220話 ラーグの街への道中 魔力強化

 さらに数日が経過した。

サリエの体調は万全だ。

また、俺たちへの御者の指導もひと段落した。


 今日、ハルクが治める街を出立し、ラーグの街に戻る予定である。


「では……。長い間、お世話になりました」


「世話になったのはこちらのほうだ。誠に感謝する。金や口利きで困ったことがあれば、いつでも頼ってくれていいぞ」


 ハルクがそう言う。

男爵である彼が力になってくれるのであれば、心強い。


「ありがとうございます。そのときには、ぜひお願いします」


「タカシ様。それに皆様。また来てくださいね。それまでに、しっかりと体を万全に仕上げておきますので」


 サリエがそう言う。

体力がしっかり戻れば、彼女が俺たちのパーティに同行することも十分に考えれるだろう。

さらに加護が付与できれば、文句なしの戦力になりうる。

まあ、まだ先の話ではあるが。


「わかりました。楽しみにしています」


 俺たちは最後の別れを済ませ、馬車に乗り込む。

ハルクにもらった馬車だ。


 俺、ミティ、アイリス、ニム、モニカ、ユナ。

6人が乗ってもまだ少し余裕がある。

なかなか大きな馬車だ。


 この馬車を引くのは2頭の馬。

御者席には、まずはアイリスが座っている。

隣には、ニム。


「じゃ、いくよ。はいよー!」


 アイリスの指示に従い、馬車が進み始める。

ここからラーグの街までは、数日の道のりだ。

はたして、無事に着けるかどうか。


 まあ迷ったりしても、俺のアイテムルームには必要な物資をたっぷりと入れてある。

俺たちの食料に、馬の飼料、その他もろもろ。

まったりと、急がずあせらずに行こう。



●●●



 ラーグの街に向けて出立した翌日になった。

俺たちはひたすら馬車に揺られている。

アイリス、モニカ、ニム、ユナの4人に御者をローテーションしてもらっている。


 御者を務めている人以外の5人は、基本的には暇だ。

周囲の警戒は必要だが。

俺たちは、索敵能力にもそれなりに優れている。


 俺は気配察知レベル2、視力強化レベル1、聴覚強化レベル1。

アイリスは気配察知レベル1。

モニカは聴覚強化レベル1を持っているからな。

また、スキルの有無だけではなく、モニカは兎獣人の生来の特徴としてもともと聴覚が優れている。

同じくニムは、犬獣人として嗅覚が優れている。


 俺たちが魔物の奇襲を受けて壊滅することは少し考えにくい。

例えばこれが戦争で、敵陣の中を突っ切っていくのであれば、もう少しスキルを伸ばしたいところではあるが。

魔物がさほど多くないのどかな道を馬車で移動するだけであれば、現状のスキル構成で十分だろう。


 今はユナが御者を務めている。

他の5人は暇だ。


 ミティは馬車の上で腕立て伏せなどの筋トレをしている。

アイリスとモニカは馬車と並走して体力を鍛えたりしている。


 そしてニムは、土魔法の制御の練習をしているようだ。

俺はそれを眺めている。


「ニム。そういえば、新しい土魔法の制御は順調なのか? 確か、ゴーレム生成だったか」


 ニムのスキルを強化してから、もう40日ほどが経過している。

月日が経つのは早いものだ。


「そ、そうですね。少し難しいです。魔力の制御が……」


「魔力の制御か。確かに、レベル4の上級魔法ともなれば、制御も大変だな」


 ニムの魔法関係のスキルを整理してみよう。

MP強化レベル2、土魔法レベル4、MP回復速度強化レベル2。

この3つだ。


 MP強化レベル2によりMPの最大容量が増えている。

また、MP回復速度強化レベル2によりMPの回復速度が早い。

土魔法レベル2のロックアーマーを長時間維持したり、レベル3のストーンレインを連発したりできるようになっている。


 一方で、まだ繊細な魔法の制御は苦手としているところだ。

制御系のスキルは取得していないからな。


「そ、そういえば、1つ気になっていることがあるのですが」


「なんだ?」


「魔力強化とは、どういったスキルなのでしょうか?」


「ん? もちろん、魔力を強化するスキルだが」


 魔力強化のスキルを伸ばすと……。

魔力が強化される。

あたりまえ体操。


「い、いえ。そういうことではなく……」


「ああ。魔力を強化するそもそもの利点の話か」


「そ、そうです。MP強化とは何が違うのでしょうか」


 ニムがそう言う。

確かに、やや紛らわしいところではある。

俺も、名称だけではピンとこなかった。

実践していくうちに、概要が掴めてきたところだ。


「MPは魔法を使う容量だ。一方で、魔力は魔法を使う出力だ」


「え、えっと。つまり……どういうことでしょうか」


「うーん。身体能力に例えれば、MPが体力だとして、魔力が筋力といったところだ」


 地球でいえば、水道タンクと蛇口に例えられるだろう。

MPがタンクの大きさで、魔力が蛇口の太さだ。


 MPばかり高くて魔力が低いと、宝の持ち腐れとなる。

体力はかなりあるけどそれ以外の身体能力が低いスポーツ選手、みたいな感じだ。


 逆に、魔力が高くてMPが低いと、これもうまくいかない。

能力は高いが体力などに問題があって短時間しか活動できないスポーツ選手、みたいな感じだ。

バトルマンガとかスポーツマンガとかでも、たまにそういうキャラがいる。


「な、なるほど。そうでしたか……」


 ニムが思案顔になる。


「何か気になる点があったのか?」


「い、以前MP関係のスキルを強化していただいたので、MPには余裕ができました。しかし、制御がなかなかうまくいかないと感じていたのです」


「そうか。確かに、ゴーレム生成の練習がうまくいかないと、先ほど言っていたな」


「そ、そうですね。それに、ロックアーマーもがんばればもっと固くできそうな気がしています」


「ふむ。あれ以上に固くできそうなのか。それは心強い」


 ニムのロックアーマーは、かなりの防御力を誇る。

ミドルベアの攻撃や、エドワード司祭の棒術による攻撃を見事に耐えきっていた。


「は、はい。それでですね。以前保留としていたスキルポイントで、魔力強化を取得するのはどうでしょうか? できればレベル2にまであげたいです」


「うん。いいんじゃないか。さっそく強化しようか?」


「そ、そうですね。念のためミティさんたちにも報告してから、強化してもらおうと思います」


 ニムがそう言う。

横で筋トレしていたミティや、馬車と並走してトレーニングしていたアイリスとモニカにも内容を報告する。

特に反対はなかった。


 さっそくニムのステータス操作画面を開き、魔力強化を取得し、レベル2にまで伸ばす。

これで、ニムの土魔法の制御力は格段に向上しただろう。


 ゴーレム生成の魔法がうまく使えるようになるかもしれない。

また、今までも使っていたロックアーマーやストーンレインの威力や精度も向上したことだろう。

彼女の今後のより一層の活躍に期待したいところだ。

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