232話 ディルム子爵一行、来襲

 スキルを強化してから、1週間が経過しようとしている。

そろそろ、ディルム子爵たちが来てもおかしくない頃だ。


 この1週間で、ユナや村の戦士たちとも対応方針や作戦をきちんと相談しておいた。

今は、村の戦士たち数人がディルム子爵領方面の偵察を行っている。

残りは村で待機中だ。


「ふう。緊張してきたな。うまく戦えるだろうか……」


 ガチの対人戦は久しぶりだ。

少し前にメルビン杯に出場したが、あれは武闘の大会である。

衆人の前での試合だし、あれはあれで緊張したが。


「がんばりましょう! 私たちならきっとだいじょうぶなはずです」


「そうだね。村の平和のためにも、全力を出すしかないよ」


 ミティとアイリスがそう言う。

彼女たちはさほど緊張していないようだ。

まあ、今回もステータス操作でスキルを強化したしな。

そんじょそこらの兵士では、彼女たちの相手にもならないだろう。


 モニカとニムも落ち着いている。

俺もがんばって心を落ち着かせる。

しばらくして、ユナがやってきた。


「ふふん。偵察員から情報が入ったわ。ディルム子爵一行がこの村に向かっていることを確認したって。あと1時間もあれば着くでしょうね」


「わかった。各自、持ち場に向かおう。くれぐれも無理はするなよ」


 ユナの言葉を受けて、俺はそう言う。


「うん。タカシも気をつけてね。みんながんばろう」


「わ、わたしもがんばります!」


 モニカとニムがそう言う。


 ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

それぞれが持ち場に向かう。

彼女たちとは一旦お別れだ。


 今回の防衛戦では、村から少し離れたところで迎撃する。

村を戦場にすることは避けたいからだ。

他にも、非戦闘員を人質にとられるリスクや、家屋に火をかけられるリスクもあるしな。


 ディルム子爵領方面に、俺やユナ、それに村の戦士たちを多数配置している。

ここを中心に迎撃する心づもりだ。


 そして、念のために他方面にも戦力を配置している。

ディルム子爵一行が借金返済を名目に、奴隷として村人を誘拐する可能性もあるからな。

各方面には、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、そして村の戦士たちがいる。


 さて、どうなるか。

俺は緊張しつつ待機する。

とうとう、ディルム子爵一行の馬車がやってきた。


 馬車からディルム子爵が降りてくる。


「くくく。また来てやったぞ。さあ、金貨1000枚を差し出せ。無理なら、あの娘を奴隷として差し出せ」


 ディルム子爵がそう言う。

あの娘というのは、シトニのことだろう。

彼女には、村の中で待機してもらっている。


「ふふん。金貨1000枚はないわ。でも、奴隷として差し出す者もいないわ」


「くくく。やはりそうくるか。愚かな。実力行使になれば、結局有利なのはオレたちのほうだぞ」


 ユナの言葉に、ディルム子爵がそう言う。


「はたしてそうでしょうか。やってみないとわかりませんよ」


「後悔するがいい。アカツキ総隊長、思い知らせてやれ」


 ディルム子爵はそう言って、後ろに下がる。

入れ替わるように、大柄な男が前に出てくる。

強者の雰囲気のある男だ。

1週間前のときにも、ディルム子爵に同行していたな。


「俺がアカツキだ。……なあボウズ。お前はこの村の出身ではないのだろう? 余計なことに首を突っ込むのはオススメしないぜ?」


「そういうわけにはいきません。俺の仲間のユナは、この村の出身ですから」


「ふふん。そういうことよ」


「なるほどな。しかし、抵抗しなければ奴隷を1人差し出すだけで今回は丸く収まる。ディルム様が指名したのは、そっちのユナとやらではないのだろう? ならいいじゃねえか」


