第4章 防衛戦、潜入作戦

83話 魔物の軍勢の確認:防衛戦準備

 タカシが滞在しているゾルフ砦は、ラーグの街のほぼ真東にある。

ラーグの街からゾルフ砦への道の南側に沿うようにして、巨大な山脈が広がっている。


 この山脈から南は”魔の領域”と呼ばれる未開地であり、危険地帯である。

中央大陸からの開拓団の手が入っておらず、強い魔物が多く生息している。

とはいえ、巨大な山脈を越えて北上してくる魔物はほとんどいない。

山脈自体にも魔物はいるが、あまり人里には下りてこない。

そのため、近隣町村の住民や為政者が特別に警戒しているわけではなかった。


 例外が、ゾルフ砦だ。

ゾルフ砦の南側に、山脈が緩やかになっているところがある。

通称”大地の裂け目”と呼ばれている。


 大地の裂け目からの魔物の流入に備えて、ゾルフ砦は建設された。

人々がこの新大陸に移住し、開拓を進めたばかりのころは、流入してくる魔物も多かったのだ。


 しかし近年は、落ち着きを見せており、ゾルフ砦は本来の防衛拠点としての役割を失いつつあった。

防衛拠点として猛者が集まってきていた名残から、ここ最近は武闘の名地としての認識が強くなってきている。

ゾルフ杯やガルハード杯などでは、各地から参加者や観戦者が集まり、盛り上がりを見せている。



●●●



 今日はガルハード杯の準決勝から決勝戦が行われる日だ。

ミティと朝食を済ませ、コロシアムに向かう。


 何やら街が騒がしい。

なんだなんだ?


 コロシアムに着く。

武闘会が開かれるような雰囲気じゃないな。


 エドワード司祭とアイリスがいる。

話しかけてみよう。


「エドワードさん、アイリス。おはようございます」


「ああ、おはよう」


「おはよー」


「何かあったのでしょうか? 何やら様子が変ですが」


「わからない。心当たりはないこともないが……。もうじき発表があるようだ。それを待とう」


 彼らも詳細は知らないようだ。

おとなしく待つか。


 おそらく、ミッションにある防衛戦が始まるのではなかろうか。

俺にもっとできる準備や対策がなかったかと考えてしまうが、いまさらか。

ビスカチオ師匠に最低限の報告と相談はしている。

この街の上層部は南方の不穏な動きを把握しているとのことだった。

エドワードは外部の者だが、実力者ということで最低限の情報共有はされていたのかもしれない。


「皆の者! 聞いてくれ!」


 壮年の男性から大声が発せられた。

何かしらの発表があるようだ。


「ワシはゾルフ砦守備隊長兼町長のゾンゲルじゃ! 南方に魔物の大量発生が確認された! このままではこの街に被害が出る可能性がある!」


 やはり防衛戦か。

このコロシアムに集まっている人たちは、ざわついてはいるがパニックになっている人はいないようだ。


「そこで、先手を取り魔物の討伐を引き受けてくれる者を募集する! 討伐数や働きに応じて報奨金は支払う!」


 街が攻められる前に、実力者たちによって討伐しようというわけか。

これを防衛戦と呼べるかは微妙か?

まあこの事前の討伐によって結果的に街が守られるなら、防衛戦と言えないこともないか。


 この辺は、ミッションの達成状況の確認が必要だな。

ミッションの文言から判断すれば、防衛戦には参加するだけでミッション達成になるはずだ。


「冒険者たちにはギルドに依頼を出しているので、ランク査定などで有利になるだろう! もちろん、冒険者登録をしていない者たちにも、報酬金は支払う!」


 ランク査定と報奨金。

どちらも魅力的だ。

 

