215話 ユナとの再会 ミリオンズへの一時加入

 翌日。

日課のファイティングドッグ狩りを終え、冒険者ギルドに報告にやってきた。

受付嬢のネリーに話しかける。


「こんにちは。ネリーさん」


「タカシさん。お疲れ様です。今日もファイティングドッグ狩りでしたか?」


「ええ。討伐と買取の査定をお願いします」


「承知しました」


 ギルドカードを渡し、ファイティングドッグの死体なども出しておく。

ネリーにより、報酬の査定が進められていく。

ユナのことを聞いてみよう。


「ネリーさん。赤き大牙というパーティの情報を何かご存知ありませんか?」


「赤き大牙……。ああ、タカシさんと懇意にしていた方々ですね。数か月前にこの街を出立されていました。その後は見かけていませんね」


 ネリーがそう言う。

数か月前というと、ユナ、リーゼロッテ、マリアを招いて食事会を開いた頃だ。

その頃に出立して以降、この街には戻ってきていないということか。


「そうですか。そろそろこの街に戻ってきているかと思ったのですが。残念です」


「……おや? 噂をすれば……」


 ネリーが俺の背後を見てそう言う。

冒険者ギルドの出入り口のほうだ。


「ふふん。この街も久しぶりね」


 聞き覚えのある声がする。

俺は声がしたほうを見る。

赤い髪の少女が立っていた。


「お、おお。ユナじゃないか。久しぶりだな」


「あら。タカシじゃない。久しぶりね。他のみんなも元気そうね」


 ユナがそう言う。

ミティ、アイリス、モニカ、ニムともあいさつを交わす。

受付前から離れ、みんなでイスに腰掛ける。


「ユナ。またこの街に戻ってきたんだな。村での用事は済んだのか?」


「ふふん。用事なら、ひと段落したわ。一時はどうなることかと思ったけどね。ドレッドとジークが残って最後の処理をしているわ」


「そうか。無事に終わって何よりだ」


 ユナの口ぶりからすると、結構大変な用事だったようだ。

俺たちも急いでウォルフ村に向かうべきだったのかもしれない。

まあ、無事に終わったのであればいいか。


「ふふん。それはそうと、ちょうどいいところで会ったわね。頼みたいことがあるのよ」


「頼みたいこと?」


 なんだろう?

できる限り頼みを引き受けて、忠義度を稼ぎたいところである。

彼女の忠義度は結構高いからな。


「私をタカシたちのパーティに入れてもらえないかしら? それが目当てでこの街に戻ってきたのよ。ドレッドとジークは、しばらく身動きがとれないから」


「そうだな。ユナなら大歓迎だ。なあ? みんな」


 俺はそう言って、ミティのほうを見る。

問題はないと思うが、念のための確認だ。


「私は大賛成です! 弓士であるユナさんに加わっていただければ、心強いですし」


「そうだねー。ボクもいいと思うよ」


 ミティとアイリスがそう言う。


 ユナはDランクの弓士だ。

サブとして、短剣と初級火魔法も使える。


 俺たちミリオンズの5人は、全員が近接戦闘を行える。

メルビン道場で武闘の鍛錬を積んだからな。

武闘以外でも、俺は剣術、ミティは槌術を使える。


 一方の遠距離攻撃は、今の俺たちにやや欠けている要素だ。

俺の火魔法、ミティの風魔法と投擲、モニカの雷魔法、ニムの土魔法。

豊富な攻撃手段が揃っているように思えるが、よく考えると魔法に偏っている。

魔法は詠唱時間が多少かかるので、即応性に欠ける。


 とっさのときの遠距離攻撃は、ミティの投擲に限られているのが現状である。

ミティの投擲は、投擲術の恩恵によりそれなりの精度はあるものの、例えば森の中を逃げる魔物を正確に追撃できるほどのコントロールはない。

また、空を飛び回る魔物の移動先を予測して狙い撃ちしたりも難しいだろう。


 弓士であるユナに加わってもらえれば、かなり心強い。

俺は西の森への遠征時やゾルフ砦での防衛戦時に、彼女の戦闘を何度か見たことがある。

なかなかの技量を持っていたように思う。

俺たちに欠けている遠距離攻撃の即応性を補ってくれるだろう。


「私もそれで構わないよ」


「そ、そうですね。みなさんがそうおっしゃるのであれば、わたしも問題ないです」


 モニカとニムがそう言う。

彼女たちはユナの戦闘を見たことがないし、単純に人柄ぐらいしか判断要素がない。


 ユナはやや気が強いが、根は優しい。

協調性もある。

みんなとも仲良くやってくれるだろう。


 冒険者としても先輩なので、知識や経験面でも頼りになる。

今の俺たちの冒険者に関する知識や経験は、まだまだ心もとないからな。


「ふふん。よろしく頼むわ。でも、これで6人パーティになるのね」


「そうだな。何か問題があるのか? 人数制限とか?」


 6人パーティは、今まで見たことがない。

3人から5人くらいのパーティが多い。

何か冒険者ギルドに人数制限の規則などがあるのかもしれない。


「ふふん。制限は特にないわ。ただ、人数が多いと、単純に1人あたりの報酬の取り分が減るからね。ファイティングドッグくらいなら、2人か3人くらいいれば戦力的には十分に余裕があるし」


