216話 招かれざる客の来訪、撃破
ユナがミリオンズに一時加入してから、2週間ほどが経過した。
西の森へ日帰りの遠征を行ったり、北の草原で2手に分かれてファイティングドッグ狩りを行ったりしている。
もちろん、定期的に休みも設けている。
休みの日の過ごし方は、それぞれ異なる。
俺としてはダラダラとゆっくりして疲れをとってほしいところだが、みんな体力があるからな。
休みでも精力的に動いている人が多い。
ミティは筋トレやみんなの武具の手入れをしている。
モニカはラビット亭の手伝いや、この家のキッチンで料理の練習をしている。
ニムは実家の畑の世話や、この家の庭の手入れをしている。
ユナはこの家の庭に的を作って、弓や火魔法の練習をしている。
そして俺とアイリスは、治療魔法を使った治療回りを行っている。
俺たちは、治療魔法レベル4のリカバリーを使える。
レベル4といえば、上級だ。
俺たちに治せない病は、なかなかない。
このラーグの街の持病持ちは、ほぼ治せたように思う。
ナックも満足気だった。
以前、彼とこんなやり取りがあった。
「俺たちがあまり治しすぎると、ナックさんの仕事がなくなるのでは?」
「それはそれで、良いことです。みなさんが健康で幸せなのであれば」
「それはいい考え方だね。ボクもそれに賛成だな」
ナックとアイリスがそう言った。
2人とも、立派な考えを持っている。
「まあ、ちょっとしたケガや病気は、途切れることはありません。私の仕事が完全になくなってしまうことはありませんので、ご安心を」
「それもそうですね」
「いざとなれば、他の街に引っ越すという選択肢もありますしね。ご遠慮せず、ガンガン治療してください」
そんなわけで、俺とアイリスでガンガン治療して回っている。
多少の謝礼ももらえるし、忠義度は稼げるし、俺たちミリオンズの評判も上がる。
いいこと尽くめだ。
今日も、俺とアイリスで治療回りを行った。
治療を終えて、家に戻る。
「ふう。今日もたくさんの人を治療できたね。ボク、みんなの役に立ててうれしいよ」
「そうだな。冒険者もいいが、治療魔法士もやりがいのある仕事だな」
俺とアイリスで、リビングのソファに腰掛ける。
今は昼過ぎだ。
治療回りで、それなりに疲れた。
午後はダラダラとして過ごすか。
しばらくゆっくりする。
庭でミティが筋トレしているのが見える。
その近くでは、ニムが土いじりをしている。
離れたところでは、ユナが弓の練習をしている。
モニカはキッチンで料理の練習中だ。
アイリスは隣でくつろいでいる。
俺がアイリスとソファでうとうとしていると、だれかが部屋に入ってきた。
「タカシ様。来客のようです。門のほうを見てください」
ミティだ。
彼女がそう言う。
俺たちの家に来客があるのはめずらしい。
俺は家の中から、門のほうを見る。
門の前に人が立っている。
立派なヒゲを生やした男だ。
少し小太りだな。
その男の後ろには、10人以上の武装した人たちがいる。
護衛だろうか。
武装兵を連れて人の家の前に来るのは、勘弁してほしい。
「何だか穏やかじゃない雰囲気だな。俺が応対しよう」
「私も念のため、ごいっしょします」
ミティがそう言って、付いてくる。
アイリスはまだうとうとしていたので、そのままにしておいてあげた。
モニカもいっしょに待っていてもらう。
俺はミティといっしょに、玄関から庭に出る。
ニムとユナがこちらに気づき、近寄ってくる。
「な、何だか良くない雰囲気ですね。わたしも付いていきます」
「ふふん。私も行くわ」
ニムとユナがそう言う。
俺はミティ、ニム、ユナといっしょに、門の前に立っている男に近づいていく。
男がこちらを見て、話しかけてくる。
「おい。お前がタカシとかいう治療魔法士か?」
男がそう言う。