「参加してくれるものは、ここに残ってくれ! いくつかのグループに分ける! その後、準備ができ次第、討伐遠征に出発する!」


 もちろん参加するので残る。

ほとんどの人は同じくこの場に残っている。


 ガルハード杯の参加者もちらほらと見かける。

ギルバート、ジルガ、ラゴラス、ウッディ。

リルクヴィスト、ミッシェル、マーチン。

他にも、予選で闘った人たちもいる。


 武闘回の観戦に来ていた冒険者たちもこの場には大勢いる。

武闘会に参加していなくても、魔物討伐となれば話は別だ。

剣や魔法で戦う人は多い。


 赤き大牙、蒼穹の担い手、漢の拳、三日月の舞、龍の片翼。

見知ったパーティの姿がある。


 グループ分けされるなら、できれば知っている人たちと同じグループになりたいものだ。


 赤き大牙。

Dランクパーティ。

ラーグの街から西の森への遠征で行動をともにした。

大剣を使うおっさんのドレッド。

弓を使うスレンダーなユナ。

全身鎧のジーク。

バランスの良いパーティだ。


 蒼穹の担い手。

Cランクパーティ。

西の森でのホワイトタイガー討伐で行動をともにした。

槍を使う好青年のコーバッツ。

水魔法を使うおっとりお姉さん系のリーゼロッテ。

他3名。

高いレベルでまとまっているパーティだ。


 漢の拳。

Cランクパーティ。

ラーグの街からここゾルフ砦まで、護衛依頼で行動をともにした。

ガルハード杯ベスト8のギルバート。

他4名。

全員が武闘家で、闘気術の使う。

編成は偏っているものの、戦闘力は高い。


 三日月の舞。

Cランクパーティ。

ラーグの街からここゾルフ砦まで、護衛依頼で行動をともにした。

リーダーの炎魔法使いエレナ。

雷魔法使いのルリイに、土魔法使いのテナ。

前衛の男が2名。

前衛が魔物を足止めし、後衛が魔法を打つ。

役割分担がはっきりとしたパーティだ。


 龍の片翼。

Cランクパーティ。

ラーグの街からここゾルフ砦まで、護衛依頼で行動をともにした。

リーダーは剣士のグズマン。

副リーダーはガルハード杯にも出場していた竜人のラゴラス。

他、剣士が1名、風魔法使いが1名、治療魔法使いが1名。

全員がCランクで、非常に高いレベルでまとまっているパーティだ。


 冒険者以外で交流があるのは、ガルハード杯の出場者だ。


 エドワード司祭とアイリス。

エドワードは武闘神官で、アイリスは武闘神官見習いだ。

武闘を得意とし、聖闘気という奥の手もある。

アイリスは治療術も使える。

もし行動をともにするなら、かなり頼りになる存在だ。


 そんなことを考えつつ、しばらく待つ。

守備隊長のゾンゲルから、続報があるようだ。


「皆の者! これより具体的なグループ分けと作戦行動に移る! 詳細はこちらのテスタロッサ氏が仕切る!」


「冒険者ギルドのゾルフ支部マスター、テスタロッサよ」


 30代くらいの女性だ。

彼女がギルドマスターか。


「魔物数百以上。主戦力は知能のあるオーガとハーピィ。さらに、ゴブリンやファイティングドッグなどを誘導し、先陣としてこちらにぶつけてくる戦略のようね」


 オーガとハーピィか。

翻訳の魔道具があれば、意思疎通ができる知能があるとビスカチオが言っていた。

俺の異世界言語のスキルが通用するか、挑戦してみる価値はあるだろう。


 ただし、俺やミティが相手の陣地に突っ込んでいくのは危険が大きすぎるので無しだ。

加えて、ミッションの件もある。


「まずはこの先陣を叩いていく! 基本的に雑魚ばかりだが、気を抜くなよ! 後ろにオーガとハーピィが控えているからな!」


 まずは、ゴブリンやファイティングドッグなどの先遣隊を掃討しつつ、防衛戦の動向を見守るしかないだろう。

受け身の姿勢になってしまうが、俺の知能や行動力では、できることは限られているのだ。

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