219話 治療魔法のお礼を受け取る
ハルクの治める街に来て、数日が経過した。
彼の娘であるサリエの容態は良好だ。
初日以降も定期的に治療魔法をかけて、万全を期している。
完治したと言ってもいいだろう。
念のためこの街に滞在し続けているとはいえ、別に付きっきりでの治療が必要なわけではない。
俺かアイリスのどちらかは屋敷に残りつつ、もう片方は街中の治療回りを行ったりしている。
また、他のメンバーは近場で魔物狩りも行っている。
そんなある日の夜。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。
ハルクとその奥さん。
それに、サリエ。
みんなで夕食を食べているところだ。
サリエも病状が軽くなったので、夕食に同席できるようになっている。
「さて、タカシ殿。この度は、本当に助かった。あらためて礼を言わせてもらおう。ありがとう」
「「ありがとうございます」
ハルクとその奥さん、それにサリエがそう言って、頭を下げる。
「いえ。無事に快復されてよかったです」
「それでだ。報酬はいくら欲しい? 言い値で払おうではないか! まあ、さすがに我が家が傾くほどの報酬は躊躇してしまうがな」
ハルクがそう言う。
「それほどの大金をいただくつもりはありませんよ。いただけるものはいただくつもりではありますが。具体的には、そうですね……」
俺は考え込む。
あまり安くし過ぎても、相場が崩れるので良くないだろう。
金に困っている人なら特別に格安にしてもいいが、ハルクは貴族なだけあってそれなりに金は持っていそうだ。
一般的な適正金額を答えればいいだろう。
まあ、その一般的な金額がわからないのだが。
さらに考え込む俺を見て、ハルクが助け舟を出す。
「なんなら、サリエを嫁にもらってくれんか? 有能な治療魔法士でCランク冒険者でもあるタカシ殿に嫁げば、サリエも幸せだろう? 跡取りは息子がいるので問題はないしな」
「まあ……。お父様ったら。そういうことは、もう少し段階を踏まないと……」
サリエの忠義度を確認してみる。
30を越えている。
ついでに、ハルクの忠義度も30を越えている。
結婚して、家族ぐるみの付き合いをして、2人に加護を付与できれば理想的だが。
「俺は既婚です。お気持ちはありがたいですが……」
「なんと! まあ、それもそうか。治療魔法士としても冒険者としても優秀な君が、フリーなわけがないか……。お相手はそちらのお嬢さんたちかね?」
「そうですね。こちらのミティ、それにアイリスと俺は結婚しています」
「なるほど。2人も嫁がいるとは、なかなかの甲斐性持ちだな」
「それほどでも。しかし今後に向けてたくさん稼ぐためにも、冒険者をメインに活動していこうと思っています。病み上がりのサリエさんには少し厳しいでしょう」
治療魔法士は安定して稼げる職種ではあるが、どうしても限界がある。
一方で、冒険者は安定感には欠けるが、上を目指せばどこまでも稼げる職種である。
日本のイメージで言えば、治療魔法士は医者で、冒険者はメジャー競技のプロスポーツ選手といったところか。
それに、俺の場合はステータス操作というチートがあるからな。
魔物を狩ってレベリングをしたり、ミッションに従っていろいろと行動したりするためには、冒険者をメインにしたほうがいいだろう。
「ふうむ。確かに、サリエに冒険者は厳しいだろうな。仕方がないか」
ハルクがそう残念がる。
俺も残念だ。
「私も寂しいですが、今は治療に専念します。タカシ様、せめて、冒険のお話を聞かせてください」
サリエがそう言う。
その言葉に従い、俺は冒険の話を彼女に聞かせる。
俺の拙い話術でも、彼女は目を輝かせて話を聞いてくれている。
時おり、ミティやアイリスが俺の説明を補足したりもしれくれている。
彼女が病み上がりでさえなければな。
しばらくして完全に回復したことが確認できれば、いろいろと再検討させてもらおう。
●●●
さらに数日が経過した。
ハルクからのお礼の品々をもらえることになっている。
あれからいくつかのやり取りがあり、最終的なお礼の品々が選定されていった。
金貨数十枚。
アイテムバッグ。
さらに、馬車をもらえることになった。
もちろん馬つきだ。
馬車は、日本でいうワゴン車よりも少し大きいぐらいだ。
俺たち6人に加えて荷物を載せるとなると、さほど余裕はない。
しかし、俺はアイテムルームを使える。
また、ミティはアイテムバッグを持っている。
加えて、今回もらったアイテムバッグもある。
荷物はそれらに入れることができる。
よって、この馬車のスペースは俺たち6人で使用することができる。
そう考えると、結構広い。
あと何人かは座れるぐらいの余裕もある。
