82話 2回戦:エドワードvsストラス、ギルバートvsマクセル

「2回戦第3試合を始めます! 武闘神官のエドワード選手対、ディオン道場のストラス選手!」


 エドワードとストラスの試合だ。

優勝予想の倍率は、エドワードが9倍に対して、ストラスが7倍。


 エドワードは武闘神官だ。

1回戦では聖闘気という技を使っていた。

闘気術の発展技だ。


 聖闘気にはいくつかの型があり、彼が使用していたのは”守護の型”だった。

別名は聖闘衣というらしい。

防御力が格段に増す技のようだ。

今回の試合でも使用されるかどうか、見どころだ。


 ストラスは神脚の勇者とやらをリスペクトしている選手だ。

足技を得意としている。

鳴神-ナルカミ-という高速移動技は、俺も参考にさせてもらった。

モニカと同じ兎獣人だ。


「両者構えて、……始め!」


 試合が始まった。

ストラスがいきなり仕掛ける。


「鳴神」


 足に闘気を集中させることによる、高速移動技だ。

俺のなんちゃって鳴神よりも段違いに速い。

彼の速さは、アイリスが聖闘気を使用しているときと同じくらいの速さか。


「くっ。わかってはいたが、かなりの速度だな……」


 エドワードが怯む。


「いくぜ! ワン・エイト・マシンガン!」


 ストラスが一瞬の間に無数の蹴りを繰り出す。

1回戦でも使っていた技だ。

技名的にたぶん18発の蹴りだ。


「むうぅっ!」


 エドワードはじっと耐える。


「さらに! 昨日覚えた新技! 裂空脚!」


 アイリスが使っていた技だ。

鋭い回し蹴り。

エドワードは防御の構えを取り、なんとか耐える。


「聖ミリアリア流の技を1日で盗むとは、なんというセンス。やはり、出し惜しみしている余裕はなさそうだな。いきなりだが、全力で行かせてもらおう」

 

 エドワードの雰囲気が変わった。


「右手に闘気。左手に聖気。……聖闘衣だ! いくぞ!」


 エドワードの反撃が始まる。

聖闘衣により、防御力が格段に増している。

攻撃力や敏捷性は少し向上しているぐらいだが、防御力の高さを活かしてぐいぐい攻めている。


「ふふふ。お得意の足技はどうした? 守っているだけでは私には勝てんぞ」

 

 エドワードがストラスを挑発する。


「ちっ。調子に乗るなよ。ワン・エイト・マシンガン!」


 ストラスが一瞬の間に無数の蹴りを繰り出す。


「ふん。別に、足が増えたわけでもあるまい!」


 エドワードがストラスの蹴りを見切り、掴んだ。

そのままステージに叩きつける。


 あの高速の蹴りを見切るとは。

マジかよ。


「ぐっ。まさか見切られるとはな」


 ストラスが立ち上がる。

結構なダメージを負ったようだ。


「こっちも奥の手を使うぜ!」


 ストラスが闘気を足に集中させていく。


「はあああ……!」


 ストラスが闘気を足に集中させ続けている。

かなりの闘気量だ。


「いくぜ! 神技、嵐鳳脚!」


 速い。

目にも止まらぬハイキックだ。


「この技は……?」

「聖闘衣で防御……」

「いや」

「回避を……」

「だめだ」

「避けきれん!」


 エドワードが必死に避けようとする。

ギリギリ避けきれなかったようだ。

頬から血が出ている。


「聖闘衣を貫くとは……。まともにくらったらただでは済まんな」


 エドワードの聖闘衣の様子が変わる。

聖闘衣をほどいた!!


「ぬうううっ」


 衣の変わりに、腕や足に聖闘気を集中させている。

攻撃主体に切りかえる気だ!!


