた。

メルビン杯で1回戦を突破したのは記憶に新しい。

そんじょそこらの相手にはやられるつもりはない。


 ニムの強い目を見て、ダイアがため息をつく。


「やれやれ。仕方がないの。……行くぞ、鉄刀カグラ」


 男が剣を抜く。

彼は熟練の剣士であった。


「自分の血でも見れば気が変わるかの。顔には傷をつけないように気をつけるがの。もしもということもある。降参したくなったら、早めに言うのじゃぞ」


「そ、それはこっちのセリフです!」


 ダイアとニムの戦いが始まる。

両者、少し離れたところでにらみ合う。


 緊迫した雰囲気が流れる。

ニムの集中力が少しだけ切れた、その瞬間。

ダイアが動く。


「抜刀術居合……古閑の太刀」


「うっ!」


 ダイアの高速の居合術により、ニムが傷を負う。

ダイアのスピードはかなりの水準である。

視力強化などを取得していないニムでは、反応し切れない。


「ほほ。今のは薄皮1枚を斬っただけじゃ。もう1度言おう。早めに降参してくれ。悪いようにはせん」


「そ、そういうわけにはいきません。ユナさん、それにタカシさんのために」


 ニムの精神力は強い。

10歳と少しの少女とは思えない精神力である。

彼女は徹底抗戦の構えだ。


 はたして、戦局はどちらに傾くのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る