46話 パーティ名の検討

 しばらく歩き、冒険者ギルドに到着した。

中に入る。

それなりに人が集まっている。

護衛依頼の受注者たちだろう。

武器や防具をつけている人が多い。

着てきて正解だ。


 よく観察してみる。

どうやら、各パーティのリーダー格のみが来ているようだ。


 まあ確かに、護衛全員が顔を合わせる必要性も薄いか。

5人パーティが5つ集まれば、それだけで25人になる。

人数が多くなれば、その分意思の疎通が難しくなる。


 それならば、リーダー格に絞って顔合わせをするのが合理的だ。

今回、俺はミティと共に来たが、大きな問題はないだろう。

俺たちは2人パーティだから、両方が主力であり、リーダー格であると言える。

 

 そんなことを考えながら待つ。

ギルドの職員が各人に話しかけている。

一言二言だけ話して、また別の人に話しかけている。


 ほどなくして、俺のところにやってきた。

ギルド職員が口を開く。


「お疲れ様です。ゾルフ砦経由のオルフェス方面への護衛依頼を受注された方でしょうか?」


「はい、そうです」


「では、お名前とパーティ名をお願い致します」


 パーティ名?

ああ、そういえばまだ決めてなかったな。


 ユナ・ドレッド・ジークが所属するパーティの名前は”赤き大牙”。

リーゼロッテ・コーバッツ・他3名が所属するパーティの名前は”蒼弓の担い手”。

ビリー・他2名が所属するパーティの名前は”黒色の旋風”。


 なかなかオシャレなパーティ名がつけられている。

いや、人によってはダサいと感じる人もいるかもしれない。

でも、俺はこういった名前は悪くないと思うよ、うん。


 パーティ名はどうやって決まるのだろうか。

ギルドがつけてくれる?

普通に考えて自分たちで申請を出すのだろうか。

 

 いずれにせよ、現時点で決まっていないものは仕方がない。


「私はリーダーのタカシ、こちらはパーティメンバーのミティです。パーティ名はまだ未登録です」


「お名前はタカシ様……。ああ、あなたがあの“犬狩り”のタカシ様ですか。そしてパーティメンバーのミティ様、と。パーティメンバーはこれで全員なのでしょうか?」


 “犬狩り”の通り名が結構有名になっているようだ。

そこまですごいことをした気はしないのだが。

ただひたすらにファイティングドッグを狩っただけだし。


 パーティメンバーは現在、俺とミティの2人だけだ。


「はい、私と彼女の2人でやっています」


「そうですか。パーティ名の登録は自由ですが、我々ギルドとしては、パーティ人数が3名を超えたらパーティ名を登録することを推奨しています」


「そうなのですか」


「タカシ様、ミティ様も、今後もしパーティ人数が増えましたら、ぜひパーティ名をご登録ください」


「検討しておきます」


 3人を超えたら推奨ね。

まあ確かに、ソロや2人組の冒険者だと、パーティ名を登録する必要性はほぼまったくない。

個人名で十分に識別できるからな。


 強いて言えば、特定の依頼に特化していることをアピールする手段としては使えるかもしれないが。

対ゴブリンに特化した“ゴブリンスレイヤーズ”とか。

護衛依頼に特化した“アイアンシールド”とか。


「では、他の方が揃うまで、もう少々お待ちください。失礼します」


 そう言って彼は他の人のところへ向かっていった。


 パーティ名、か。

今まで深くは考えてこなかったが。

そろそろ考えておいた方が良いかもしれない。


 何か良い候補はあるだろうか?

タカシとゆかいな仲間たち。

灼熱の炎。

悠久の風。

怒れる鉄槌。

吹き荒ぶ熱風。


 うーん、ぱっとしないな。

どうしても俺かミティ、個人のイメージに偏ってしまう。

 