「まだまだやれる! 豪の型だ! いくぞ!」


「負けるかよ!」


 エドワードとストラスの激しい攻防が続く。


 …………。

死闘の末。

最後に立っていたのはエドワードだった。


「そこまで! 勝者エドワード選手!」


 勝ったのはエドワードだが、満身創痍だ。

エドワードの聖闘気は強かったが、ストラスも負けず劣らず強かった。

これでも優勝候補というほどのレベルではないのだから、ガルハード杯のレベルは相当に高い。


「まさか、エドワード司祭があそこまで苦戦するなんて……」


 アイリスも意外そうな顔だ。



●●●



「2回戦第4試合を始めます! メルビン道場のギルバート選手対、雷竜拳のマクセル選手!」


 ギルバートとマクセルの試合だ。

優勝予想の倍率は、ギルバートが4倍に対して、マクセルが2倍。

倍率から考えても、今大会屈指の好カードと言えるだろう。

見どころだ。


 ギルバートはムキムキの筋肉を活かした闘いを得意とする。

キックや搦め手よりは、パンチが主体だ。

肉体も頑強で耐久力がある。

1回戦では技巧派のカタリーナを相手に、順当勝ちをおさめた。


 マクセルは10代後半くらいの青年だ。

引き締まった体をしている。

闘気術の達人らしい。


 彼は、前回のゾルフ杯準優勝者だ。

ギルバートがライバル視している。

賭けの倍率から判断しても、間違いなく最強クラスだろう。

1回戦では、倍率5倍の強豪である龍人のラゴラスを一撃で倒した。


「両者構えて、……始め!」


 試合が始まった。


「ガハハ! お前にリベンジするこの時を待っていたぜ!」


「リベンジ? ……ああ、前回ガルハード杯で確か闘ったっけな。少しは強くなったのか? おっさん」


 ライバル視しているのはギルバートだけか。

マクセルはギルバートのことをギリギリ覚えている程度のようだ。


「闘ってみればわかる! いくぞ!」


 闘いが始まった。

まずはお互いに様子見といったところか。


 1回戦でマクセルと闘ったラゴラスは、彼を侮っていきなり大技を仕掛けた。

その結果、ハイキックの一撃で倒されてしまった。


 ギルバートはマクセルの実力がわかっているので、いきなり大技を仕掛けたりはしないのだろう。

さらに小競り合いが続く。


「ガハハ! どうだ! 去年のようにあっさりと倒されたりはせんぞ!」


 前回はあっさり倒されたのかよ。

今回のラゴラスみたいな感じか?


 ギルバートは、今回はいい勝負ができそうだと、自信ありのようだ。

反対に、マクセルは少し興ざめしたかのような表情をしている。


「……確かに、前よりかは強くなっているか。でも、1年でそれだけかよ」


「なんだと! じゃあこれを正面から受け止められるか!?」


 ギルバートが闘気の出力を上げて、マクセルに攻撃を仕掛ける。


「ビッグ……バン!」


「ふん」


 マクセルが正面から腕で受け止める。

ギルバートの渾身の一撃だが、ほとんど効いていない。


「ば、ばかな……」


 ギルバートが驚いている。


「お返しだ」


 マクセルのハイキックがギルバートを襲う。


「がはっ」


 渾身の攻撃がノーダメージなのはさすがに想定外だったのだろう。

ギルバートの防御が一瞬遅れた。

ハイキックがギルバートに直撃し、彼はステージの端までふっ飛ばされた。

起き上がってこない。


「冒険者なんてやってるから、強くならないんだ。冒険者なんてくだらないね」


 マクセルがつまらなそうにつぶやく。

彼は冒険者にあまり良い感情を持っていないようだ。


「そこまで! 勝者マクセル選手!」

 

 マクセルの勝ちか。

倍率的には順当とはいえ。

あのギルバートにあっさりと勝つとは。



 これで今日の試合は終了だ。

ベスト4が出揃った。

名前と倍率はこんな感じだ。


Aブロック3番、リルクヴィスト。12倍

Bブロック1番、ミティ。27倍

Cブロック1番、エドワード。9倍

Dブロック3番、マクセル。2倍


 マクセルは順当勝ちだが、他はやや意外性のある顔ぶれになっている。


 リルクヴィストは技巧派の武闘家だ。

1回戦でウッディを、2回戦でミッシェルを下した。

流水拳という拳法を扱う。

リーゼロッテと因縁がある。


 ミティは素のパワーを闘気術でさらに向上させ、圧倒的なパワーで勝ち上がってきた。

1回戦でマーチンを、2回戦でジルガを下した。

相手がミティをなめていたり、戦法を合わせてくれたりといった恩恵により勝てたところはある。


 正直、ベスト4の中では実力的にやや劣っているかもしれない。

まあ、ここまで勝ち上がってこれただけでも十分だ。

俺は1回戦負けだしな。

ミティには無理のない範囲でがんばってもらおう。


 エドワードは武闘神官だ。

闘気の応用技である聖闘気を使う。

1回戦でマスクマンを、2回戦でストラスを下した。

かなりの強敵だ。


 マクセルは闘気術の達人。

1回戦でラゴラスを、2回戦でギルバートを下した。

両試合ともマクセルにはかなりの余裕があった。

まだまだ実力の底が見えない。

前回のゾルフ杯準優勝者だ。


 この4人で明日は準決勝から決勝戦まで行われる。

見どころだ。


 また、準決勝と決勝戦の間に、2回戦で負けた人同士の試合もある。

これらの試合は、さほど全力では闘われないだろうが、ある程度の参考にはなるだろう。

こちらも楽しみだ。

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