64話 ガルハード杯予選と蒼穹の担い手との再会

 ガルハード杯本戦の2日前になった。

今日はガルハード杯の予選が行われる日だ。


 この街にはコロシアムがいくつかある。

ガルハード杯予選は、大きめのコロシアムで行われる。


 コロシアム会場に入り、あたりを見回す。


「広いな。ここで闘うのか……」


 今から緊張してきた。


「楽しみだねー。お互いに全力を出そう!」


「そうですね! がんばりましょう!」


 アイリスは落ち着いた感じだし、ミティはやる気まんまんだ。

緊張しているのは俺だけか。


 コロシアムの中心に20m×20mぐらいの四角形のステージがある。

あそこで闘うのだろう。

そのステージを囲むように観客席が設置されている。


 観客席に座ってみる。

日本でプロ野球観戦にきたような気分だ。

さすがに日本の球場と比べると、若干せまいが。

1か月前に行われた小規模大会の会場だったコロシアムより、一回り大きい。

1万人弱は入りそうだ。


 改めて、今回のガルハード杯のパンフレットを見る。

トーナメント表と簡単なルールが記載してある。

出場者は16人。

実績や推薦による出場が12人。

予選突破枠から4人。


 この予選突破枠をめぐって、今から予選が行われる。


 他の参加者も続々と集まってくる。

ざっと、30人以上はいる。

観客席にも、それなりに人が入っている。


「マクセルの兄ぃ! 見ててくれよな! 俺たちも本戦に出場してみせるぜ!」


「ええ! 私たちの活躍を見ててよね!」


「ま、ほどほどにがんばりなよ。カイルもレベッカも無茶はするなよー」


 10代中盤くらいの男女の参加者が、観客席にいる10代後半くらいの男に話かけている。

10代後半の男は、マクセルと呼ばれていた。

あの男がマクセルか。

ギルバートがライバル視していたな。

どんなマッチョかと思っていたが、どちらかといえば細身だ。

引き締まってはいるが。


 口ぶりからすると、10代中盤くらいの男女は、マクセルの弟分のような感じかな。

男がカイルで女がレベッカ。


 弟分たちは気合が入っている。

一方で、マクセルは気の抜けた感じだ。

まあ彼は観戦だけのはずなので、当然と言えば当然だが。


 ちらほらと、見知った顔の連中もいる。

エレナがリーダーを務める”三日月の舞”の前衛の男たち。

ギルバートがリーダーを務める”漢の拳”のメンバーたち。

メルビン道場で見かけた兄弟子たち。

さらに。


「おや? ハルトマンさんじゃないですか」


「おお、タカシか。久しぶりだね」


「ハルトマンさんも出場されるのですか?」


「ダメ元だけどね。本戦に出場できれば賞金も出るし。タカシこそ、武闘のことは素人じゃなかったか?」


「この1か月で猛特訓しました。今日は勝つつもりです」


「おお。お手柔らかに頼むよ」


 そうして、数分間はハルトマンと雑談をした。

その後、係員らしき男性が前に出てきて、口を開いた。


「それでは、ガルハード杯予選の組み合わせ抽選を行います! 順番にくじを引きに来てください。くじを引く順番で有利不利はございません」


 参加者たちが、くじを引いていく。

俺、ミティ、アイリスも、くじを引いた。


「くじにより、4グループに分けられます。各グループで勝ち抜いた者が、本戦への出場資格を得ることになります!」


 係員がそう説明する。

俺は、自分が引いたくじに目を落とす。

グループ1と書かれている。


「俺はグループ1だったよ」


「私はグループ2です」


「ボクはグループ3だね」


 俺がグループ1、ミティがグループ2、アイリスがグループ3だ。


「見事に分かれたな」


「タカシ様と当たらなくてよかったです」


 俺も良かったよ。

ミティにはあまり勝てていないからな。


「タカシやミティと闘うのは、本戦までお預けだね。まずは、予選を突破できるようにお互いがんばろう!」


 予選とはいえ、レベルは高いだろう。

油断は決してできない。

心して挑む必要がある。



●●●



「ぬんっ! せいやぁっ!」


 闘気を込めた俺の正拳突きが決まる。

対戦相手のカイルはステージ外へ弾き飛ばされ、戦闘不能となった。


「決まったあ! グループ1の勝ち抜きはタカシ選手! ガルハード杯本戦に出場決定です!」


 司会がそう叫ぶ。


「な、なんだあいつは!? 見たことのない顔だが。かなりの闘気だぞ!」


「メルビン道場の期待の新人らしいぜ。これはビッグルーキーの誕生だな!」


 他の参加者や観客たちが、俺のことを褒めてくれているのが聞こえてくる。

照れるじゃないか。

思わず顔がニヤけそうになるが、必死でこらえる。



「どりゃあぁっ!」


