174話 ミティとの結婚式 前編 バージンロード

 とうとう、今日はミティとの結婚式だ。

会場は村にある教会。

今は、教会の控室で着替えなどをしているところだ。


 このあたりの結婚式は、一応教会のようなところで行われることが一般的らしい。

とはいえ、普段はそれほど厳格な戒律などがあるわけでもない。

結婚式などの行事のときだけ、神が駆り出されるわけだ。


 村にも一応神官がいる。

神官とはいっても、普段は別の仕事をしているらしいが。

その男性が今日の結婚式を取り仕切る。


 少し日本人の感覚に近いかもしれない。

結婚式や葬式、初詣やクリスマスのときだけ、臨機応変にそれぞれの宗教に応じた儀礼を行うわけだからな。

結婚式の様式は、ある程度は日本の様式と似ているようだ。


 新郎側の準備部屋には、俺、モニカ、ニムがいる。

新婦側のミティは別の部屋で準備中だ。

あちらには、ダディ、マティ、アイリス、カトレアがいる。


「どうだ? おかしいところはないか?」


「いいと思うよ」


「か、かっこいいです」


 俺の問いに、モニカとニムがそう答える。


 俺は今、結婚式用の正装を着ている。

このあたりの地域でごく一般的な正装を用意してもらったのだ。

日本で言えば、タキシードのような服だ。

まあ少し異なる点もあるが。


「緊張するな……」


「まあ、本人たちが幸せなのが一番だし。気楽にやりなよ」


 モニカがそう言う。

そうはいっても、落ち着かない。

俺がそわそわしていると、来客があった。


「やあ。タカシ君」


「これはマクセルさん。それにストラスさんとカイル君。ようこそ」


 マクセル、ストラス、カイルがやってきた。

セリナとレベッカの姿はない。

ミティのほうに行ったのだろう。


「改めて、結婚おめでとう。タカシ君」


「へっ。これでタカシも妻帯者か。家庭を大切にしろよ」


 マクセルとストラスがそう言う。


「ええ。大切にします。……そういうストラスさんは、セリナさんとのご予定は?」


「なっ!? 俺とあいつはそんなんじゃねえよ!」


 ストラスが顔を赤くしてそう言う。

だから男のツンデレは要らないって。


「ふふふ。まあストラスとセリナの件は、俺に任せておいてよ。放っておいたら、何年もかかってしまうだろうしね。なあカイル?」


「そうっすね! 俺も尽力するっす!」


 マクセルとカイルがそう言う。

ストラスはまだ何か喚いているが、放っておこう。


 その後、準備を終えて万全の状態で待機する。

モニカやマクセルたちは教会の式場に一足先に向かった。

新婦側の部屋にいたマティやセリナたちも同様だろう。

その他の来賓の人たちも、教会の式場で待っているはずだ。


「タカシ殿。そろそろお時間でございます」


 係の人からそう声が掛けられる。

いよいよ、結婚式が始まる。

控室から出て、式場の入口の前までやってきた。


「新郎の入場でございます!」


 係の人がそう叫び、式場の扉を開く。

大音量で入場曲が演奏され始める。

俺は扉から式場の中に入る。


 当たり前だが、知った顔がたくさんいる。

ミティの母親であるマティ。

カトレアと、その父親である村長。

餅屋のマイン、マーシー、フィル。

マクセル、ストラス、セリナ、カイル、レベッカ。

その他、村の中で何度か見かけた村人たちがいる。

俺は顔を知っているぐらいだが、ダディたちの知り合いなのだろう。


 俺は式場の奥の祭壇まで歩いていく。

少しそこで待機する。

そして。


「新婦の入場でございます!」


 係の人がそう叫ぶ。

ミティとダディが入ってくる。

バージンロードだ。

ミティとダディがこちらに歩いてくる。


「ふぁぁ……。きれい……」


「いいなー」


「すてき……」


 来賓席のニム、アイリス、モニカがそう感嘆の声を漏らす。

セリナやレベッカも憧れるかのような目でミティを見ている。

また、その他の来賓の人たちからも感嘆の様子が伺える。


 確かに今日のミティは美しい。

今までのどんなミティより美しい。


 俺は、ミティと初めて会った日を思い出す。

俺がこの世界に転移してきた初日だ。

ファイティングドッグからミティと馬車を守るためにがんばった。

ミティはフードをかぶっていたので、そのときの女性がミティだと知ったのは後のことではあるが。


 あのときは、ファイティングドッグを牽制するのが精一杯だった。

今では、ファイティングドッグドッグなど恐るに足りない。

まあほとんどチートのおかげではあるが。

少しは自力や度胸もついてきたように思う。


 ミティと2回目に会ったのは、ラーグの街の奴隷商会だ。

そのときはお金がなかったのですぐに退散したが。

最後の別れ際に、ミティがニコッと笑ってくれたのが印象深かった。

今では奴隷という立場も解消し、対等な関係で人生を歩んでいくことになった。


 ミティとダディが俺のすぐ近くまで来た。

ダディが口を開く。


「タカシ君。ミティのことを、よろしく頼むよ」


「わかりました。任せてください。幸せにします」


 俺はダディの目を見て、力強くうなずく。


 ダディが下がり、来賓席へと向かう。

俺とミティで、神官のほうを向く。

村の神官が口を開く。


「新郎タカシ。あなたはここにいるミティを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」


「誓います」


「新婦ミティ。あなたはここにいるタカシを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」


「誓います!」


 俺とミティの誓いの言葉に、神官が満足気にうなずく。


「では、誓いの口づけを」


 みんなの前で口づけか。

事前に聞いてはいたが、なかなかハードルが高い。

思い切ってやるしかない。


「ミティ。愛している。一生を添い遂げよう」


「私も愛しています。タカシさん。一生ついていきます」


 ミティと見つめ合う。

唇を近づけ、キスをする。

ミティの唇の感触を堪能する。

口を離す。


 キスの余韻に浸るかのように、再び見つめあう。

不意に、ミティがニコッと微笑んでくれた。


 天使の微笑みだ。

またの名をエンジェルスマイルという。

この笑顔を守っていこう。

そう決意を新たにする。


 俺は、来賓席のほうに体を向ける。


「皆さま。本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。これから彼女と力を合わせて、幸せな家庭を築いていきます。どうか今後もよろしくお願い致します」


「よろしくお願いします!」


 俺とミティはそうまとめのあいさつを口にし、一礼をする。

来賓席のみんなから拍手がされた。


 その後も、つつがなく結婚式が進行していく。

式は終わりに近づいてきた。


 次はブーケトスだ。

新婦が花束を放り投げ、それを受け取ることに成功した人は、次に結婚できると言われているらしい。

特に俺からは日本の結婚式の風習などは伝えていないのだが。

似たような風習があるもんなんだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る