少し威張ったような雰囲気だ。
「確かに、私がタカシです。治療魔法を使えます。それが何か?」
「治療してほしい者がいる。いっしょに来い」
「えっと。私はこれから用事があるのですが」
治療の依頼者が直接乗り込んでくる。
これが治療魔法を強化している弊害かもしれない。
とうとう懸念が的中してしまった。
気持ちとしては治療してあげたいところではある。
実際には差し迫った用事はないし、治療してあげてもいい。
とはいえ、言われるがままに治療していては、キリがない。
時間や日の区切りは必要だ。
次回の治療回りのときに治療しよう。
そう思っていたのだが。
「庶民が口答えするな! おい! こいつを縛ってでも連行しろ!」
男が武装兵たちに向かってそう指示を出す。
この口ぶりからすると、この人は貴族か何かか。
「「「はっ!」」」
兵たちが指示に従い、俺に向かってくる。
さすがに街中で剣を抜いたりはしないようだ。
素手のままこちらに向かってくる。
だが、甘いな。
自分で言うのも何だが、俺はかなり強いぞ。
一方で、兵たちの動きはさほど鋭くない。
冒険者ランクで言えば、せいぜいDランク上位ぐらいか。
「武力行使はオススメしませんよ? 私はこれでもCランクの冒険者ですので」
「ぬかせ! この人数差をどうにかできると思うな!」
男のセリフとともに、兵たちが襲いかかってくる。
ニムとユナが臨戦態勢に入る。
ミティが一歩前に出る。
「私がやりましょう。……十分です」
ミティは1人で対応する気のようだ。
ここは彼女に任せてみるか。
彼女と兵たちの戦闘が始まる。
ドカッ!
ガンッ!
ミティの豪腕の前に、兵たちが倒されていく。
1分もしないうちに、兵たちはあっさりと全滅した。
あと立っているのは、貴族風の男だけだ。
「うぬぼれるなよ賊ども。うちと一戦やりたければ、魔法師団の1つでも連れてくるんだな」
男に対して、ミティがそう吐き捨てる。
なかなか強い言葉だ。
ミティやニムは、こういうところがある。
普段ミリオンズの仲間内で話すときは、丁寧な言葉づかいだ。
しかし、敵対的な相手に対しては、容赦のない態度と言葉になる。
ミティは、ガルハード杯でミッシェルやマーチンに対してきつい言葉を使っていた。
ニムは、ガロル村で霧蛇竜ヘルザムに取り憑かれたカトレアを、ボコボコにしようかと提案していた。
この街の冒険者ギルドで絡んできたチンピラに反撃したこともある。
まあ、これはこれで悪くはないが。
敵対的な人にまで友好的に接していると、つけこまれる可能性もあるしな。
「バ、バカな……。私の精鋭たちが……」
男が愕然とした表情で、そう言う。
「ふふん。強いとは思っていたけど、これほどとはね……」
ユナも驚いているようだ。
普段の魔物狩りで俺たちの実力は知ってくれているはずだが、対人戦は初めてだしな。
あらためてミティの強さを知ってくれたことだろう。
「今日のところは見逃してあげましょう。兵たちを連れて、帰ってください」
俺は男に向かってそう言う。
あまり念入りにやり過ぎても、今度は俺たちが罰を受ける可能性がある。
いわゆる過剰防衛だ。
この国の法制度は結構きちんとしているからな。
力があるからと言って、あまり好き放題にするわけにはいかない。
「……いや、そういうわけにはいかんのだ。失礼な態度をとったことは謝る。私の屋敷に来てもらえないだろうか?」
「い、今さらもう遅いです。そんな言い分は通用しません」
ニムがそう言う。
「そこを何とか! 何とぞ、何とぞ!」
なんと、男が土下座を始めた。
ここまでされてしまうと、追い返すのも心苦しくなってくる。
まずは話だけでも聞くことにしよう。
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