234話 それぞれの決着

 場面は、再びミティに戻る。

彼女はガーネット隊長と交戦中だ。

交戦中というよりは、ミティが逃げ回っていると言ったほうが正しいが。


「はあ、はあ……」


「ははははは! そらそらあ!」


「くっ!」


 ガーネットの投石がミティにヒットし、彼女が痛みにうめく。

このままでは、少しずつではあるがダメージが蓄積していってしまうだろう。


 しかし、転機が訪れる。

森の中で、木々が少ない開けた場所に出たのだ。


「はあ、はあ……。ここまで来れば……!」


 ミティがそうつぶやき、足を止める。


「何だ? お嬢ちゃん。逃げ回るのはやめたのか?」


「ええ。ここまで来ればだいじょうぶでしょう。私の全力を見せてあげます」


 ガーネットの言葉に、ミティがそう答える。


「小さなお嬢さんの全力など、取るに足りないだろうが。まあいい。私の投石とどちらが優れているか、勝負といくぞ!」


「ええ。そうですね。散々痛めつけてくれましたね。謝っても、もう許しませんよ?」


「ははははは! 抜かしよる。今までのはほんの小手調べ。私の本気を見せてあげるわ!」


 ガーネットがうれしそうにそう言う。

彼女は懐のアイテムバッグから、ひときわ大きな岩を取り出す。

先ほどまで投擲していた石よりも、一回り以上大きい。

直径1mはあろうかという巨岩だ。


「なかなかの巨岩ですね。……ところで、私の岩を見てください。こいつをどう思いますか?」


 ミティがそう言って、アイテムバッグから巨岩を取り出す。

直径2m以上はある巨岩だ。

ガーネットのよりも、ずっと大きい!