 無理に両方のイメージを入れるならば、俺の火魔法とミティの風魔法で”熱風”みたいな単語を入れるしかないが……。

そもそも、俺の“加護付与”のチートを最大限に活かすならば、パーティメンバーは当然今後も増やしていく。

俺やミティのイメージに合ったパーティ名を思いついたとしても、3人目4人目のイメージにも合うかどうかは分からない。


 となると、”タカシとゆかいな仲間たち”というようなネーミングの方向性が良いかもしれない。

いや、さすがにこの名前をそのまま使うのはないが。

あくまで方向性としては良いかもしれない、だ。


 強者の集団というイメージで名前を考えてみよう。

八聖勇者。

ナンバーズ。

十三階段。

サーティーンパーティ。

ミリオンズ。

……俺の感性ではカッコいい名前だと思うが、客観的にみるとちょっと微妙かもしれない。


 他のパーティ名のイメージや由来を考えてみよう。


 赤き大牙。

ドレッドの大剣は、確かに大牙のようなイメージがある。

しかし、別に赤くはない。

赤いのは、ユナの髪の色だ。


 ユナの髪の色とドレッドの大剣をイメージしたパーティ名なのだろうか。

まあ悪くはないネーミングセンスだとは思うが。

ジークの要素はどこにいった?

それとも、彼らには何らかの奥の手があったりするのだろうか。


 蒼穹の担い手。

蒼穹は青空という意味だ。

リーゼロッテの髪は水色だった。

また、彼女は水魔法の使い手であったので、青のイメージはある。

コーバッツの鎧も、水色を基調としたものだった。


 空はどうか。

これはあまりイメージと合わない。

リーゼロッテは水魔法使いなので、もしかしたら上級水魔法で雨雲を操ったりできる可能性もある。

さすがにそこまでの大魔法はなかなか現実的ではないか。


 こうして考えてみると、いまいちパーティ名にピンとこないな。

ドレッドやコーバッツらも、少し”名付けに失敗した”と思っていたりするのだろうか。

俺がまだ見ていないだけで、パーティ名に沿ったスキルや魔法がある可能性はあるが。

今度機会があれば聞いてみるか。


 ”黒色の旋風”は分かりやすいんだけどな。

黒色は、単純に彼らの髪の色と鎧の色からとっている。

旋風は、風魔法の使い手という意味ではなくて、単に”旋風を巻き起こしてやるぜ!”みたいな意気込みを表しているのだろう。


 いや、もしかしたら風魔法を使える奴がいるのかもしれないが。

しかし、仮に風魔法を使えたとしてもレベル3以上は扱えないだろう。

もし使えるのならば、ホワイトタイガー討伐作戦のときにつかっていたはずだし。


 そんなことを考えながら待つ。

パーティ名は、次のパーティメンバーが見つかるまでに、じっくりと考えておこう。

ほどなくして、各パーティのリーダー格が出そろったようだ。


今この場にいる冒険者は、合計で13人だ。

俺とミティを除き、11人いる!


 なんとなく何かを発動してやりたい気持ちになるが、グッとこらえる。


 1つのパーティから2人以上が来ている可能性を考えると、今回の隊商を護衛するのは5~10パーティといったところか。

それぞれ、ギルド内の思い思いの場所に座っていたり立っていたりする。


 先ほどのギルド職員の男性が、前に出て声を出す。


「それでは、皆様お揃いになられたようですので、お部屋にご案内したいと思います。皆様、こちらの方へお越しください」


 男性職員の案内に従い、冒険者たちが移動する。

もちろん俺も後に続く。


 どうやら2階に向かうようだ。

階段をのぼる。

少し大きな扉がある


「こちらへどうぞ。お好きな席にお座り下さい」


 案内に従い、部屋の中に入る。

少し大きな部屋だ。

会議室のような雰囲気がある。


 お好きな席にと言われても、どこに座るべきか少し迷う。

冒険者内の序列で上座下座とかあるかもしれないし。

俺はまだ駆け出しのDランクなのだから、少し遠慮気味にしておいた方が無難だろう。


 他の人の動向を伺いつつ、余った席に座った。

ミティも隣に座る。

入口に近く、入口に背を向ける席だ。

この辺の上座下座の感覚は、日本と同じような感じなのかもしれない。


「では、今回の隊商護衛依頼の顔合わせ及び打ち合わせを始めたいと思います。まず始めに、隊商の代表者であるベルモンドさん、一言お願いします」


 この顔合わせを仕切るのは、隊商の代表か、ランクの一番高い冒険者あたりだと思っていたが。

どうやらギルド職員の男性が仕切るようだ。

まあその方が余計なトラブルが少なくなるのかもしれない。


 彼の司会に従い、初老の男性が立ち上がる。

最も入口から遠い席に座っていた人だ。

やはり金を払う依頼主なのだから、上座に座っているのだろう。


 お好きな席にとか言われて、あの席に座らなくて良かった。

様子を見て正解だ。

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