179話 マクセルたちへの引き出物

 ミティとの結婚式から数日が経過した。

今日は、マクセルたちに結婚式の引き出物を渡すことになっている。

ミティがつくった武具だ。


 他の参加者への引き出物は、結婚式当日に渡し済みだ。

マクセルたちへの引き出物は武具なので、試着や微調整の関係で今日の引き渡しとしていたのだ。


 待ち合わせ場所はダディ宅の鍛冶場。

俺とミティでそこへ向かう。

アイリスたちは別行動だ。


 俺たちが着いたとき、彼らは既に待っていた。

マクセル、ストラス、セリナ、カイル、レベッカだ。


「おはようございます、みなさん。結婚式へ参加していただき、改めてありがとうございました」


「ああ。構わないよ。おいしいものも食べれたしね」


「へっ。しっかりと奥さんを守れよ」


 俺の言葉に、マクセルとストラスがそう答える。


「がんばります。それで、引き出物としてこちらの武具を用意しました。使っていただけるとありがたいのですが……」


 俺はそう言って、並べておいた武具を差し出す。

ミティに作ってもらった渾身の武具だ。


「これは……。なるほど。かなりいい装備だね。本当にもらっていいのかい?」


「ええ。もちろんです」


 マクセルの問いに、俺はそう答える。


「すげえっす! これを街で買おうとすれば、金貨数十枚は要るっすよ!」


「あ、ありがたいけど……。高価過ぎてちょっと緊張するね」


 興奮するカイルに対して、レベッカは少し遠慮気味か。


「これらは、私が作った武具です。材料費や設備費はかかっていますが、全体としてはさほどお金がかかっているわけではありません。気軽に使ってください」


 ミティがそう言う。

確かに、必要経費は材料費と設備費ぐらいだ。

もちろん、ミティ自身の人件費もあるが。


「ええええ! マジっすか!? これをミティの姉御が!?」


「戦闘能力が高いだけじゃなくて、鍛冶までできるなんて。とんでもないですね……」


 カイルとレベッカがそう驚く。

レベッカは、ガルハード杯の予選でミティに敗北したことがあるしな。

彼女はミティの戦闘能力の高さを身を以て知っている。


 さらに、ミティはその後も本人の努力とステータス操作の恩恵によりどんどん実力を伸ばしている。

レベッカの想像のはるか上の戦闘能力になっていることだろう。


「これはいい! ちょうど装備を整えようかと思っていたんだぜ!」


 ストラスがそう喜び、武具を手に取る。


 本来であれば、一流の鍛冶師になるにはかなりの時間を要する。

ミティの場合は、ステータス操作によりその大部分を省略することができた。

その分、できた装備を気軽に譲ることができるというわけだ。


 まあ、あまり気軽にバラマキ過ぎると、相場が崩れて鍛冶職人や武器屋に迷惑がかかる恐れがある。

今回のように、自身のパーティで使うか、親しい人たちに譲るぐらいまでに控えておくべきだろう。


「ありがたく使うなの。あと、この杖ももらっておくなの」


 セリナがそう言って、ガントレットやレザーアーマーに加えて、杖も持っていく。


「杖は、念のため用意しておいたものです。もちろんお譲りしますが、セリナさんは魔法を使えるのですか?」


「使えないの。みんなで練習中なの」


 俺の問いに、セリナがそう答える。


「風魔法や雷魔法を練習しているんだ。さすがに、全員が武闘家なのはバランスが悪くってね。新メンバーも探しているのだけど、なかなかね……」


 マクセルがそう補足する。

彼らは全員が武闘家だ。

魔物の種類によっては苦戦もあり得る。

攻撃手段はある程度の種類を持っておきたいところだろう。


 ガントレットを始めとする武器、防具、それに杖。

マクセルたちからは好評価をもらうことができた。


「みなさんに喜んでいただけてよかったです!」


 ミティも満足気だ。

今回の武具のプレゼントは、大成功と言っていいだろう。

彼らがこれらの装備を活かし、冒険者として活躍してくれることを祈ろう。



●●●


 

 翌日になった。

この村で行うべき用事は一通り片付いたと言っていいだろう。


「みんな。そろそろ、ラーグの街へ戻ろうか」


「そうだね。私もお父さんが心配になってきたし」


「わ、わたしもです」


 俺の提案に、モニカとニムがそう答える。

彼女たちの親は、病み上がりだ。

俺の治療魔法レベル4のリカバリーにより、難病が治療された。

しかし、まさかの再発の可能性がなくもない。


 それに、モニカの父ダリウスが営業しているラビット亭の調子や、ニムの母マムが管理している畑の様子も気になるところだ。


「わかりました。帰りましょうか。お父さんとお母さんにもあいさつしておきます。しばらく会えなくなりますし」


「ミティ。忘れたのか? 俺には転移魔法陣がある。月に1度ぐらいならまったく問題なく里帰りができるぞ。冒険者活動との兼ね合いがあるから、毎週のようには難しいかもしれないが」


「そ、そうでした! では、あんまり大げさに別れを言う必要もありませんね。改めて、ありがとうございます!」


 ミティがうれしそうにそう言う。


「タカシ。そのことだけどさ。ミティのご両親にも、転移魔法陣のことは伝えるの?」


 アイリスがそう言う。


「ああ。伝えるつもりだよ。伝えないと、違和感を覚えられるかもしれないし。ミティのご両親は信頼できる人たちだし、だいじょうぶだろう」


「そっか。まあそれでいいだろうね」


 ラーグの街からガロル村までは遠い。

月に1度ぐらいの頻度で顔を出していれば、さすがにおかしいと思われるだろう。

頻度を落とせば問題なくなるが、今度はミティがさみしい思いをする。


 ミティの両親であるダディとマティの忠義度は40を超えている。

転移魔法陣のことを伝えても、無闇に言いふらされたりはしないだろう。

そもそも、俺の妻になったミティの両親を俺が信じなくてどうする。


「ミティ。転移魔法陣の設置場所に適した場所はないか? 人がほとんど出入りしない場所がいい」


 転移魔法陣を傷つけられたりすると、転移に必要なMPが増えていく。

最終的には、使えなくなってしまう。

安全性や機密性の高い場所がいい。


「それでしたら、私の部屋はどうでしょうか? お父さんたちに言っておけば、無闇に手を加えられることもないと思います」


 ダディの家の、ミティの部屋か。

確かに、そこであればある程度の安全性と機密性が確保されそうだ。


「わかった。そこに作成しておこう」


 転移魔法陣の設置場所が決まった。

あとで、ミティといっしょに設置しにいこう。

そういえば、女の子の部屋に入るのはかなり久しぶりだ。

そう考えると、ドキドキしてくるな。




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 疾風迅雷。

Dランクパーティ。


マクセル:リーダー、武闘家 ランクD

ストラス:サブリーダー、武闘家 ランクD

セリナ:武闘家 ランクD

カイル:武闘家 ランクD

レベッカ:武闘家 ランクD

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