95話 潜入作戦:vs国王夫妻

 国王夫妻を探して、敵地を歩き回る。

ひときわ大きな建物がある。

ここが王宮だろうか。

確証はないが、調べている時間もない。

思い切って忍び込む。


 俺とアイリスは、気配察知レベル1と気配隠匿レベル1のスキルを取得済みだ。

こういう潜入には向いている。

ミティは取得していないため、俺とアイリスでサポートしながら進んでいく。


 気配察知と気配隠匿のスキルはなかなかのものだ。

今のところ、見回りの兵に見つかることがなく進めている。

見回りの兵士がやや少ない気がする。

普通はどの程度いるものなのかは知らないが。

侵攻の軍に人数を割いている分、こちらが手薄になっていたりするのだろうか。


 そんな風に考え事をしながら進んでいたのがまずかった。

少し油断していた。

足元の小石をうっかり蹴飛ばしてしまった。


『ん? だれかいるのか?』


 やばい。

見回りの兵士がこちらに向かってくる。


「(仕方ない。ボクに任せて)」


 アイリスがそう言う。

アイリスが見回りの兵士の後ろに素早く回り込む。

首筋に手刀を叩き込む。

よく漫画とかである、首をトンッとする技だ。

恐ろしく速い手刀……、俺でなきゃ見逃しちゃうね。


 見回りの兵士は気を失い、倒れ込む。


「(これでよし。先を急ごう)」


 さらに奥へと進んでいく。



●●●



 ひときわ大きな扉がある。

もしかして国王夫妻の部屋だろうか。

扉の前の兵士を倒し、中に入る。


 中には、オーガとハーピィがいた。

風格と気品がある。

彼らが国王と王妃で間違いないだろう。


 2人とも、目が黒い。

何となく不気味な印象を受ける。


『侵入者か。ここまで来るとは、なかなかやるようだ』


『人族が何をしにきたのかしら?』


「話し合いをしに来ました。侵攻をやめていただけませんか?」


『……ほう。我らの言語を完璧に話せる者がいるとはな。興味深い』


 俺の異世界言語のスキルの影響だろう。


『でも、話して解決するような問題じゃないの。悪いけど、坊やたちの冒険はここでお終いよ』


『そういうことだ。どうしてもと言うのなら、まずは我らを打ち負かしてみせよ! 行くぞ!』


 問答無用か。

戦うしかないようだ。


「くるぞ! ミティ! アイリス!」


 戦闘態勢に入る。

ミティがアイテムバッグから石を取り出す。

俺は火魔法の詠唱を開始する。

アイリスは聖闘気を纏う。


「でやぁ!」


 ミティがまずは投擲で先制する。


「ボルカニックフレイム!」


 さらに俺の火魔法で追撃だ。


『ぬうっ』


 ミティの投石と俺の火魔法に、バルダインとナスタシアが怯んでいる。

一気に畳み掛けるぞ。

ミティにアイコンタクトで合図をする。

ミティがうなずく。


「「エアバースト!」」


 俺とミティの風魔法だ。

同時に発動したので、威力が高くなっている。

突風が吹き荒れる。


『くっ』


 空を飛ぼうとしていたナスタシアが体勢を崩した。

チャンスだ。


「炎あれ。わが求むるは豪火球。十本桜!」


 十個の火球がナスタシアを襲う。

コツコツと練習して、三本桜から数を増やしておいた技だ。


『調子に乗るな! エアバースト!』


 ナスタシアがエアバーストで火球をかき消した。

全ては消しきれていない。

多少のダメージは与えられた。


「迅・裂空脚!」


『ちっ。ちょこざいな!』


 アイリスの回し蹴りがナスタシアにヒットする。

ギリギリガードされたのでダメージは少ないが、ナスタシアにスキが生じる。

いいぞ。

押している。


「はあっ」


 ミティがそのスキを突き、ナスタシアに組みかかる。


『くっ。生意気な小娘め!』


 ミティがうまくマウントポジションを取った。

これはもらった。

ミティの怪力からは容易には抜け出せない。


『ナスタシア!』


 バルダインがナスタシアの元へ向かおうとする。

そうはさせない。


「おっと。お前の相手は俺だ」


 剣を構えてバルダインの前に立ちふさがる。


「カ・イ・リ・キ! メリケン!」


 ミティのパンチがナスタシアの頭部に直撃する。

これは死んだんじゃないか?

話をするどころではない。

手加減などする余裕がないので、仕方がないとはいえ。


 ……ん?

いや、ナスタシアは上手くガードしたようだ。

マウント状態からのミティの一撃を防ぐとは。


『小娘にしてはなかなかやるわね。でも私の力を相手にするには少し足りないわ』


「ぐ、ぐぬぬっ!」


 ミティのパンチは受け止められ、逆に押し返されている。

ミティが力負けしているだと!?

やばいぞ。


「迅・砲撃連拳!」


 アイリスがナスタシアに攻撃を仕掛ける。

ナスタシアが怯み、力が緩む。

そのスキに、ミティは離脱できたようだ。


『余所見をするとは余裕だな、小僧』


「む!」


 バルダインの攻撃を剣で受け止める。

俺はバルダインの相手をしなければならない。


 チートの恩恵を多大に受けている俺たち3人でも、ほとんど余裕がない。

ここが踏ん張りところだ。

集中しよう。



●●●



 一方その頃。

暗躍する1つの影があった。


「(うふふ。全ては計画通り……)」


 センと名乗っている女だ。

女は、満足気に微笑む。


「(大地の裂け目、スプール湖、カリオス遺跡。魔素で十分に満たされつつあります)」


 大地の裂け目では、低級の魔物を人族へけしかけた。

スプール湖には、先代の六武衆を追いやった。

カリオス遺跡では、人族の侵入者と今代の六武衆が戦闘中である。


「(さて、カリオス遺跡に向かいましょうか。最後の仕上げが待っています。うふふ……」


 女は闇に溶け込み、姿を消した。

彼女が何を企んでいるのか。

それを、タカシたちはまだ知らない。

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