 ユナがそう言う。


「なるほど。6人パーティに適した狩場を探す必要があるわけか」


「ふふん。そうなるわね。このあたりだと、西の森ぐらいかしら?」


「わかった。今度、西の森に行ってみようか。とりあえず明日は、様子見でファイティングドッグ狩りをしよう」


「ふふん。わかったわ。私の弓の腕を久しぶりに見せてあげるわ。あれから、結構上達したんだから」


 ユナがそう言う。

俺たちがいろいろと活動してがんばっている間、ユナはもちろん遊んでいたわけではないだろう。

彼女は彼女で、いろいろと魔物と戦ったり、鍛錬をしたりしていたはずだ。

上達した弓による彼女の活躍に期待しよう。



●●●



 翌日。

ミリオンズにユナを加え、6人でファイティングドッグ狩りを行った。

初日だし、2手に別れたりもせず、6人で安全に行動した。


「……ふっ!」


「おお! 見事だ」


 ユナの弓から放たれた矢がファイティングドッグに命中する。

当たりどころがよかったようで、一撃で息絶えている。


「ふふん。ま、これくらいはね」


 ユナの弓の腕前は、やはりなかなかのものだ。

以前よりも上達している。

俺たちミリオンズの確かな戦力アップとなるだろう。

初級の火魔法や短剣術も使えるしな。


 ただ、加護の恩恵を受けまくっている俺たち5人に比べると、総合的な戦闘能力はやや劣ると言わざるを得ない。

情報共有のため、俺たちの戦闘もそれぞれ披露したのだが……。


「炎あれ。我が求むるは豪火球。五十本桜!」


「ビッグ……メテオ!」


「三光一閃!!!」


「雷華崩脚!」


「ロック・パンク!」


 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニムの大技をそれぞれ別のファイティングドッグ相手に使用する。

もちろん、それぞれ一撃での討伐となった。

オーバーキル気味だが、ユナとの情報共有のためだ。


「ふ、ふふん。なかなかやるじゃない。大したものね」


 ユナの顔が引きつっている。

やはり、俺たちの成長速度は規格外だといったところか。


 ユナにも加護を付与できると理想的なのだが。

そうなれば、彼女のスキルもどんどん強化できる。

冒険者としての基礎がしっかりしている分、俺たち以上の戦力にまで成長できるかもしれない。


 ユナの現在の忠義度は、30程度。

仲のいい友人といったところだ。


 ともにパーティとして活動していけば、少しずつではあるが上がっていくことだろう。

しばらくはそれで様子を見るしかないか。

加護付与の条件である忠義度50以上の達成は、なかなか難しい。


 ミティは、彼女が奴隷落ちなど精神的につらいことが重なって弱っているときに、俺が優しい言葉をかけて全肯定することで、条件を満たした。

また、彼女いわく、俺の顔が好みだったこともあるらしい。

俺は特にイケメンではないし、たまたま彼女好みの顔立ちでラッキーだったと言えよう。


 アイリスは、ガルハード杯の余興試合で俺が勝って、さらにその後も防衛戦でもいいところを見せることで、条件を満たした。

モニカは、実家のラビット亭の経営が行き詰まっているところを助け、さらに父ダリウスの難病を治療することで、条件を満たした。

ニムは、実家の畑の復旧を手伝い、さらに母マムの難病を治療することで、条件を満たした。


 ユナはどうなるか。

村での用事とやらも無事に終わったみたいだし、俺が彼女の忠義度を大きく稼ぐような出来事はなかなかないかもしれない。


 まあ、直接的にユナを助ける必要はない。

例えば、たまたま通りがかった村で善行を積んだりすれば、それを見ていたユナの忠義度が少しずつ上がっていくかもしれない。

長い目で考えていこう。


 せっかくなので彼女も俺の家に住んでもらうことになった。

部屋は余っているし、わざわざ宿屋に泊まってもらう必要もない。

男の家に泊まるのはどうかと少し迷っていたようだが、他にもミティたち女性が4人も同居しているしな。

変なことはされないだろうと判断したようだ。


 しっかりとした風呂場に、広いリビング。

モニカ主導によるおいしいご飯に、ふかふかベッド。


「ふふん。いい家ね。ずっとここに住もうかしら……」


 ユナも満足気だ。

忠義度も少し上がっている。

いい感じだ。


 ミリオンズにユナが加わり、俺たちのパーティは強化された。

また、彼女が同居することになり、家のにぎわいも増した。

明日以降の活動を楽しみにしつつ、眠りにつく。

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