 ミティの掛け声が聞こえてくる。

俺と同じような、闘気を込めた正拳突きだ。

対戦相手のレベッカはステージ外へ弾き飛ばされ、戦闘不能となった。


「こちらも決まったぁ! グループ2の勝ち抜きはミティ選手! ガルハード杯本戦に出場決定です!」


 司会がそう叫ぶ。


「あの小さな体の、どこにあれだけの力が!?」


「あの嬢ちゃんは、さっきのタカシとやらの仲間らしいぜ。メルビン師範もウキウキだろうな」


 やはり、ミティの怪力には驚くよな。

でも、闘気を惜しみなく使えば、もっと高威力の技もあるんだぜ。

本戦では、剛拳流の奥義を使う機会もあるだろう。

今から楽しみだ。



「裂空脚!」


 こちらはアイリスだ。

対戦相手は”三日月の舞”の前衛の男。

鋭い回し蹴りが相手に直撃し、相手は戦闘不能となった。


「強烈な回し蹴りが決まったぁ! グループ3の勝ち抜きはアイリス選手! ガルハード杯本戦に出場決定です!」


 司会がそう叫ぶ。


「この女もそうとうやるな! 見ない顔だが」


「中央大陸からきた武闘神官とかいうやつらしい。要チェックだ!」


 アイリスは、身体能力や闘気はそれほどでもないが、技術面で優れている。

試合慣れもしているし、本戦で当たればかなりの強敵となる。



「…………」


 グループ4は静かだな。

マスクをつけた人が勝ち残ったようだ。

対戦相手は”漢の拳”のメンバーだ。


「これにて試合終了です! グループ4の勝ち抜きはマスクマン選手! ガルハード杯本戦に出場決定です!」


 司会がそう叫ぶ。


「このマスクのやつは、何者なんだ?」


「わからん。見慣れない流派だったが。本戦でもよく見ておかないとな」


「それにしても、予選突破者全員が新人とはな。賭けが盛り上がるぜ!」


 観客たちが盛り上がっている。


「(カイルとレベッカが負けるとはね。あの男、期待できるかもな)」


 マクセルが小声で何かを呟いているが、よく聞き取れなかった。

弟分たちを倒したので、目をつけられたのかもしれない。



 ガルハード杯の全予選が終了した。

グループ1勝ち抜き、タカシ。

グループ2勝ち抜き、ミティ。

グループ3勝ち抜き、アイリス。

グループ4勝ち抜き、マスクマン。


 ほぼ身内が勝ち残った。

本戦では、ここに予選免除の選手が12名加わる。

ミティやアイリスと初戦で当たる確率は結構低い。



 ミティ、アイリスとともに、会場を後にする。


「…………!」


「…………!!!」


会場を出たところで、何やら騒ぎ声が聞こえてきた。

声のする方向を見る。


 ……ん?

あれはリーゼロッテか?


 なにやら揉めているようだ。

リーゼロッテと青髪の青年が口論している。

周りにはコーバッツを含む蒼穹の担い手のメンバーもいる。


「……もう知りませんわ!」


 リーゼロッテが言う。


「リルクヴィスト様。今日のところはお引取りください」


 コーバッツが言う。

コーバッツが仲裁役のような感じか。

青髪の青年はリルクヴィストという名前らしい。

イケメンだ。


「ふん、まあいい。俺は貴様になど興味はないからな。ただし、このことは報告しておくからな」


 リルクヴィストはリーゼロッテにそう言って去っていった。


 一悶着あった直後で少し声をかけづらいが、一応軽く挨拶しておくか。

様子を伺いつつ若干の時間をおいて、声をかける。


「お久しぶりです。リーゼロッテさん、コーバッツさん、皆さん」


「ん? ああ、タカシくんか。久しぶりだね。元気にしていたかい?」


「ええ、おかげさまで。コーバッツさんたちもガルハード杯目当てですか?」


「まあ護衛依頼のついでにね。リーゼロッテはこの街の料理も好きだし」


 彼女は食いしん坊だ。


「そうなんですか」


「はい。この街の名物は肉料理。絶品ですわ」


「武闘家たちが好む、肉メインの料理が栄えているんだ。まあリーゼロッテは、肉類に限らずなんでも食べるけどね」


 言われてみれば、この街にきてから肉系統の食事が多くなった。

確かに、武闘家たちは肉料理を好みそうだな。

トレーニングのあとはタンパク質を取らないといけないしな。

その辺の栄養学みたいなものも、ある程度発達しているのかもしれない。


 その後、ミティも交えて少し雑談と情報交換をして、別れた。

リルクヴィストの件は、きいていない。

あんまり個人的な問題にずけずけ踏み込んでいくのもな。

うまく解決できればリーゼロッテの忠義度を稼げるかもしれないが。

ガルハード杯本戦や防衛戦も控えている中で、いろいろな物事に手を出しすぎるのは良くないだろう。

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