42話 アイテムバッグの試運転
アイテムバッグに石などを大量に入れておけば、便利だ。
戦闘前に石などを拾い、投擲物を確保しておく手間がなくなる。
戦闘中でも確実に新たな投擲物を用意できるため、継戦能力が向上する。
周囲に石などが落ちていない場所でも、投擲物を用意することができる。
以上のように、さまざまな恩恵がある。
「ところでミティ。昨日、良いものが手に入ったんだ。ミティに使ってほしい」
ミティがうれしそうな顔をしている。
「プ、プレゼントですか!? ありがとうございます!」
プレゼントか?
プレゼントといえばプレゼントだが、何かを勘違いされている気がする。
「いや、プレゼントというよりは、戦闘に必要なものなんだ」
「そうですか……」
ミティはがっかりしているようだ。
以前、ミティに緑色のアクセサリーをプレゼントした。
そろそろ新しいプレゼントをした方がいいかもしれない。
ゾルフ砦やそこまでの道中に良さそうなものがあれば買ってあげよう。
今はプレゼントを用意していないので、これ以上考えても仕方がない。
気を取り直して、アイテムボックスに入れておいたアイテムバッグを取り出す。
ミティに差し出す。
「これはアイテムバッグだ。見かけよりもたくさんのものが入る」
「アイテムバッグ……。高級な品と聞いたことがあります。私が使ってもよろしいのですか?」
「ああ。俺はアイテムボックスを使えるしな。そのアイテムバッグに石を入れておけば、ミティの戦闘が楽になるだろう?」
「そうですね……。確かに楽になると思います。ありがたく使わさせていただきます」
「ああ。まずは、手頃な石を見つけて、どんどん入れていこう」
「わかりました」
辺りをうろつく。
投擲物として使えそうな石をアイテムバッグに入れていく。
結構な量の石を入れた。
「アイテムバッグを手に持ったのは、生まれて初めてです。いったいどういう仕組みなんでしょうか。あれだけ入れたのに、あまり重さを感じません」
「へえ。ちょっと借してみてくれるか?」
ミティからアイテムバッグ受けとる。
うん。
確かにあまり重くない。
ただ、何も入れていないときと比べると、微妙に重さが増しているように感じる。
俺のアイテムボックスは、大量に入れても重さを感じない。
アイテムボックスとアイテムバッグの原理は、異なるのだろうか。
「高級なアイテムバッグほど、重さを減じる効果が大きくなると聞いたことがあります。それに、小さなスペースでもたくさんの物が入るとか」
「へえ。そうなんだ」
ミティはアイテムバッグの効果に感動しているようだ。
石を入れたり出したり、バッグを持って重さを確かめたりしている。
「すばらしい性能ですね。このアイテムバッグは、相当に高級なものかもしれません」
どうなんだろうな。
このアイテムバッグは、“中級者用の装備等一式”で出てきた。
単純に考えると、中級者ならこのレベルのアイテムバッグを持っていてもおかしくないということになる。
とはいえ、腑に落ちない点もある。
“中級者用の装備等一式”を手に入れるためのミッションは、“どれか1つのスキルレベルを5にしよう”だった。
これまでの冒険者生活での感覚としては、スキルレベル5にもなれば、完全に上級者だ。
そもそも、ミッションは誰が出しているものなのか。
人間にこのような芸当ができるとは思えない。
神か、もしくはそれに近い超常の存在が“ミッション”という制度に関わっていると考えるのが自然だ。
とすれば、“中級者用の装備等一式”の“中級者”という言葉は、あくまで神から見た中級者であり、一般的な感覚とはかけ離れている可能性もある。
もしくは、俺のように異世界から転移してきた者が他にもいて、それの平均的なレベルが“中級者”と認識されているとか。
ミッション報酬でいうところの中級者
=神が認識する中級者
=転移者・転生者の平均レベル
=この世界の一般的な認識における上級者
仮説をたてるとすれば、こんなところか。
一応考察してはみたが、現状では神や転移者・転生者には出会っていない。
これ以上は考えても無駄だな。
思考を中断する。
今はアイテムバッグの話だ。
「うん。なかなか良いアイテムバッグみたいだね。量もまだまだ入りそうかな?」
「はい、まだまだ入りそうです」
