221話 ゴーレム生成 ウォルフ村からの手紙

 ニムが魔力強化のスキルを取得した翌日になった。

引き続きアイリス、モニカ、ニム、ユナの4人で御者をローテーションしてもらい、ラーグの街への道を進んでいく。

ユナ以外の3人はまだまだ初心者なので不安だったが、特に事故などもなく順調に進んでいく。


 ニムは、御者をしていないときに土魔法の制御の練習をしている。

魔力強化のスキルを取得したかいあって、ついにゴーレム生成の成功の目処がたちつつあるようだ。


 ……ん?

馬車の進行方向から少し離れたところに、ファイティングドッグが1匹いる。

どうしようか。

このまま接敵しないまま立ち去ってもいいし、1匹だけなのでだれかが適当に倒してもいい。

ファイティングドッグ1匹程度であれば、俺たちのだれにとっても何の問題もない相手だ。


「ファイティングドッグが1匹いるみたいだ。どうする?」


「ふふん。別に放っておけばいいんじゃない?」


「そうだね。大した経験にも稼ぎにもならないしね」


「ファイティングドッグは害獣だし、駆除して損はないけどねー。まあ、あっちから襲ってこないのなら、スルーでもいいかもね」


 ユナ、モニカ、アイリスがそう言う。

確かに、ファイティングドッグの1匹程度であれば、わざわざ討伐するメリットはほとんどない。

レベル10以下の加護付与対象者がいれば、レベリングのためにその人に狩ってもらうのもありだが。

今や、モニカとニムのレベルも結構高くなってきているしな。


 稼ぎの面でも、俺たち6人パーティでファイティングドッグのために時間をとっていては、効率が悪い。

害獣なので駆除するに越したことはないのだろうが、1匹狩ったところで大した影響があるわけでもない。

普段であればスルーでいいだろう。

しかし。


「わ、わたしに任せてもらってもいいでしょうか?」


 ニムがおずおずとそう言う。


「ニムちゃん? めずらしいですね。私は構いませんが……。タカシ様もいいですよね?」


「そうだな。もちろん構わない。ニム、あれを試すつもりだろう?」


 ミティの問いかけに、俺はそう答える。


「ふふん。何を試すつもりなのかしら?」


「ゴ、ゴーレム生成です。以前から練習していたのですが、成功の目処がたったので。実戦で試したいのです」


 ユナの問いかけに、ニムがそう答える。


「ふふん。ゴーレム生成は、上級の土魔法ね。まさか、その年で使える子がいるなんて。とんでもない才能ね」


「え、えへへ。ありがとうございます」


 ニムが照れくさそうにする。

そんなことを話しているうちに、ファイティングドッグの近くまで馬車が進んだ。

ここで一時停車をする。


「で、では。行ってきますね」


 ニムが馬車を下りる。

念のための周囲の警戒と見学のため、俺とモニカも馬車を下りる。

ミティ、アイリス、ユナは馬車で待機だ。

まあ、それほどには離れていないので、馬車上からでもこちらの様子は見えるだろうが。


「ぐるる……」


 ファイティングドッグのすぐそばにまで歩み寄る。

あちらは、まだこっちには気づいていない。

今のうちにニムが詠唱を始める。

それなりに長い詠唱のようだ。


 しばらく詠唱が続く。

ようやく終わりが見えてきた。


「……従順なる土の兵士よ。我が求めに生まれ出よ。クリエイト・ゴーレム!」


 ドドド!

ドドドドド!


 土が盛り上がり、人型に成形される。

ゴーレムだ。

ゾルフ砦での防衛戦で対峙したジャイアントゴーレムに比べると、小さめだ。

あれは5m以上はあったからな。


「へえ……! すごい魔法だね」


 モニカがそう言って感心する。

ジャイアントゴーレムに比べると小さめとはいえ、ニムが創り出したゴーレムも2mぐらいはある。

質量感があり、頼りになりそうな雰囲気だ。


「ぐるる……。がうっ!」


 ファイティングドッグがこちらに気づき、うなり声をあげる。

やつは、特にゴーレムに注意を払っているようだ。


「い、いけ! ゴーレムよ!」


 ニムの指示に従い、ゴーレムが動き出す。

発声は、あくまで魔力制御のイメージを補強するためのものだろう。

実際には声による指示ではなく、魔力によって制御されているはずだ。


「パ、パンチです!」


 ニムの指示に従い、ゴーレムが正拳突きを繰り出す。

ファイティングドッグとは体格差があるので、打ち下ろす感じの攻撃だ。


 ドン!