「ところで、タカシ殿たちの中に、御者の経験がある者はいるのか?」
ハルクがそう言う。
「俺はありません。……みんなはどうだ?」
「私もありません」
ミティがそう言う。
モニカとニムも経験がないそうだ。
「ボクはちょっとだけ。ダディさんに習ったから」
アイリスがそう言う。
ミティの故郷であるガロル村から隣街のボフォイの街に向かうときに、ミティの父ダディから御者のやり方を教わっていた。
ボフォイの街からガロル村に戻るときも、同じく教わっていた。
さらにガロル村に戻ってからもしばらく教わっており、そのかいあって見事に操馬術レベル1のスキルを取得している。
「ふふん。私も少しならできるわよ」
ユナがそう言う。
さすが、冒険者として俺たちの大先輩なだけあって、御者の経験もあるようだ。
やはり、彼女は頼りになる。
しかし、御者をできるのはアイリスとユナの2人だけか。
俺たちが馬車で移動する場合は、アイリスとユナの2人に頼ることになってしまう。
なかなかのヘビーローテションだ。
それはちょっとマズいな。
「経験者は6人中2人だけか。もしよければ、指導員を紹介するが?」
ハルクがそう言う。
ありがたく受けることにしよう。
「そうですね。ぜひ、お願いします」
御者を雇うのもいい。
しかし、俺たちのパーティに1人だけあまり知らない人が付いてくるのは、できれば避けたい。
パーティメンバーだけで馬車で移動したいところだ。
ミッションやスキルのことを話す機会もあるだろうし。
いや。
ユナがいるから、どちらにせよ話すタイミングはなかなかないか。
彼女にも加護を付与できればいいのだが。
彼女の忠義度はまだ30半ばぐらいだ。
徐々に高まりつつあるが、50は遠い。
何か大きめの出来事がないとな。
●●●
さらに数日が経過した。
サリエの体調は極めて良好だ。
もう治療魔法なしでもだいじょうぶだろう。
後は数か月普通に暮せば、体力や筋力も戻ってくるはずだ。
ハルクに紹介された指導員により、御者のやり方を教えてもらっている。
俺、ミティ、モニカ、ニムの初心者4人がメインだ。
また、経験者であるアイリスとユナも、あらためてきちんとした指導を受けている。
「はいよー! 進めー!」
「と、止まって。お馬さん!」
モニカとニムが、それぞれ自分の馬に指示を出す。
それぞれの馬が指示に従う。
「ふむ。モニカとニムは、見事に御者の基礎を習得したみたいだな」
「ふふん。なかなかやるわね。動物の気持ちがわかっている。見どころがあるわ」
ユナがそう言う。
「私はなかなかうまくいきませんでした……」
「俺もだ。何が悪いんだろうな」
「まあいいじゃない。タカシとミティもいい線はいっていると思うよ。ボクも最初は苦労したし」
アイリスがそう言って、慰めてくれる。
残念ながら、俺とミティに御者の才能はないのかもしれない。
こればっかりは仕方がないか。
ステータス欄をあらためて確認してみる。
無事にモニカとニムが操馬術を習得している。
これで、俺たちの6人中4人が御者を務めることができるようになった。
また、俺とミティも、スキルとしては取得できなかったが最低限の知識と技量は身についている。
とりあえずはこれでやっていこう。
様子次第では、俺がスキルポイントを使って取得してもいい。
俺には、いざとなればスキルリセットがあるしな。
ミティは、取得できないままでも大きな問題はない。
彼女は戦闘や鍛冶でも役立ってくれているしな。
ゆくゆくは、御者専門の人を雇うのもありだ。
借金は無事に完済したし、資金には余裕がある。
奴隷を購入するのもなくはない。
まあ奴隷とはいっても、この国の奴隷制度はそれほど悲惨なものではない。
ちょっと厳格な雇用契約のようなものだ。
今後、資金にはどんどん余裕ができるだろう。
比較的安い奴隷を何人か買ってみてもいいかもしれない。
その中のだれか1人にでも加護が付与できれば、十分にもとが取れる。
戦闘スキルを取得してもらって、パーティに加えるもよし。
治療魔法を取得してもらって、治療回りをしてもらうもよし。
操馬スキルを取得してもらって、御者を務めてもらうもよし。
家事スキルを取得してもらって、ラーグの街の自宅の管理を任せるもよし。
索敵系のスキルや戦闘スキルを取得してもらって、ラーグの街に自宅の警備を任せるもよし。
加護がつかなかったとしても、ラーグの街の自宅の管理は手伝ってもらえるだろう。
家の中の掃除とか。
モニカの料理の手伝いとか。
ニムの家庭菜園の手伝いとか。
ぜひとも検討していきたいところだ。
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