178話 南一番の新星
タカシとミティがガロル村で結婚式をあげている頃。
中央大陸、冒険者ギルド総本部。
そこに冒険者ギルドの幹部たちが集まり、会合が開かれていた。
「……では、次の議題に移ります。特別表彰制度の追加表彰の対象者について……」
司会の男がそう言う。
メガネをかけており、理知的に見える男だ。
特別表彰制度とは、Cランク以上の冒険者で特にめざましい活躍をした者を表彰する制度である。
表彰されると、広く顔と名前が知られることになる。
初めて行く土地でも信用度が確保され、冒険者ギルドにおける待遇も上がるなどのメリットがある。
そして追加表彰とは、既に特別表彰制度の対象となっている者がさらなる功績をあげたときに、追加でより大きな表彰をするものである。
「ファルテ帝国のハーヴェイ……。ミネア聖国のシリウス……」
追加表彰の対象者の名が挙げられ、議論されていく。
以前より特別表彰制度の対象となっていた、世界各地の有望な冒険者たちだ。
彼らが今回新たな功績をあげたため、さらなる表彰がなされようとしているというわけだ。
幹部たちの議論のもと、追加表彰の可否や程度が判断されていく。
表彰には、ギルドの貢献値として”ガル”という単位が設けられている。
このガルという値が多いほど、よりギルドに貢献している有力者とみなされる。
Cランク以上の冒険者たちは、冒険者ランクだけではなく、このガルの値も気にしつつ日々の活動に励んでいる。
例外的に、こういうことに無頓着な冒険者たちも存在はしているが。
議論が続く。
しばらくして、一通りの決定が下された。
「続いて、特別表彰制度の新規対象者について……」
司会の男がそう新たな議題を口にする。
新規の対象者。
各地で功績をあげたが、現状では特別表彰制度の対象とはなっていなかった者たち。
一言で言えば、有望なルーキーということだ。
「新大陸、ウェンティア王国のアルカ……。それに……」
司会の男が対象者の名を挙げていく。
新規の対象者とはいえ、こういう功績をあげるような者は、以前よりある程度の功績はあげている。
幹部たちからしても、どこかで聞いたことがある名前がほとんどだ。
すんなりと特別表彰の可否や程度が判断されていく。
「そして最後に。新大陸、サザリアナ王国のタカシ」
「タカシ? 聞いたことのない名だな」
幹部の1人がそう言う。
立派なヒゲを生やしたダンディな男だ。
特別表彰制度の対象となるような冒険者であれば、一度や二度は聞いたことがあってもおかしくないはず。
しかし彼を始め、幹部たちはタカシという名前に聞き覚えがなかった。
「タカシ氏は、半年ほど前に冒険者登録がなされたばかりの新人です。活動域は前述の通り、サザリアナ王国です」
「わずか半年で推薦されるとはな。サザリアナ王国といえば、ウィリアムの出身地じゃな。有望な新人がまた出たわけか」
司会の男の説明を受けて、1人の幹部がそう言う。
初老の男だ。
「その通りだと考えています。サザリアナ王国ボフォイ支部のギルドマスターより、特別表彰制度への推薦がありました。それに、ゾルフ支部とラーグ支部のギルドマスターからの賛同もあります」
「ボフォイ支部? ああ、ベイグの小僧か」
「それに、テスタロッサやマリーの小娘たちの賛同付きか。あいつらがそう言うぐらいなら、確かな期待ができそうじゃの」
この会合に集まっているのは、冒険者ギルドの重鎮たち。
経験、知識、人脈。
そして、本人の戦闘能力。
すべてに秀でている者たちだ。
支部のギルドマスターたちは若くても30代だが、幹部である彼らにとっては若造にすぎない。
司会の男がメガネをくいっと上げる。
「災害指定生物第3種”銀雪”のホワイトタイガー、1000万ガル。現ハガ王国国王”疾風”のバルダイン、2000万ガル。憎悪と嫉妬を増幅させる魔物”霧蛇竜”ヘルザム、1700万ガル。討伐奨励値アベレージ300万ガルの新大陸南部で、いずれも1000万ガルの大台を超える大物ですが、粉砕されています。……もちろん、ご存知の通りバルダイン陛下とは友好関係を築くことに成功しているため、討ち取ったわけではありませんが」
司会の男がそう報告する。
一呼吸おいて、さらに報告を続ける。
「その他、ジャイアントゴーレムやミドルベアの討伐実績に加え、ゾルフ砦のガルハード杯本戦にも出場歴があります。ベイグ氏からは剣術、テスタロッサ氏からは攻撃魔法や格闘術、マリー氏からは治療魔法。それぞれ中級以上の確かな腕前があるとの報告も受けておりーー」
司会の男がタカシの功績などを挙げていく。
彼が一通りの報告を終える。
「……なるほどな。少なくとも、地方の一介の職業冒険者として収まるような器ではないということか」
「そういうことです」
幹部の男の言葉に、司会の男が満足気にうなずく。
「初頭の表彰から貢献値3000万ガルは、世界的にも異例の破格です。しかし、決して高くはないと判断しています。こういう期待の芽は早めに奨励してゆくゆくの成長を促進せねば!」
「……ふむ。よかろう。パーティメンバーに神官がいるのが少し気になるが……」
他の幹部がそう言う。
何かを懸念するそぶりを見せている。
「神官とはいっても、武闘神官見習いじゃろう? まだ見習いであれば、あのタヌキババアの手も及んでおるまい。早めに冒険者ギルドに引き込んでおくのじゃ」
初老の幹部がそう言う。
冒険者ギルドと聖ミリアリア統一教会は、利害が対立することもある。
人材の引き抜き程度はよくあることだ。
「俺も爺さんに同意する。この人材は逃してはならんぞ」
「では、この貢献値での表彰を決定とさせていただきます」
「「「異議なし!」」」
タカシの特別表彰制度は認められ、表彰値は3000万ガルとなった。
その後もいくつかの議題が片付けられていく。
しばらくして、今日の議題は出尽くした。
「……では、本日の会合はこれにて終了とさせていただきます。大星殿、いつものあれをお願いします」
司会の男がそう言い、70歳は超えているだろう老人にまとめの言葉を促す。
その老人は、幹部たちの中でも上位の役職であった。
老人が立ち上がる。
高齢を感じさせないしっかりとした動きだ。
「ごほん。……民衆がか弱いことは罪ではない! 我ら冒険者が、悪を倒し、魔物を排し、未知の領域を切り拓いていくのだ!」
「「「おう!」」」
老人が大声で冒険者ギルドの創立理念を口にし、他の幹部たちが同じく大声で相づちを打つ。
これは今回わざわざ考えたわけではなく、創立時からの決まった文句だ。
「戦え! 守れ! 拓け! 我ら冒険者ギルドの名のもとに!」
「「「うおおおお!」」」
幹部たちが一斉に雄叫びをあげる。
彼らの多くは、もとは一冒険者。
武闘派の荒くれ者がほとんどだ。
熱気が会合場所を覆いつくす。
冒険者ギルド。
世界三大勢力の1つ。
タカシが世界滅亡の危機を回避するには、この組織との付き合い方も大切となってくる。
この荒れくれの強者たちを前に、タカシはうまく立ち回ることができるのか。
世界の命運は、まだ定まっていない。
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