「すごく……大きいです」


 ガーネットが思わずそうこぼす。


「いきます! 剛拳流、侵掠すること火の如し」


 ミティが闘気を開放する。

腕と肩に闘気を集中させている。


「ま、待て! それはいくらなんでもさすがに……」


 ガーネットがあせり、そう言う。

既に戦意を喪失しかけている。


 しかし、ミティはそれを意に介さない。

チクチクと攻撃されてきたことを根に持っている様子だ。


「ビッグ……」


 ミティが巨岩を振りかぶる。


「ほ、本当に待ってくれ! 嬢ちゃんだけは見逃してもらえるよう、取り計らう! だからやめ……」


「メテオ!」


 ガーネットの説得を無視して、ミティが巨岩を放つ。

すさまじい勢いで岩が飛んでいく。


「がふっ!」


 巨石がガーネットにヒットする。

彼女は巨石に押しつぶされ、戦闘不能となった。


 ミティが近づいて、状態を確認する。


「やれやれ。息はあるようですね。殺しては、タカシさんが悲しむかもしれません。少しだけポーションを使ってあげることにしましょう」


 ミティは、もちろん無闇に人を殺したりはしない。

とはいえ、不可抗力というものはあるし、敵対的な人物であればそういったことがあってもやむを得ないとは考えている。


 タカシは、人が死ぬことを極端に嫌っているところがある。

タカシ本人はあまり自覚していないようだが、ミティはもちろんタカシの意を汲んでいる。

ミティはガーネットに最低限の治療を施し、その場を後にした。



●●●



 ミティがガーネット隊長を撃破した頃。

アイリスはオウキ隊長と交戦を継続していた。


「……はああ! 裂空脚!」


 アイリスの鋭い回し蹴りがオウキを襲う。

しかし、オウキによってガードされる。


「ふはは! 何度やっても同じだ。格闘じゃフルプレートの我は倒せぬ。戦いで武器を使わぬとは、なめているとしか思えぬ」


 オウキが言うことも一理ある。

普通の人であれば、格闘よりも剣や槍で攻撃したほうが有利に戦える。

あたり前のことだ。


 ただし。

それは、普通の人であればだ。

アイリスの格闘は厳しい鍛錬により、達人の領域にある。

加えて、タカシのステータス操作による恩恵もある。


「確かに、なかなかの固さだね。そろそろ、ボクも本気を出すよ」


「本気だと? 今までは本気ではなかったとでも言うのか? 笑わせてくれる」


 オウキが挑発するかのような口ぶりでそう言う。

アイリスはそれを意に介さず、闘気を高めていく。


「……右手に闘気。左手に聖気。聖闘気、迅雷の型」


「ふはは! 何かと思えば、闘気術か。闘気術くらい、我も使える」


 アイリスに負けじと、オウキも闘気を開放する。


 シュッ。

アイリスが高速移動で、オウキに接近する。


「迅・砲撃連拳!」


「ぐっ!? バカな……。なんだ、このスピードは!」


 オウキはアイリスのスピードに対応できていない。

アイリスがさらに追撃を行う。


「迅・裂空脚!」


「ちっ。……だが、スピードだけでは我の防御は貫けぬ!」


 オウキの防御は、フルプレートアーマーと闘気術により非常に高い水準にある。

アイリスのスピード重視の攻撃では、彼の防御を崩すことはできていない。

まだまだ形勢がどちらに傾くかわからない。


「どうやらそうみたいだね。仕方ない。ボクのとっておきを見せてあげるよ。実戦で慣らしておきたいしね」


 アイリスはそう言って、さらに闘気を高めていく。


「実戦で慣らすだと? 我を練習台扱いする気か! なめ……」


 オウキの言葉は。

最後まで続かなかった。


「三光一閃!」


「ぐはっ!」


 アイリスの超高速の攻撃により、オウキが倒れる。

フルプレートアーマーと闘気による防御を貫き、大ダメージを与えることに成功した。


「ぐ……。まだだ……。まだ……」


 オウキが何とか立ち上がる。

不死身の男という二つ名は伊達ではない。


「本当に頑丈だね。いい防具を着ているねー」


 アイリスが半ば呆れたような声を出す。

ここまで粘られるのは想定外だ。

しかし、彼女にはさらなる奥の手がある。


 アイリスが手のひらに闘気を集中させていく。

彼女がオウキのフルプレートアーマーに触れる。


「聖ミリアリア流奥義。発勁」


「ぐっ!?」


 オウキが苦悶の声をあげ、倒れた。

今度こそ戦闘不能だ。


 アイリスが使用した発勁は、闘気術の上級の技だ。

以前より練習中だった。

彼女は体外に闘気を放つことを苦手としており、イマイチ安定した発動ができず苦労していたのである。


 前回のタカシによるスキル強化で、闘気術をレベル5に伸ばした。

そのかいあって、とうとうこの技を実戦レベルにまで昇華できたのである。


「ふう。どうやら気絶したみたいだね」


 アイリスがひと息つく。

主力級を1人無力化したことにより、彼女の第一の役目は果たしたといっていい。


「ま、豪の型あたりでも、倒せただろうけどね。他の人の戦いも気になるし、これでよかったよね」


 アイリスがそうつぶやく。

確かに、オウキの防御を貫くだけであれば、豪の型でも可能であっただろう。

しかし万全を期すために奥義を出した彼女の選択は、間違いではない。


 アイリスは、他の者と合流するために動き出した。



●●●



 アイリスがオウキ隊長を撃破した頃。

モニカは、カザキ隊長との交戦を継続していた。


「……爆ぜろ! リトルボム」


「くっ!」


 空を飛ぶカザキ。

そこから繰り出される爆破魔法。


「もうっ。うざったいなあ。安全圏からチクチクと……。それでも男なのっ!?」


 モニカは直撃こそ避け続けてはいたが、余波により少しずつダメージが蓄積していた。

彼女がイラ立ち混じりにそう言う。


「へへへ。勝てばいいんだよ勝てば」


 カザキがそう言う。

彼はモニカの挑発を意に介していない。


「遠距離攻撃が中級の雷魔法までしかない嬢ちゃんには、俺は倒せねえよ。諦めな。上級雷魔法の”神鳴”でも使えたら別だがなあ!」


「……。上級はまだ使えないけど、まだまだ奥の手はある」


 モニカがそう言う。

闘気を足に集中させる。


「……カマイタチ!」


 モニカが大きく回し蹴りのような軌道で蹴りを繰り出す。

カザキは飛行中なので、もちろん回し蹴りなど当たらない。


「ん? 何を1人で踊ってやがる。……って、うおっ!?」


 カザキが突然驚いた顔をして、怯む。

体にうっすらと切り傷がついている。


「な、なんだその技は。ふざけやがって。蹴りの風圧で斬撃波を飛ばしたとでも言うのか」


「その通り。まだまだ行くよ!」


 モニカがそう言って、カマイタチを次々と放つ。


「ちっ。しかし、種がわかればどうということはねえぜ! 威力もさほどないしな!」


 カザキがそう言って、カマイタチの斬撃をうまく躱したり防御したりする。


 確かに、カザキの言うことも一理ある。

魔法とは違って、脚力の風圧による斬撃波は繊細なコントロールができない。

それに、威力もさほどない。


 今のモニカのカマイタチは、牽制以上の意味は持たない。

だが、それでいい。 


「……ん? 嬢ちゃんはどこに行った? 諦めて逃げたか」


 カザキがモニカの姿を見失う。

カマイタチへの対処に意識を向けすぎたようだ。

あたりを見回すが、いない。


「青空歩行-スカイウォーク-」


「後ろか!? いや、いない!?」


 カザキがモニカの声をしたほうを見るが、姿が見当たらない。


「上だよ! はああ……! 旋風カカト落とし!」


「なっ!? ぐはあっ!」


 モニカは青空歩行により、空高くジャンプしていたのだ。

以前は数m程度のジャンプ力であった。

あれから脚力強化や闘気術のスキルを強化してきた。

また、もちろん鍛錬も積んだ。

それにより、もっと高くまでのジャンプが可能となっていたのである。


 ドシン!

