229話 防衛戦に向けてスキル強化 前編

 ディルム子爵の一行が、1週間後にまたこの村に来る。

今度は武力沙汰になる可能性が高い。


 俺たちミリオンズは、ユナや村の戦士たちと力を合わせてこの村を防衛するつもりだ。

その防衛戦に向けて俺たちのスキルを強化しておこう。


 1週間前に、”ウォルフ村を訪れよう”というミッションを達成した。

その分のスキルポイント20がある。

また、それぞれが以前保留としていた分のスキルポイントもある。


 ウォルフ村の宿屋の一室にミリオンズの面々で集まる。


「みんな。防衛戦に向けて、スキルを強化しておこう。以前保留としていた分と、ミッション報酬のスキルポイントがある」


 それぞれの現状のスキルを伝える。

また、残りのスキルポイントも伝える。

俺は40。

ミティは30。

アイリスは30。

モニカは25。

ニムは20だ。


「ど、どうしましょうか。悩みますね」


「そうだね。しっかり考えて決めないとね」


 ニムとモニカがそう言う。

みんなで悩み始める。


 ここで、スキル取得に必要なポイントを整理しておこう。

新たなスキルを取得するには、10ポイント。

スキルレベル1を2にするには、5ポイント。

スキルレベル2を3にするには、10ポイント。

スキルレベル3を4にするには、15ポイント。

スキルレベル4を5にするには、30ポイント。

以上のようになっている。


「えっと。私は、いずれかのレベル4のスキルをレベル5に強化していただこうと思います。せっかく30ポイント貯まったことですし」


 ミティが言うことはもっともだ。

レベル4から5に強化するためには、スキルポイントが30もいる。

今回のようにスキルポイントがたくさんあるときでないと、なかなか強化するタイミングがない。

今回はいずれかのレベル4のスキルをレベル5にするのが良さそうだ。


 ミティは以前、ガロル村で鍛冶術レベル4をレベル5に強化した。

鍛冶術レベル5は、かなり有用なスキルだった。

ミティの鍛冶の腕前は、今や超一流と言っていいレベルになっている。


 今の俺たちミリオンズの装備は、ミティが作ったものが多い。

さほど高価な材料は使わっていないが、かなりの性能を誇る。

いずれ良質な材料が手に入れば、またミティに作ってもらうことになるだろう。


 鍛冶術をレベル5に伸ばしたことは成功だったと言っていい。

今回レベル5に上げるスキルにも期待したいところだ。


「それがいいと思う。どのスキルをレベル5に強化しようか?」


 ミティが持っているレベル4のスキルは、槌術、投擲術、腕力強化、闘気術の4種類だ。

槌術は、接近戦でのメインスキル。

投擲術は、遠距離戦でのメインスキルである。


 腕力強化と闘気術は、槌術や投擲術、格闘術などにも活かすことができる。

この2つは効果が似ているが、微妙に異なる。


 腕力強化がパッシブスキルで、闘気術がアクティブスキルのイメージだ。

腕力強化を取得すれば、今後あらゆる局面で無意識的に腕力強化の恩恵を受けることができる。

闘気術の場合は、意識して闘気を開放したときだけパワーが増す感じだ。


 パワーの上昇率としては闘気術のほうがいいが、闘気は消耗していくものである。

武闘大会のような1対1の短期戦なら闘気術、冒険者としての魔物狩りなら腕力強化のほうが有用だと考えられる。


 今回の防衛戦では、腕力強化と闘気術のどちらが良さそうか。

あるいは、槌術や投擲術のほうが良さそうか。

難しいところだ。

ミティの判断を聞かせてもらおう。


「そうですね……。槌術を強化していただこうかと思います。よろしいですか?」


「もちろん構わないとも。ハンマーはミティのメイン武器だしな」


 ゾルフ砦では格闘の鍛錬も行ったが、魔物狩りでは彼女はハンマーを使う。

今回の防衛戦でも、ハンマーを主に使うだろう。

ルール無用の実戦で、彼女がわざわざ格闘で戦う必要性は薄い。

槌術を強化するメリットは大きい。


「そうですね。槌術レベル5で、私もこの村のために全力を出し尽くしてがんばります!」


「ありがとう。頼りにしているぞ。一応、他のみんなの方針を聞いてから、後でまとめてスキルを強化することにしよう」


 これはいつもと同じ流れだ。


「わかりました」


 ミティの暫定の方針は決まった。

次はアイリスだ。


「アイリスはどうする?」


「そうだね。ボクも、どれかのレベル4をレベル5に強化しようと思うけど……」


 アイリスが持っているレベル4のスキルは、格闘術、闘気術、聖闘気術、治療魔法の4種類だ。


「今回は、闘気術レベル4をレベル5にしてもらおうかな」


「わかった。理由を聞いてもいいか?」


 アイリスは幼少期から鍛錬を積んでいたし、俺よりも武闘における技量や知識は上だ。

彼女の考えを聞いておいて損はないだろう。


「まず、治療魔法レベル5はボクもよく知らない魔法だから、取得するのはちょっと怖いから外したんだ。そして、聖闘気術は闘気術の応用だから、聖闘気術を先に上げるのは避けた感じだね」


「なるほどな。そう考えると、格闘術か闘気術の二択になるわけだな」


「そうだね。この2つは悩んだけどね。闘気術を強化すれば、ボクの苦手な気弾も使えるようになるかもしれない。

このパーティで遠距離攻撃ができないのはボクだけだからね。少し気にしていたんだ」


 アイリスがそう言う。

気弾とは、闘気の塊を放出する技のことだ。

かつて、ストラスやエドワード司祭が使っていた。


 確かに、このパーティで遠距離攻撃ができないのは彼女だけだ。

俺は火魔法、ミティは投擲術、モニカは雷魔法、ニムは土魔法を使えるからな。


「わかった。闘気術をレベル5に強化して、気弾による遠距離攻撃ができるようになることを期待しよう。それに、いよいよ近接武闘においてアイリスは無敵に近くなりそうだな。頼りにしているぞ」


「うん。任せといてよ」


 アイリスの暫定の方針は決まった。

次はモニカだ。


「モニカはどうする?」


「私は、闘気術レベル3をレベル4に強化してもらおうと思う」


「ふむ。まあ妥当なところだろうな」


 モニカの残りスキルポイントは25。

残念ながら、レベル4のスキルをレベル5に伸ばすことはできない。

かと言って、防衛戦という一大事が控えている今、悠長に保留するのもな。


 闘気術レベル3か雷魔法レベル3を強化するのが第一の選択肢となるだろう。

彼女は、闘気術を選択したということだ。


「ええと。闘気術をレベル4に強化すると残りのスキルポイントは10になるな。それはどうする?」


「うーん。少し前から考えてはいたんだけど、難しいね……。聴覚強化は、今回はあまり意味がないかもしれないし」


 モニカがそう言う。


「いや、意味はあるんじゃないか? 離れた人の話し声を盗み聞きしたり、気配を察知するのに役立つぞ。敵兵が分散して奇襲したりしてくる可能性を考えれば、かなり有用だ」


「それもそうだね。わかった。聴覚強化を伸ばすことにするよ」


 モニカがそう言う。

兎獣人は生来の特徴として聴覚が優れている。

それがさらにスキルによって強化されることになる。

彼女のより一層の活躍に期待しよう。


 モニカの暫定の方針は決まった。

次はニムだ。

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