96話 祝福の姫巫女マリアとの出会い

 バルダイン、ナスタシアとの戦闘は佳境を迎えていた。


「十本桜!」


「ビッグ……、バン!」


「豪・裂空脚!」


 俺もミティもアイリスも、全力だ。

出し惜しみしている余裕などない。


『くっ。なかなかやるわね』


『少し見くびっていたようだ。我も少し本気を出そうか』


 バルダインが右腕に闘気を集中させていく。

大技がきそうだ。


「ミティ! アイリス! 気をつけろ!」


「わかりました!」


「了解!」


 俺、ミティ、アイリスはそれぞれ防御体勢を取る。


『くらえぃ! 鬼王痛恨撃!』


 バルダインの右腕から衝撃波が飛んでくる。


「ぐっ。ぐあああっ!」


 必死でガードするが、耐えきれない。

かなりの威力だ。

床や壁もろとも、吹き飛ばされてしまう。

 

『……ぬ。少し力を入れすぎたか』


『部屋が崩落するわ。逃げられてしまうかも。追いましょう』


 床や壁が崩れていく。

ミティとアイリスの姿を探すが、見当たらない。

バルダインの攻撃のダメージにより、体がうまく動かない。

崩落する床とともに、俺は暗闇の中へ落ちていった。



●●●



「……ん。……ここは……?」


 少しの間、意識を失っていたようだ。

目が覚めると、見知らぬ場所で倒れていた。

まずはミティやアイリスと合流しないと。


 あたりを見回す。

…………。

赤い。

赤い液体が部屋を染めていた。


 ハーピィの少女だ。

ハーピィの少女が血だらけで横たわっていた。


「なんだ、この部屋は……」


『お前には関係のないことだ』


 いつの間にか、バルダインが部屋にいた。

気がつかなかった。


 バルダインの挙動を警戒しつつ、部屋の中を見回す。

何やら模様が描かれていた。


「魔法陣、か……? 何の魔法陣だ?」


『ふん。冥土の土産に教えてやろう。これは、生命力を魔素に変換する魔法陣だ」


 なるほど、わからん。


「つまり……どういうことだってばよ」


『魔物を使役する従属魔法や、ゴーレムを遠隔操作する上級土魔法を発動するには、莫大な魔素が必要となる。この魔法陣で、必要な魔素を生み出していたのだ』


「この娘を犠牲にして、従属魔法や土魔法を発動していたわけか。ひでえことしやがる」


『その少女は、生まれながらにして絶大な生命力と回復力を備えた祝福の巫女である。祝福の巫女として生まれた以上、国のために苦痛に耐え忍ぶことは当然の義務だ。その少女が我慢すれば、従属魔法や土魔法の活用により、一般兵たちの犠牲は格段に減るのだ』


 ……うん。

理屈ではその通りなのだろう。

だが、実際に目の当たりにすれば、すんなりと納得できるものではない。

気分が悪い。


「だからと言って、いたいけな少女を傷つけて平気な顔をしているとは。さすがは国王陛下。図太い精神をお持ちだ」


 俺は思わず嫌味を言う。


『平気な顔だと? そう見えるのか……。本当にそう思うのか……!』


 バルダインの顔がゆがんでいく。

今にも泣きそうな顔になっている。


『その少女が、……マリアが、俺の娘だとしてもか!』


 バルダインがそう叫ぶ。


「なっ。貴様、自分の娘を犠牲に?」


 このマリアという少女は、バルダインの娘らしい。


『仕方あるまい……。祝福の巫女としての避けられぬ運命だ。我らが生き残るためには、それしか方法はなかったのだ』


「本当にそうなのか? 今からでも遅くない。事情を話してくれないか」


 なぜ頑なに事情を話してくれないのか。


『……お前は、見ず知らずの我が娘の身を案じる優しさを持っている。思っていたよりも信頼できる人物なのかもしれん』


「だったら!」


『しかし、もう遅い。もはや引き返せぬところまで来てしまったのだ。一族のため、止まるわけにはいかん!』


 バルダインの目の黒いモヤが濃くなる。

彼の姿が変質していく。

角が伸びていく。

体が一回り大きくなっていく。


『気をつけろよ。こうなったら、うまく手加減ができんかもしれん』


 さしずめ、鬼族鬼化といったところか。

第2ラウンド開始だ。

 


●●●



 一方その頃。

ゾルフ砦の防衛戦も佳境に入っていた。

乱戦だ。

攻め手の魔物1匹1匹は強くないものの、防衛側の陣形が乱れれば不覚を取ることもあり得る。


「マーチン! そっちに行ったぞ!」


「まかせてよ! 散桜拳奥義、桜吹雪の舞!」


 ミッシェルとマーチン。

タカシやミティとガルハード杯1回戦で闘った2人だ。

冒険者と兼業しているウッディやタカシらと違い、魔物との戦闘は専門外である。

とはいえ、闘気術を用いた武闘により低級の魔物なら問題なく討伐できる。


「リーゼロッテ! 後ろだ!」


 リルクヴィストがそう叫ぶ。

リーゼロッテの後ろからゴブリンが攻撃を仕掛けようとしていた。


「……っ!」


 リーゼロッテの反応が遅れる。


「ふっ」


 コーバッツが間に入り、盾でゴブリンの攻撃を受け止めた。

そのまま弾き飛ばす。


「よくやった、コーバッツ! ……アイスアロー!」


 体勢を崩したゴブリンに、リルクヴィストが水魔法で追撃する。

ゴブリンは絶命した。


「ふう。助かりましたわ」


「油断するなよ。まだまだ戦況がどう転ぶかわからん」


「ええ」


 リルクヴィストの忠告に、リーゼロッテは素直にうなずく。


「むっ。リルクヴィスト様、あれを!」


 コーバッツが指を向けた先には、中型ゴーレムがいた。


「ちっ。ゴーレムか。仕方ねえ、俺の水魔法で……」


「まあ待て。ここは我に任せよ」


 竜人のラゴラスが一歩前に進む。


「はああああっ!」


 ラゴラスが大きくジャンプする。


「いくぞ! 秘技、竜星飛翔!」


 滑空し、中型ゴーレムに突進する。

闘気を纏ったタックルである。


 ゴーレムは大きく砕かれ、動かなくなった。


「やるじゃない! 私もまだまだ負けてられないわね!」


「……俺もまだまだ!」


 カタリーナ、マスクマンもやる気を見せている。


「皆のもの! その調子だ! 孤立しないように気を付け、各個撃破していけ!」


「……神の導きを」


 ゾンゲル、エドワード、テスタロッサ、ビスカチオらの司令官たちも、腰痛が多少収まり、戦線に復帰している。

防衛陣の士気は上々であった。

魔物の群れに大きく遅れを取ることはない。


 ただし、後方で不気味に様子を伺っているオーガとハーピィの軍勢は気がかりであった。

防衛側の主力の一部を潜入作戦に投入している現状、奴らから大きく攻勢に出られると、被害は免れない。


 最終的な戦況は、潜入作戦による説得と和解にかかっていると言えよう。

アドルフやタカシたちは、無事に役割を果たすことができるのか。




レベル?、マリア

種族:ハーピィ(鳥獣人)

HP:高め

MP:???

腕力:???

脚力:???

体力:???

器用:???

魔力:???


スキル:???

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