 アカツキがそう言う。

確かに、そういう考え方もなくはない。

俺にチートがなければ、その選択肢を選んでいた可能性も高い。


「バカにしないで! 赤狼族の誇りにかけて、仲間は売らないわ!」


「ふっ。少数種族の結束か。ボウズも引く気はないのか?」


「ええ。俺は引きません。大切な仲間である彼女の気持ちは無視できません。それに……」


「それに?」


「ユナは、俺の女にする予定ですから」


 俺はビシッとそう言う。

俺のハーレム計画の1人に、ユナももちろん入っている。

彼女の返答次第ではあるが。


 ミティやアイリスのいない今がこういうアピールをするチャンスだ。

……妻がいないときを見計らって他の女性にアプローチする。

クズ男じゃねえか。


 い、いや。

これは世界滅亡の危機を回避するのに必要なことなのだ。

うん。


 ユナの忠義度は40を超えている。

脈はあると言っていいだろう。

今回の揉め事を無事に解決できれば、さらに忠義度が上がるはずだ。


「タ、タカシ……」


 ユナが顔を赤らめ、こちらを見つめてくる。

よかった。

”何言ってんだコイツ”みたいな目で見られなくてよかった。


 俺はユナを見つめ返す。

ユナはかわいいというよりは美人系だ。

勝ち気な性格で頼りになる。

一方で、かわいいところもある。

魅力的な女性だ。


「ゴホン。なるほどな。好きな女にいいところを見せたいわけか。そういうことなら、そっちも引くわけにはいかねえか」


 おっと。

俺とユナの2人の世界に入ってしまっていた。

アカツキが気まずげに仕切り直してくる。


「そういうことです」


「しゃあねえ。当初の予定通りにことを進めるとしよう」


「当初の予定?」


「バカ正直に、全戦力を正面からぶつけるはずがないだろう? ちゃんと、他の方面からも別動隊を向かわせている。対するお前たちは、見たところここに戦力を集中させていると見える。戦略の時点で、勝負は始まっているんだよ」


 やはりそうくるか。

兵数が多いほうは、兵数が少ないほうを取り囲むように攻めるのが有効だ。

包囲殲滅陣だ。


「なるほど。勉強になります」


「……おい! てめえら! 村の戦士たちと、適当に相手をしておけ!」


「へい! 総隊長!」


「了解しやした!」


 アカツキの指示に、配下の兵士たちが威勢よくそう答える。

彼らが戦闘態勢を整える。


 それに対するは、村の戦士たちだ。

屈強な男たちが何人もいる。

村長も戦うようだ。

ちなみに、ドレッドとジークはサザリアナ王国へ交渉に向かっているので不在だ。


「皆のもの! 我らの力を見せてやるのじゃ!」


「おうよ!」

「吠え面かきやがれ!」


「「「赤狼族獣化!」」」


 村長を始め、村の戦士たちの雰囲気が変わっていく。

ユナも合わせて獣化をしている。


 村の戦士たちの髪が赤に変色していく。

さらに、耳が狼っぽく変容した。

加えて、牙が生えてきた。

みんな、なかなか強そうな外見だ。


「おお! それが戦闘種族と名高い赤狼族の獣化というやつだな? ディルム様がほしがるのも頷ける。俺も一戦交えさせてもらうことにしよう」


 アカツキ総隊長がそう言う。


「タカシといったな。お前とそこの嬢ちゃんは、俺が相手をしてやろう」


「望むところです」


「一刻も早く俺を倒して、多方面の救援に向かわないと大変なことになるぜ? せいぜいがんばりな」


「心配ご無用。他の方面は、信頼できる仲間が守ってくれていますから」


 頼りになる俺の仲間たち。

ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

他方面は彼女たちに任せよう。

健闘を祈る。


 俺とユナは、目の前のアカツキという男を倒す必要がある。

強者の雰囲気のある大男だ。

総隊長というからには、戦力としてもトップクラスなのは間違いないだろう。

気を引き締めて戦うことにしよう。

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