173話 夢の混浴 わが生涯に一片の悔いなし!!

 ミティとの結婚式は数日後に迫ってきている。

今日もガロル村でゆっくりと過ごそうかな。


「みんな。今日は何をして過ごそうか?」


 魔物狩り、魔法や剣の鍛錬。

マクセルたち疾風迅雷との合同訓練。

村の周囲の探索、村の観光。

ゆっくり休息。

できることはいろいろある。


 俺の問いかけに、ニムがおずおずと手を挙げる。

何か案があるようだ。


「む、村の人に聞いたのですが。ここの山奥に、大きなお風呂があるそうです」


「大きなお風呂? それはいいね。行ってみたいな」


 ニムの言葉を受けて、モニカがそう言う。


「ああ。あの秘湯のことですか。私も数回だけ入ったことがあります」


 ミティがそう言う。


「秘湯、つまり温泉か。あれはいいものだ」


「へえ。ボクは入ったことないなあ」


 アイリスがそう言う。


「み、みんなでいっしょに行ってみませんか?」


「山奥にあるので、少し危険ですが……。私たちならだいじょうぶでしょうね」


 ニムの誘いに、ミティが前向きな返答をする。

他の人からも反対意見はなかった。

もちろん俺も同様だ。

さっそくその山奥の温泉に向かおう。



●●●



 山奥の温泉にやってきた。

温泉には、ちょっとした囲いが設けられている。

近くには小屋もある。


「しかし、道中に結構魔物がいたな。村人が来るのは危ないんじゃないか?」


「そうですね。村人がここを利用するのは、特別な日だけです。日常的に入っている者はいません」


 俺の言葉に、ミティがそう答える。


「もしかして、神聖なものだったりするのか? 俺たちが入るのはマズいんじゃ……」


 神聖な湯を汚す不届き者め!

即刻処刑せよ!

