110話 ゾルフ砦の面々とのお別れ 後編

 別れの挨拶回りの続きだ。


 次はメルビン道場に向かう。

メルビン師範とビスカチオ師匠がいた。


「メルビン師範、ビスカチオ師匠。短い間でしたが、ご指導ありがとうございました」


「うむ! 最後に、稽古をつけてやろう! ただし、闘気の使用はなしだ!」


 メルビン師範と道場で相対する。

……。

あっさりと床に転がされた。


「まだまだ儂も、技術では若い奴らには負けん! 武闘の技術を学びたくなったら、またいつでもここに来い! ま、指導料はいただくがの!」


 メルビン師範は、身体能力や闘気は加齢により衰えつつある。

ただ、磨き抜かれた技術は健在だ。

彼から学ぶことはたくさんある。


「我は、まだまだお前に教えたいことがある。……が、我の長期休暇も終わりが近い。ソラトリアに戻り、弟子たちの指導を行う必要がある。お前がもっと魔剣術を学びたいと思うのであれば、ソラトリアを訪れるがいい。師範に紹介しよう。時期が合えば、剣技会にも出てみるといい」


 ビスカチオは氷炎魔剣流の準師範だ。

彼の上には師範がいる。

剣の聖地であるソラトリアに行けば、学ぶことも多いだろう。


「はい。いつかきっと、訪れます」


 メルビン師範、ビスカチオ師匠。

彼らと最後の挨拶をして、別れる。



 次に挨拶をする人を探す。

赤き大牙、蒼穹の担い手、三日月の舞、竜の片翼。

リルクヴィスト、ハルトマン。

ベネフィット商会のベルモンド。

どうやら、彼らは既にゾルフ砦を出立してしまったようだ。


 まあ、潜入作戦が成功して侵攻がなくなってから、結構経つしな。

ベネフィット商会は、本来の目的地であるオルフェスへ向かったのだろう。

三日月の舞、竜の片翼、それにハルトマンは、引き続きその護衛依頼を受けたのかもしれないな。


 赤き大牙や蒼穹の担い手の次の目的地はわからない。

ゾルフ砦には観光を兼ねて来たと言っていたし、ラーグの街に戻っているかもしれない。

向こうで会えるかな。


 

 さて。

これで一通りの挨拶は済ませたかな。

最後に、冒険者ギルドに立ち寄る。


 アドルフの兄貴、レオさん、テスタロッサ、ゾンゲルがいた。


「みなさん。いろいろとお世話になりました」


「ふむ。律儀なやつだな。冒険者にしては珍しい」


 ゾンゲルがそう言う。


「冒険者は、街から街へ移動することも多い職業だ。黙って去るやつのほうが多いぞ。まあ、律儀なのは悪いことではないがな」


 テスタロッサがそう言う。

黙って去る人も多いのか。

わざわざ挨拶回りをするのは、ちょっと丁寧過ぎたかもしれない。


「へっへっへ。次はラーグの街に戻るんだったか?」


「そうですね。借金の返済もありますし」


 ミティ購入時の借金が270枚ほどある。

手持ちの現金は、防衛戦と潜入作戦の報酬、ガルハード杯の賭けの払い戻し金により、金貨200枚近くになっている。

借金完済の日も近い。

潜入作戦の追加報酬も近いうちにもらえる予定だしな。


「タカシ。お前の成長速度は期待以上だ。ラーグの街での用事が済んだら、いろいろな街を訪れ経験を積むのがいいだろう。ギャハハハ!」


 レオさんの言う通り、いろいろな街を訪れてみるつもりだ。

世界滅亡の危機を避けるために、各地を回ってレベルを上げつつ、加護付与者を増やしていく必要があるからな。


「そうしたいと思っています。ちなみに、なにかオススメの街はありますか?」


 彼らはBランク冒険者。

ベテランだ。

いろいろな街を訪れたことがあるだろう。

アドバイスをもらっておいて損はない。


「へっへっへ。そうだな。剣の聖地ソラトリアや魔法学園都市シャマールに行けば、それぞれ剣と魔法の腕は上がるだろうな。後は、王都サザリアナだな。4年に1度開催される御前試合の時期は相当な実力者が集う。王都周辺には魔物がやや少ないから、普段の活動拠点としてはイマイチだがな」


