47話 護衛依頼の打ち合わせ:モニカとのお別れ

 立ち上がった初老の男性が口を開く。


「ワシが今回の隊商の代表となる、ベルモンドじゃ。ベネフィット商会サザリアナ王国支部南西地域課の責任者でもある。ゾルフ砦を経由してオルフェスへ行くルートは、今までに何回も通ってきたルートじゃ。この規模の護衛がいれば大きな危険はないじゃろうが、万全を期すように頼むぞ!」


 彼はそう言って座った。

それを見て、進行役の男性職員が口を開く。


「ありがとうございました。では次に、今回の依頼を受注された冒険者の皆様がたの顔合わせを行いたいと思います。まず最初に、今回の依頼を仕切っていただきます、Cランクパーティ“竜の片翼”のリーダー、グズマンさん。お願いします」


 彼の進行に従い、大柄で筋肉質な男が立ち上がる。

無駄のない鍛え抜かれた体つきだ。

ドレッドも大柄で筋肉質な体形だったが、グズマンはまた違ったタイプに見える。

パワーだけでなく、動きも俊敏そうだ。


「俺がリーダーのグズマンだ。隣が副リーダーのラゴラス。今回のルートを護衛する依頼は、今までに何度も経験している。前回までの依頼を仕切っていたBランクパーティが今回は不在のため、俺たちが仕切ることになった。大きな危険はないと予想されるが、油断は禁物だ。心して護衛に当たるようにしてくれ」


 ふむ。

経験者が仕切ってくれるのは有難いな。

細かいことをごちゃごちゃと考えずに済む。


 この人の口ぶりからすれば、同行する冒険者の最高ランクはCということになりそうだ。

一度Bランク冒険者を見てみたかったのだが。

まあまたの機会に期待しよう。


 副リーダーのラゴラスは、純粋な人族ではなさそうな感じがする。

なんだろう?

パーティ名に竜と入っているし、竜人とかだったりするのだろうか。


「俺たちのパーティの編成は、剣士が俺を含めて2人。武闘家が1人。風魔法の使い手が1人。治療魔法の使い手が1人。全員がCランクだ。Cランクパーティの中でも実力は上位だと自負している。俺たちの指示には従うようにしてくれ」


 グズマンはそう言って着席した。

進行役の男性職員が、グズマン、ラゴラスの次に座っている男をチラッと見る。

その視線を受けて、男が勢いよく立ち上がった。


「よっしゃあ! 我の番だな!」

 

 筋肉ムキムキの男だ。

ドレッドといいグズマンといい彼といい、冒険者はマッスルな男が多い。

やはり近接職は身体能力がものを言う世界なのだろう。


「我が名はギルバート! Cランクパーティ“漢の拳”のリーダーだ! ゾルフ砦まで同行する予定だ! 敵はこの拳で薙ぎ払う!」


 言いたいことは全て言ったとばかりに、勢いよくドカッと座る。

むさ苦しそうなパーティ名だ。

この場にはリーダーしか来ていないのが救いか。


 口ぶりからすると、肉弾戦闘が得意なようだ。

剣は使わないのだろうか。

異世界とはいえ、素手で魔物に殴り掛かるやつがいるのだろうか。

魔力で身体を強化するとかか?


 腕力のステータスが高いミティは、彼らから何か学べることがあるかもしれない。

期待しよう。


 次に立ち上がったのは女性だ。


「私はエレナ。Cランクパーティである“三日月の舞”のリーダーよ。魔法使い3人に、前衛2人の編成ね。範囲攻撃の魔法も使えるから、魔物の群れが出てきたら任せてちょうだい」


 彼女はそう言って座った。


 魔法使い3人か。

なかなか贅沢なパーティ編成だ。


 チャンスがあれば話しかけてみたい。

いや、別にナンパではない。

魔法の話を聞きたいのだ。


 俺は、まだリーゼロッテしか魔法使いの知り合いがいない。

先日、自分なりに試行錯誤して魔法を使ってみたが、成果はほどほどであった。

先人の話を聞いて、より正確に魔法の知識を深めていきたい。

 

 その後も、他の人が立ち上がっては、同じように自分たちのパーティの説明をしていく。


 パーティランクの基準がだいたい掴めてきた。

Eランクが駆け出し。

Dランクが半人前の若手。

Cランクが一人前の中堅。

こんな感じだろう。


 この流れで言えば、"Bランクは頼りがいのあるベテラン"と考えたいところだが、そう単純ではないだろう。


冒険者は、年をとったら続けにくそうな職業だ。

”頼りがいのあるベテラン”は、知識や経験・安定感に優れる一方で、肉体的な衰えによる戦闘力の低下がある。

それらが相殺して、結局Cランク相当という評価になるのではないか。

となると、やはりCランクとBランクの間には1つの壁があると考えるべきだな。


 その後も紹介は続く。


パーティとしてはDランクでも、個人としてのランクはCの人も何人かいた。

“赤き大牙”も、リーダーのドレッドがCランクで、パーティとしてはDランクだったはず。

彼らと同じか。


 そしてとうとう最後に俺の番がやってきた。

一番格下だろうし、遠慮していたら最後になってしまった。


「私はタカシ、こちらはパーティメンバーのミティです。私は剣と火魔法を、彼女は槌を使います。護衛依頼は初めてですが、戦闘力にはそれなりに自信があります。よろしくお願いします」


 こんな感じで良かったのだろうか?