とか。


「いえ。特別に神聖なものではありません。単純に、道中の危険性や利便性の問題ですので」


「なるほど。それなら問題ないか」


「このあたりまで来れば、魔物の生息数も少ないので入浴中に襲われる危険性も低いです。ゆっくりと入りましょう」


 ミティがそう言う。


 小屋に入る。

ここを脱衣所として利用すればよさそうか。

もちろん、先客などはいない。

俺たちの貸し切りだ。


 しかし、気になることがある。


「……ん? もしかして、男湯と女湯が別れていないのか?」


 脱衣所のような小屋は、1つしかない。

温泉も、湯船が1つだけだ。

特に仕切りなどはない。


「そうですね。ここは混浴です。とはいえ、村の年頃の男女がともに入る風習はありませんが」


 ミティがそう言う。


「うーん。そうか。……俺は外で待ってるよ。みんなが先に入ってくれ」


 混浴は男のロマンだ。

しかし、物事には順序というものがある。


 ミティは頼めばいっしょに入ってくれるだろう。

もうそれ以上のことをした仲だしな。


 一方で、アイリスとモニカには以前に断られてしまっている。

論外というほどの強い拒絶ではなかったが。

もう少し友好を深める必要がある。


 ……と、思ったが。


「そ、それは悪いよ。いっしょに入る?」


 モニカからの予想外の誘いだ。

日々の行動をともにしていることで、少しずつ友好度が上がっていたのだろうか。


「ぜひ! と言いたいところだが。他のみんなもいいのか?」


「私はもちろん構いません」


「わ、わたしもだいじょうぶです。少し恥ずかしいですが」


 俺の問いに、ミティとニムがそう答える。


「け、結婚前の男女が裸を晒すなんて」


 アイリスがそう言う。

顔が赤い。


 モニカ、ミティ、ニムからは混浴オーケーの回答をもらえた。

あとはアイリスだけだ。

何とか説得したい。


「ハガ王国のスプール湖では、水着で湖水浴をしたじゃないか」


 アイリスは俺やミティと、湖水浴をしたことがある。

露出は少ないものの、肌にぴっちりと張り付くタイプの水着を着ていた。

彼女の鍛え抜かれた肉体は美しかった。

あの水着は借り物だったので、今は持っていない。


「裸と水着は違うよ! それに、ボクのは露出が少ない水着だったし」


 アイリスは羞恥心が強いようだ。

少し意外だ。

まあ神官だしな。

身持ちは固いということか。


「そういうことなら仕方ないな。やはり俺は外で待っているよ」


 無理強いして友好度が下がるのも嫌だ。

ここは引き下がるしかないだろう。


「……待って! ボクにいい考えがある」


 アイリスがそう言う。

何か策があるそうだ。



●●●



「はあー。いい湯だ……」


 俺は今、温泉に入っている。

ミティ、アイリス、モニカ、ニムもいっしょだ。

夢の混浴だ。

俺は男の夢の1つを成し遂げたと言っても過言ではない。

わが生涯に一片の悔いなし!!


「タカシ。だいじょうぶ? 見えてないよね?」


 アイリスがそう言う。


「ああ、だいじょうぶだ」


 何がだいじょうぶなのかと言うと。

俺の目隠しだ。

ハチマキ状のもので目隠しをすることを条件に、混浴が許されたのだ。


 俺は腰にタオルを巻いた状態で湯船につかっている。

本来であればマナー違反だが、仕方ない。

水着も持っていないしな。


「いやー。いい湯だねえ」


「そ、そうですね。ずっと入っていたいぐらいです」


 モニカとニムがそう言う。


「昔、お父さんとお母さんと入ったことがあります。あまり変わっていませんね。懐かしいです」


 ミティがそう言う。

ミティの思い出の場所か。

そう考えると、感慨深いな。


 しばらくはそうしてゆっくりとお湯につかる。

それにしてもいい湯だ。

日々の疲れがとれていく。


 ふにっ。

不意に、俺の腕に何かが当たった。

柔らかい感触だ。


「きゃっ。ごめんね」


 モニカがそう言う。


「何がごめんね何だ?」


「あっ、そうか。見えてないもんね。気にしないで、忘れてよ」


 いったい何なんだ?

何が当たったんだ?

あの柔らかい感触の正体は……?

もしかしてモニカの……。


 考え始めると、理性が保てなくなってくる。

モニカを含め、全裸の女性が4人も近くにいる。

想像すると、俺のあれがああなってくる。


 マズいぞ。

これ以上は理性が持ちそうにない。

思わず目隠しを取りたい衝動に駆られる。


 マズいマズい。

過ちを犯す前に退散しよう。


「さ、さて。そろそろあがるか」


 俺は平静を装い、湯船から立ち上がる。


「あっ。タカシ様。腰のタオルが……」


 ミティが焦ったような声でそう言う。

俺の腰のタオルが緩んでしまっていたようだ。


 俺は目隠しをしているため、それに気が付かずに立ち上がってしまった。

俺の腰のタオルがずり落ちる感触があった。

つまり、俺のあれが白日の下に晒されたというわけだ。


「きゃっ」


「へえ……」


「わあ……」


 アイリス、モニカ、ニムの声だ。

みんなの視線を感じる。


「み、みなさん! 見てはダメです!」


 ミティの焦った声だ。

俺のあれが何かに包まれる。


「おう!?」

 

 誰かの手だ。

手の大きさと力感覚からして、ミティか。

俺のあれが心地よい感覚に包まれる。


「ミ、ミティか? 俺のあれから手を離すんだ」


「あっ。す、すいません。とっさに隠そうとして……。すぐに離します。替わりにタオルを……」


「おおうっ!?」


 ミティが俺の股関周りでガサゴソする。

快感が押し寄せてくる。

ミティにそういう意図はないのだろうが。

俺は思わず身じろぎする。


「あ……。タカシさんの目隠しが……」


 ニムがそう言う。

このドタバタで、俺の目隠しまでずれてしまった。


 意図せず、みんなの裸が視界に入ってくる。

ニムは湯船につかっていたので見えなかったが。

モニカ、アイリス、ミティの全裸はばっちりと見てしまった。


 ミティが俺の股関周りでガサゴソしている刺激に加えて、みんなの裸。

この合わせ技で、俺は思わず……。

…………。

……。


 みんなが見ている前でこんな醜態を晒してしまうとは。

何という日だ。

結果的に、なかなかハイレベルなプレイをしてしまった。

不慮の事故ということで、みんなからはさほど怒られなかったのはせめてもの救いだった。

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