「とりあえず、どれくらいの石が入るか、限界まで試してみよう。そのあと、実際に戦闘で使って慣れていくぞ」
「わかりました」
石を求めて、再度辺りをうろつく。
石をアイテムバッグに入れていく。
入れていく。
入れていく。
かなり入るな。
せっかくたくさん入るのだから、投擲物の選択肢を増やすのも悪くないか。
大きな木片などもアイテムバッグに入れていく。
かなりの量の石を入れた。
なかなか満杯にならない。
そのうち、アイテムバッグの重量がなかなかのものになってきた。
持ち運べないことはないが、あまり重いと機動力が損なわれる。
これ以上入れるべきではないだろう。
しかし、アイテムバッグの容量の上限は気になる。
投擲には使えなさそうな大きめの岩をアイテムバッグに入れてみる。
容量のテストのためだ。
数個入れたところで、アイテムバッグが満杯になった。
今まで入れた量から考えて、アイテムバッグの収納量は、2m×2m×2mといったところだ。
俺がアイテムルームを覚えたてのころの容量と同じくらい。
なかなかの収納力だ。
無事にアイテムバッグの限界を知ることができた。
アイテムバッグに入れたテスト用の大きめの岩を取り出し、その辺に捨てておく。
「さて、ではこれから実際の戦闘で試していこう。ファイティングドッグを見つけたら、アイテムバッグから石を取り出して、ガンガン攻撃してみてくれ」
ファイティングドッグを探して歩き回る。
しばらくして、ファイティングドッグを見つけることができた。
すかさず、ミティの投擲が犬に襲い掛かる。
1投目はおしくもはずした。
2投目もはずした。
3投目で犬にかすった。
かすっただけだが、犬には大きなダメージとなったようだ。
ふらついたあと、そのまま倒れた。
さらにそこで追撃の4投目が直撃。
犬は完全に絶命した。
ミティの投擲の威力はすさまじい。
アイテムバッグの恩恵により、連射力も上がった。
これはもはや、1つの必殺技のような領域に入っている。
技名でもつけようか。
つけるならば、何が良いだろう。
メテオ。
メテオストライク。
ゲンコツメテオ。
拳骨流星群。
ストーンシャワー。
うーん。
しかし名付けたところで、使う機会がないか。
魔法と違い、使用時に名前を言うことはまずないだろうし。
とりあえず、“ゲンコツメテオ”と名付け、俺の心の中でのみ、この名を使用することにする。
「これは戦いやすいです。魔物が群れで現れても、ある程度は対処できると思います。本当にこのような良いものを使わせていただいてよろしいのでしょうか?」
今までは、“あらかじめ数個の石を用意しておいて、戦闘開始と共にそれを投げる”という戦闘方針だった。
最初の数発をはずしてしまうと、後が続かない。
投げ終わったあとは、ハンマーで前衛として戦うか、近くに手頃な石が落ちていないか探す必要があった。
アイテムバッグがあれば、一度の戦闘中でも大量の石を投げつけることができる。
もちろん、戦闘の経過次第では、今までのようにハンマーで前衛に加勢することも可能だ。
戦闘の柔軟性が大きく向上したといっていいだろう。
「うむ。ミティのゲンコツメテ……ゲフン! ミティの投擲は強力だからな。ミティにはそのアイテムバッグに似合うだけの実力がある。今後も期待しているのでよろしく頼む」
「……? 分かりました。ご期待にそえるように、精一杯がんばります!」
やべ。
俺の心の中でだけ使用するつもりが、ついつい口に出してしまいそうになった。
ミティは少し不審そうにしていたが、聞き返してはこなかった。
いや、別に言ってもいいんだけどね?
パーティメンバー間で技や戦術の名前を共有しておけば、いざという時の連携もスムーズになるだろうし。
「次の予定まで、まだ少し時間がある。あと数体犬を狩ってから、街へ戻ろうか」
気を取り直して、ミティと2人で犬狩りをしていく。
ソロだと、少しの油断で死んでしまうこともありうる。
一度劣勢になれば立て直すタイミングが掴みにくいからな。
しかし、2人いればその心配もない。
犬相手ならガンガン大胆に攻めてもだいじょうぶだ。
2人でどんどん犬を狩っていく。
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