 ソラトリアは、ビスカチオ師匠も言及していた街だ。

魔法学園都市や王都も興味深い。


「なるほど。……他にはありますか?」


「海洋都市ルクアージュ、食の都グランツあたりは観光地としても有名だぜ。ちなみにルクアージュはラスターレイン伯爵領にある。ギャハハハ!」


 ラスターレイン伯爵領か。

確か、リルクヴィストはそこの次男だったか。

リーゼロッテとも因縁があるようだし、行ってみてもいいかもしれない。


 食の都も行ってみたい。

おいしいものをたくさん食べたい。

ハガ王国の料理も悪くなかったし、ゾルフ砦の肉料理もなかなかだ。

ラーグの街のモニカの料理もおいしい。

今後もおいしいものをたくさん食べていきたい。


「ありがとうございます。いろいろな街に行ってみます!」


 アドルフの兄貴、レオさん、テスタロッサ、ゾンゲル。

彼らと最後の挨拶をして、別れる。


 

 冒険者ギルドを出ようとしたとき、ちょうどウッディと出くわしたので、挨拶をしておく。

ウッディはしばらくはゾルフ砦を拠点に活動するそうだ。

ウッディと別れる。


 さらに、入れ替わりで見知った顔がギルドに入ってきた。

マクセル、ストラス、カイル、レベッカだ。


「マクセルさん、ストラスさん。こんにちは。奇遇ですね」


「ん? ああ、タカシ君か」


 マクセルがそう返事する。


「俺たちは、明日この街を出ます。今までありがとうございました」


「へえ、そうなんだ。これからもがんばってね」


 マクセルが軽い感じでそう挨拶を返してくる。


「タカシ。前から言おうと思っていたことがある。……お前、俺の鳴神を無断でパクリやがったな!」


 ストラスがそう言う。


「バレていましたか。素晴らしい技です」


 俺は開き直ってそう言う。


「それを言ったら、ストラスさんだってボクの裂空脚を真似したじゃない!」


 アイリスがそう指摘する。


「うっ! それは……」


 ストラスがたじろぐ。


「まあいいじゃないですか。みんなでお互いの技を盗み合って、成長していきましょう」


 俺はいい感じに締めくくろうと、そう言う。


「ちっ。仕方ねえな。今度は、簡単に真似できないような技を開発してやるぜ!」


 ストラスがそう意気込む。


「ところで、マクセルさん。本気のあなたの試合を一度見たかったです。かなりお強いのですよね」


 マクセルの全力は、どれほどのものなのか。

ガルハード杯では、ラゴラスやギルバートを相手に、まるで全力を出さずに勝っていた。

巨大ゴーレム戦では活躍していたが、あれが全力かどうか。

潜入作戦では途中から俺とは別れて戦っていたしな。

彼の実力の底は、結局わからないままだ。


「ゾルフ杯の時期にまたおいでよ。ゾルフ杯レベルだと、俺でも苦戦することもあるよ。当然、全力を出すことになる」


「前回は準優勝されたのでしたか」


「ああ。前回は、決勝でアドルフさんに負けたよ。強かった」


「なるほど。兄貴と戦ったのですね」


 決勝の相手はアドルフの兄貴だったのか。

ということは、前回のゾルフ杯の優勝者はアドルフの兄貴だ。


「俺はまだまだ強くなる。俺とストラス、それにカイルとレベッカもいっしょに、冒険者として活動してみるつもりさ。何か新しいものが掴めるかもしれないと思ってね」


 マクセルがそう言う。


「そうですか。いずれまた、お会いすることもあるかもしれませんね」


「そうだね。楽しみにしているよ」


 マクセル、ストラス。

ついでにカイルとレベッカ。

彼らと最後の挨拶をして、別れる。



 改めて振り返ってみても、この街ではいろいろな人に出会った。

それぞれの人から、いい刺激をもらった。


 別れは寂しい。

だが、また新しい出会いもある。

それに、彼らとまた再会することもあるだろう。


 少しの寂しさと大きな期待を胸に、今後の旅を続けていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る