 アイテムルームが使えることも言っといた方が良かったかもしれない。

荷物持ちとして小金を稼ぐことができたかも……。


 いや、微妙か。

アイテムルームにものを詰め込むと、MP消費量が増える。

スキルの恩恵でそこまでの負担はないものの、詰め込み過ぎると多少の影響は出るだろう。


 初めての護衛依頼なので、できる限り万全の状態にしておきたい。


 残りの借金は金貨270枚。

日本円にして、およそ270万円といったところだ。


 目先の小金を稼ぐより、しっかりと魔物を討伐し、レベルを上げていくことを優先すべきだ。

そうすることで、結局は借金をより早く返せるようになるだろう。


 それに、アイテムルームというスキルの希少性もまだ掴めていない。

容量の少ないアイテムボックスならばそれなりに使える人も多いらしいが……。


 アイテムルームを使えるということを公表するには、デメリットに比べてメリットが少なすぎる。

ここは公表しない方針で正解だろう。


 

 最後となる俺の紹介が終わった。

 

 続いて、通るルートや特に警戒すべき地域の説明などがあった。

そして隊列も話し合って決めていった。


 基本的にはグズマンが仕切りつつも、他の冒険者も活発に意見を出している。

俺は難しいことはよくわからないので、その議論を眺めているだけだ。

ときおり意見を求められたり質問されたりで答えたりはしたが。


 聞いた話を頭の中でまとめる。


 隊商は、縦に長い編成で進んでいくようだ。

戦争とかだと、縦に伸びる編成は良くないと聞いたことがある……ような気がする。


 まあ今回はあくまで、移動がメインだ。

護衛は念のための用心に過ぎない。

護衛や戦闘に適した隊列を組むよりも、進行に適した隊列を組むことが優先されるのだろう。


 話し合いの結果、隊列の編成が決まったようだ。

パーティは全部で8。


 隊商一団の300mほど先に、"漢の拳”。

戦闘力に定評のあるらしい彼らが、前線を護衛する。


 隊商一団の中央に“龍の片翼”。

最も経験豊富な彼らが中央に陣取る。


 “龍の片翼”の近くに、“三日月の舞”。

ランクはCだが、近接の戦闘能力に不安があるため、比較的安全なところに配置された。

魔物の群れが現れたときに、本領を発揮してもらう予定だ。


 そして残りの5つのDランクパーティは、隊商一団の各部に配置される。


 あとで聞いた話だが、もっと危険な区域を通る場合には、また違った編成をするものらしい。

今回は比較的安全でよく通るルートのため、少ない負担で済み、かつそれなりのスピードで移動できる編成にしたということだ。


 大筋の編成は決まった。

核となるCランクパーティの編成は決まっている。

あとは、5つのDランクパーティがそれぞれどこを担当するかだ。


 俺としては、戦闘の多そうなところで、レベルを上げたい気持ちもある。

しかし俺とミティの2人パーティでは、さすがに信用が足りないため任せてもらえないだろう。

今回の護衛依頼は、あくまでゾルフ砦へ向かうついでだと割り切った方がいい。


 無難に隊商一団の中央やや後方の護衛を志願し、合意をもらうことができた。

無難に行こう。

無難が一番だ。


 無事に顔合わせが終わった。

大きな危険はなさそうな内容で安心した。



「ミティ。今日でこの街を離れるし、晩ごはんは少し奮発しようか」


「いいですね。ラビット亭で肉料理が食べたいです!」


 というわけで、ラビット亭にやってきた。


「こんにちはー」


「タカシ。よく来たね。適当に座ってよ」


 空いている席に座る。


「モニカさん。俺たち、明日から護衛依頼でこの街を離れるんですよ」


「へえ。そうなんだ。寂しくなるねえ」


 モニカの忠義度は25ぐらい。

それなりに高い。

ある程度は本気で寂しがってくれているのだと思う。


「というわけで、今日は肉料理をゴージャスにお願いします!」


「本当に2人とも肉料理が好きだね」


「ですね」


 肉料理こそ至高。

日本にいたときも肉料理ばっかり食べていた。

焼き肉、ステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶ。

トンカツ、豚の生姜焼き。

からあげ、焼き鳥、チキン南蛮。

牛丼、カツ丼、親子丼。


「たまには魚料理も食べたら?」


「いやあ。魚はあんまり好きじゃなくて。なあミティ?」


「そうですね……。あまり好きじゃないです」


「今日はリクエスト通りに肉料理にするけど。戻ってきたら、魚料理も食べてみてよ。自信あるから」


 明日の晩、ここへ来てください。

最高の魚料理を提供しますよ。

みたいなノリか。


 もちろん、俺たちは明日にはもう出発している。

モニカの魚料理を食べるのはしばらく後になりそうだ。


 その後、提供された肉料理をミティといっしょに堪能した。

この世界の肉料理もいろいろとバリエーションがあり、おいしい。

どんどんいろんな料理を味わっていきたいな。


「ごちそうさまでした。モニカさん、お会計をお願いします」


 モニカに食事代を払う。


「じゃあ、明日から気をつけて行ってきてね。無事を祈ってるよ」


「はい。おいしい魚料理をいただくために、きっと無事に戻ってきます」


 ラビット亭を出て、宿に戻る。

明日からの護衛依頼に備えて、早めに寝ることにしよう。



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同行パーティまとめ


龍の片翼。

Cランクパーティ。

全員Cランク。

バランスが良い。

リーダー、グズマン。

副リーダー、ラゴラス(竜人?)


漢の拳。

Cランクパーティ。

肉弾戦闘を得意としている。

リーダー、ギルバート。


三日月の舞。

Cランクパーティ。

範囲魔法を得意としている。

リーダー、エレナ。


タカシとゆかいな仲間たち(仮)。

Dランクパーティ。

構成員は2人なので、まだパーティというほどのものでもない。

2人とも近距離戦闘も中長距離戦闘もこなせるため、最低限のバランスは取れている。


他、Dランクパーティが4組。

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