カカト落としをモロにくらったカザキは、そのまま地面に墜落する。

隊長として鍛え抜かれているだけあって、この高さから落下しても死んではいない。

なかなかの耐久力である。

とはいえ、意識は手放してしまっている。


「ふう。何とか勝てたな。早く、他の人に合流しないと。みんな、だいじょうぶかな」


 モニカはそう言って、その場を後にした。



●●●



 モニカがカザキ隊長を撃破した頃。

ニムは、ダイア隊長と交戦していた。


 ダイア隊長がニムを斬りつけ、ニムに一定程度のダメージを与えたところだ。


「な、なかなかやるようですね」


「ほっほっほ。強い心を持つお嬢ちゃんじゃの。まだ戦意を失わないとはの」


 ダイア隊長がそう言う。

完全にニムのことをなめている。

無理もない。

大人と子どもどころか、お爺ちゃんと孫くらいの年の差があるのだ。

積んできた戦闘経験が違う。


 とはいえ、ニムにはタカシによるステータス操作の恩恵がある。

このまま黙ってやられる彼女ではない。


「わ、わたしの奥の手を見せましょう。……はああ!」


「む!? 何を……」


 ダイアがニムの大技の気配を悟り、その前に攻撃を仕掛ける。

ダイアの刀がニムを襲う。

しかし。


 ガキン!

刀が弾かれる音がする。


「ロックアーマー。そして、動かざること山の如し”鉄心”。この2つの合わせ技です。絶対無敵装甲とでも名付けましょうか」


 土魔法レベル2のロックアーマー。

そして、剛拳流の風林火山のうちの1つ、動かざること山の如し。

この2つの技術をうまく調和させた、超防御の技である。


 土魔法と闘気術の両方に秀でるニムならではの技だ。

ネーミングセンスの残念さを除けば、かなり優秀な技と言えるだろう。


「ふふふ。こ、これでわたしが優位になりましたね。さあ、今度はこちらからいきますよ」


 抜群の防御力を活かして、ニムがガンガン攻撃を仕掛けていく。


「……ロック・パンク! ……ストーンショット!」


「くっ。なんの!」


 ダイアはニムの攻撃を避けつつ、負けじと刀で攻撃を繰り出す。

しかし。


 ガキン!

刀がニムの絶対無敵装甲によって弾かれる。


 ニムの剣士に対する相性は最高と言っていい。

彼女の防御を刀や剣で突破することは不可能に近い。


「さ、さあ。もうそちらに勝ち目はありません。おとなしく降伏してください」


「くっ。そういうわけにはいかん。こうなれば儂の最大奥義を出させてもらおう」


 ダイアはそう言って、心を集中させ始める。


「そ、そっちがそうくるなら。わたしも全力でお相手します!」


 ニムが負けじとそう言う。

魔力制御によりロックアーマーの硬度を高め、闘気術により体の防御力を高めていく。


「抜刀術居合……滅心!」


「ロック・パンク!」


 ダイアの抜刀術と、ニムの突進。

2人が交差する。


 …………。

……。


「がふっ!」


 数秒の後、倒れたのはダイアだった。

ダイアの奥義は、ニムの絶対無敵装甲を破ることはできなかったのだ。


「ふ、ふう。何とか勝てたようですね。よかった」


 ニムがそう言って、安堵のため息をつく。

彼女が絶対無敵装甲を解除する。

岩の鎧が制御を失い、地面に剥がれ落ちる。


「……むむ! わたしの絶対無敵装甲にキズが……。なるほど。まだまだ改良の余地はありそうですね」


 剥がれ落ちた岩の鎧を見て、ニムがそう言う。

さほど深くはないものの、ニムの鎧にはキズが入っていた。


「か、勝てたので今はよしとしておきましょう。それよりも、他のみなさんの様子が気になります。まずは、タカシさんのところに戻ることにしましょう。みなさん、もう集まっているかもしれません」


 ニムはそう言って、その場を後にした。

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