84話 防衛戦開始:先遣隊を掃討

 冒険者ギルドのギルドマスターのテスタロッサの指示により、南へ向けて出発した。

魔物の群れがゾルフ砦に来る前に、掃討するのである。


 ゾルフ砦の南側を走る巨大な山脈。

山脈の切れ目は、大地の裂け目と呼ばれている。


 大地の裂け目は、それなりに大きい。

端から端まで目視はできるが、声は到底届かないぐらいの距離だ。

1キロ以上はあるだろうか。


 防衛戦の参加者は、100人以上になった。

参加する冒険者と武闘家たちは、ほぼ横一列に並んでいる。

彼らは隊列を組む経験などほとんどない。

かと言って、各パーティが自由に動けば、範囲魔法などによる同士討ちが発生する恐れがある。

それを防ぐための、最低限の連携として横一列に並んでいるわけだ。


 横一列とは言っても、1キロ以上に及ぶ大地の裂け目に100人以上が並ぶわけだから、それほど密というわけではない。

各パーティごとに集まりつつ、パーティ間はそれなりの距離が空いている。


 魔物の軍勢が見える。

ゴブリンやファイティングドッグなどがこちらに向かってきている。

後方には、オーガやハーピィの姿もある。


 奴ら全員が一丸となって軍勢を組織しているわけではない。

知能のあるオーガとハーピィが、ゴブリンやファイティングドッグなどを何らかの方法で誘導したり操作したりして、こちらに仕向けてきているらしい。


「きたぞ! ゴブリンの群れだ! 打ち合わせ通り、遠距離攻撃の手段を持っている者は、私の合図で一斉掃射してくれ!」


 テスタロッサからの指示が飛ぶ。

打ち合わせとは言っても、大枠だけだ。

火魔法と水魔法など、異なる属性の魔法を同時に放つと、威力が減退してしまう恐れがある。

そのため、各属性ごとにタイミングを合わせて発射するのだ。

ゾルフ砦は武闘の名地だから、魔法使いはあまり滞在していなかったが、それでも一定数はいた。


「まずは火魔法だ! 詠唱開始!」


 いきなり俺の出番だ。

火魔法レベル5の威力を見せてやろう。


 と言いたいところだが、使うのは火魔法レベル3のファイアートルネードが効果的か。

火魔法レベル5は火魔法創造だが、範囲攻撃は創っていない。

練習中なのは”五本桜”と”バーンアウト”だ。

いずれも範囲魔法ではない。

火魔法レベル4のボルカニックフレイムも、どちらかと言えば単体攻撃向けだしな。


 ここはファイアートルネードを使おう。

心の中で詠唱を開始する。

テスタロッサの合図を待つ。


「今だ! 放て!」


「ファイアートルネード!」

「ファイアートルネード!」

「ファイアートルネード!」

「ファイアーアロー!」

「ファイアーアロー!」

「ファイアーアロー!」

「火遁の術!」


 あちこちから一斉に声が上がる。

やはりファイアートルネードが主力か。

レベル3だから使える人はそう多くはないようだが。

エレナもファイアートルネードを発動しているはずだ。


 他はファイアーアローか。

ファイアーアローは遠くまで届くが、威力はほどほどだ。

まあ同じ火魔法同士で、威力を相殺したりはしない。

ないよりはマシだからとりあえず打っとくか、みたいな感じか。

ユナもファイアーアローを放っているようだ。


 各所から放たれた火魔法により、ゴブリンの群れは壊滅状態だ。

楽勝だな。

ちょろい仕事だ。


「続けてきたぞ! ファイティングドッグの集団だ! 水魔法を詠唱開始!」


 俺は水魔法はレベル1だ。

ウォーターボールしか使えない。

MPには余裕があるので気持ち程度に打ってもいいが、今回は様子見としておくか。


「今だ! 放て!」


「アイスレイン!」

「アイスレイン!」

「アイスレイン!」

「アイスボール!」

「アイスボール!」

「アイスボール!」

「ブリザード!」


 あちこちから一斉に声が上がる。

水魔法はアイスレインが主力のようだ。

リーゼロッテもアイスレインを放っている。


 他はアイスボールか。

始めて見る魔法だ。

まあファイアーボールの水魔法版か。

水というか氷だが。


 始めてみる魔法がもう1つあった。

ブリザードだ。

放ったのは……、リルクヴィストか。


 水魔法は、レベル1がウォーターボール、レベル2がアイスボール、レベル3がアイスレインだ。

単純に考えて、レベル4がブリザードだろう。

レベル5が水魔法創造だとして、彼が創ったオリジナル魔法の可能性もあるが。

いずれにせよ、彼は武闘に水魔法と、非常に優秀な人物のようだ。


 各所から放たれた水魔法により、ファイティングドッグの群れは壊滅状態だ。

順調だな。


「次はシャドウウルフの群れだ! 闘気弾の準備開始!」


 闘気弾とはいったい?

闘気を弾にして放つ技だろうか。


 マクセル、エドワード、ラゴラス、ストラスなど、武闘家たちが力をためているようだ。

ただし、武闘家全員が闘気弾とやらを使えるわけでもないようだ。

アイリス、マーチン、サイゾウあたりは闘気弾を放つ準備をしていない。


「今だ! 放て!」


「雷竜気弾!」

「聖光霊破弾!」

「竜斬波!」

「ワン・エイト・ショットガン!」


 魔法と違い、掛け声はまちまちだ。

魔法と違い、技名を叫ぶ必要はないような気もするが。

やはり、イメージのしやすさなどが変わってくるのだろうか。


 各所から放たれた闘気弾により、シャドウウルフの群れはかなり数を減らした。

しかし、まだ一定数は残っている。


「続けて攻撃だ! 弓と投石、放て!」


 弓と投石による攻撃が開始される。

ユナは弓で攻撃している。


 武闘家たちは投石だ。

ただし、普段から投石の訓練などはしていないのだろう。

コントロールはイマイチだ。

しかし鍛え抜かれた肩から放たれる石は、当たればかなりのダメージがある。

ちなみに、ミティも投石に参加している。


 シャドウウルフの群れは無事に討伐された。

頼りになる仲間が大勢いる。

この調子だと、さほどの危険はなさそうか。



●●●



 その後もいくつかの魔物の群れがきたが、各種の遠距離攻撃により問題なく討伐された。

後ろに控えていたオーガとハーピィの軍勢は引き上げていった。

こちらの戦力が想定以上で、作戦を練り直しに戻ったのだろうか。

もしくは、こちらの戦力を測るのが今日の攻勢の目的だった可能性もある。

明日以降も警戒はもちろん必要だ。


 今は夕方だ。

夜間も警戒するため、ここに留まっている。

テスタロッサの指示により、交代で番をすることになっている。

俺とミティは、今は休憩中だ。

 

 今日の防衛戦について振り返ろう。

魔物1匹1匹は強くないし、こちらには強力な仲間たちがいる。

特に大きな危険は感じない。

範囲魔法で結構経験値も稼げているだろうし、個人的にメリットの大きい戦いだ。


 ただし、油断は禁物だ。

わざわざミッションで防衛戦と記載されているぐらいだしな。

ミッションはまだ達成扱いにはなっていない。

今後、結構大きい戦いに発展する可能性もある。

気を引き締めていこう。

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