ファイティングドッグの回避は間に合わず、クリーンヒットする。

質量のある打撃を全身に受け、ファイティングドッグは絶命したようだ。

俺のアイテムルームに収納する。


「ふむ。なかなかだな。ファイティングドッグ程度は、問題ないということか」


「そ、そうですね。しかし、まだまだ制御に改善の余地はありそうです」


 確かにそうだ。

ゴーレムの攻撃は、やや鈍重だった。

今のままでは、素早い魔物や対人戦では通用しないだろう。


 今のファイティングドッグ戦では通用したが、そもそもファイティングドッグ程度であれば倒し方は無数にあるしな。

練習目的という点を除けば、わざわざゴーレムを使って討伐する理由はない。


 それに、最初の詠唱の長さも課題だ。

高速詠唱のスキルの取得も検討すべきかもしれない。

今は彼女の残りスキルポイントが0なので無理だが。


「まあ少しずつでも練習していってくれたらいいさ。ロックアーマーやストーンレインだけでも、十分に戦力になってくれているしな」


「がんばってね。ニムちゃん」


「は、はい。がんばります!」


 俺とモニカの言葉に、ニムが元気よく返事をする。

その後、馬車に戻りミティたちと合流する。


 馬車の上からこちらの様子は見ていたようで、ゴーレムの感想などを言い合っている。

なかなか好評のようだ。

みんなでニムの今後の活躍に期待しつつ、ラーグの街へ進んでいく。



●●●



 翌日、無事にラーグの街に帰還した。

帰ってきてから、数日間はのんびりと過ごした。


 そして、今日もファイティングドッグ狩りを行った。

帰りに、冒険者ギルドで報告をする。

報酬の金貨数枚を受け取り、立ち去るつもりだったが。


「ユナさん。ちょっと待ってください」


 受付嬢のネリーがユナを呼び止める。


「ふふん。何かしら?」


「ユナさんに手紙が届いています。こちらです」


 ネリーが手紙をユナに差し出す。


「あら。ありがとう。いただくわ」


 ユナが手紙を受け取る。

イスのあるところまで移動し、みんなで座る。


「ふふん。ドレッドとジークからみたいね。用事が終わったという連絡かしら……」


 ユナがそう言って、手紙の封を切る。

彼女が内容に目を通していく。


「えっ。そんな……」


 ユナの顔色が悪くなっていく。


「どうした? 何か悪いことが書かれてあったのか?」


「……その通りよ。また村に向かわないと……」


 ユナがそう言う。

何らかの問題が発生したということだろう。

俺たちも同行すべきかもしれない。


「ユナさんは村に戻られるのですね。私たちも同行しましょう!」


「そうだね。ボクたちにも、何か手伝えることがあるかもしれないし」


 ミティとアイリスがそう言う。


「ふふん。でも、これは私たち一族の問題だし……。あなたたちを危険に晒すわけには……」


 ユナがそう言って躊躇する。


「あ、足臭いじゃないですか。ユナさん。わたしたちは、もう仲間でしょう」


「ニムちゃん。それを言うなら水臭いだね。私も、手伝えることがあるなら手伝うよ」


 ニムとモニカがそう言う。


「そうだな。俺たちの実力は知っているだろう。特別表彰者の”紅剣”のタカシとは俺のことだ」


「それに、ボクとミティも冒険者ランクはCだよ。モニカとニムちゃんも、Dランクではあるけど確かな実力があるのは知っているよね。大船に乗ったつもりで安心してよ」


「……ふふん。それもそうね。あなたたちは、確かにかなりの力を持っているわ。付いてきてくれるのなら、ありがたいわね」


 ユナがそう言う。


「それでだ。肝心の、問題はどういったものなんだ?」


 ついつい大口をたたいてしまったが、問題の内容次第では厳しい可能性もある。


「私たちの隠れ里が……侵略されそうなのよ。お金で解決できるはずだったのに。約束を反故にされてしまったようだわ」


 ユナがそう言う。

隠れ里。

侵略。

約束の反故。

気になる言葉がたくさんある。


「なかなか込み入った事情がありそうだな。詳しく聞かせてもらえるか?」


「それはもちろんよ。でも、ここじゃちょっと……。タカシの家で話すわ」


 ユナがそう言う。


 俺、ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

6人で、俺たちの家に向かって歩き出す。


 ……む!?

視界の隅で何かが点滅している。


ミッション

ウォルフ村を訪れよう。

報酬:スキルポイント20


 このタイミングで新しいミッションか。

ミッションがなくともユナの手伝いはするつもりだったが、これでますます手伝う以外の選択肢は考えにくくなった。


 こんなこともあろうかと、俺たちのスキルポイントは使わずに一部保留としていた。

今回の件で、役に立ちそうなスキルを取得しよう。

まずは、家でユナから事情を聞かないとな。

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