41話 ミティの風魔法の練習

 さっそくミティと合流しよう。

ミティは北の練習場にいるはずだ。


 北の練習場は、ここからそう遠くない。

北の練習場の方向を見る。

人がいるのが視認できる。

顔までは識別できないが、おそらくあれがミティだろう。


 視力強化のスキルを取得すれば、この距離からでもくっきりと視ることができるようになるのだろうか。

五感を強化する各種のスキルは、単純ながらもなかなか強力そうなスキルだ。

スキルポイントがたくさんあればぜひ取ってみたい気持ちもある。


 が、あんまりあれこれいろいろ取っても器用貧乏になるかもしれない。

五感強化系のスキルは、剣術や風魔法などと違い、仲間に教えるようなものでもないしな。

俺自身が取得するのは後回しになりそうだ、


 遠距離攻撃主体の仲間に加護が付けば、その人が取得するスキルの候補として、視力強化は有力になるだろう。

あるいは、索敵などのサポートメインの仲間に、聴覚強化や嗅覚強化なども。

まあ、いずれにせよ先の話だ。


 北の練習場に向けて歩いていく。

しばらく歩くと、やはり先ほどから見えている人はミティだと分かった。

さらに歩き、近寄っていく。


 ミティもこちらに気づいたようだ。

彼女がこちらに駆け寄ってくる。


「タカシ様。用事はお済みになりましたか?」


「ああ、無事に終わったよ。ミティ、ケガはなかったか?」


「はい、だいじょうぶです。タカシ様に言われた通り、ファイティングドッグの奇襲には十分に用心しました」


「なら良かった。……ん? ミティ、その足のケガは?」


 ミティの足に軽い切り傷がある。

少しだけ出血もしていたようだ。


「あ、いえ。これはケガというほどのものでは……。草で少し切ってしまいました」


 確かにケガというほどのものでもないか。

既に血も止まっているし。


「治療魔法で治すよ」


「いえ、これぐらいだいじょうぶです」


「いや、せっかく治療魔法を使えるようになったんだし、治すよ。練習にもなるしね」


「では……。お願いします」


「いくよ。……キュア」


 ミティの足の傷をキュアで治す。

小さな傷を治すことができるのは、なかなか便利だな。

治療魔法をレベル2に上げてもいいかもしれない。


 って、何を考えてるんだ俺は。

我慢だ我慢。

しばらくレベル1で様子を見ることを昨日決めたばかりなのに。

自分の意志の弱さが怖い。


 治療が無事に終了した。

昼ごはんを食べよう。


 ウォーターボールを発動し、手を洗う。

ファイアボールを発動し、手を乾かす。

アイテムボックスから弁当を2つ取り出す。

ミティに弁当を1つ渡す。


 魔法はとても便利だ。

レベル1の魔法でも、十分に役立つ。

すばらしい。


 ファイアーボールとエアバーストを同時発動はできなかった。

同時に発動できれば、ドライアーとしての性能がより高まるかと思ったのだが。

同時発動できないという絶対的な制約があるわけではなく、単純に魔法操作の技量が不足していることが原因のように感じた。

今後に期待だ。


 ミティと雑談しながら、弁当を食べていく。


「タカシ様は本当に多才ですごいです。いろんな魔法が使えて、剣もすごくお上手ですし……」


 火魔法に水魔法に治療魔法。

確かに、いろいろな魔法が使える。

そのうえ、つい先ほど風魔法も習得した。


「いやいや、俺なんてまだまだだよ。それより、ミティもすごいよ」


「そうでしょうか」


「ミティが冒険者登録してまだ1か月もたっていないのに、もう立派な冒険者じゃないか」


「そのことは自分でもびっくりしています。なんだか、体の調子が良いんです」


「どんなふうに?」


「力は溢れてきますし、投擲の技術もみるみる向上しますし……。タカシ様のご指導のおかげだと思います」


 やべ。

この話題は少し危険だ。

話題を変えよう。


「なるほど。……ところで、ミティは魔法に興味ある?」


「えっと。子どもの頃に練習したことがあります。火、水、風、雷、土など、主流のものは一通り試しました。結局使えませんでしたが……」


 心なしか、ミティがしょんぼりしている気がする。

別に落ち込ませたいわけではないのだが。


「もう一度練習してみないか? できれば、ミティには風魔法を覚えてほしいと思っている」


「タカシ様がそうおっしゃるのであれば、もちろん練習させていただきますが……」


「風魔法は、一応俺も使える。できる限りは教えるつもりだ」


 ミティは少し驚いた顔をしている。

まあ俺が風魔法を使えることは言ってないしな。

言ってないというか、使えるようになったのはつい先ほどだし。


「分かりました。ご指導のほど、よろしくお願いします」


 そんな感じの会話をしながら、弁当を食べていく。

きっちりと完食した。



 さっそく、ミティに風魔法を教えてみよう。


「初級の風魔法はエアバーストっていう名前なんだけど。聞いたことはある?」


「はい、あります。幼年学校で、先生に教えてもらいました。なんでも、風の塊?を敵にぶつける魔法だとか」


 幼年学校ってなんだ。

小学校みたいなものか?

教育制度も整っているとは……。

異世界あなどり難し。


 料理のレベルも高いし、治安も悪くない。

科学技術は中世レベルのようだが、他の分野では現代地球と遜色ないレベルの分野も多いように思う。


 やはり魔法の存在が、良くも悪くも大きいのか。

魔法は便利であり、人々の生活を豊かにする。

その恩恵により生活にゆとりが生まれ、教育制度の充実、料理のおいしさ、治安の良さなどに繋がっているのかもしれない。


 しかし一方で、魔法があるせいで、科学技術が発展しないという側面も確かにあるようだ。

科学技術と魔法が組み合わされば、よりすばらしい世界になると思うのだが……。

現実は、うまくいかないものだ。


 おっと。

思考がそれたな。

今はミティと魔法の話だ。


「ああ、それであってるよ。より正確に言うと、“風”というよりは“空気”の塊をぶつける魔法だね」


「空気、ですか? 風とどう違うのでしょうか?」


 まずいぞ。

突っ込まれると、詳しい説明は無理だ。


「うーん。空気は目に見えないけど、常に辺りにただよっているんだ。動いている空気のことを風という」


「ええと。ごめんなさい。よく分かりません」


 だめだ。

こんな適当な説明では理解できなくて当たり前か。

そもそも俺自身も理解していないしな。


 方向性を変えよう。

理屈を理解してもらうのではなく、イメージを理解してもらう。


「まあ細かい理屈は置いておこうか。要するに、目では見えないものがそこら中にただよっていることさえ意識しておいてもらえればいい」


「なるほど」


「そして、そのただよっているものを、ギュッと凝縮する。ググッと掴んで、ズバッとはじけ飛ばすんだ」


「ギュッとして、ググッとして、最後にズバッと、ですか……」


 われながら何というアホな説明なんだ。


 まあ最低限、”俺がミティに魔法を教えた”という事実さえあればよい。

これで数日間は様子を見て、ミティが風魔法を習得できればもうけもの。

無理だったら、ステータス操作で習得するのでも構わないだろう。

ミティに露骨に不審がられなければオーケーだ。

多少不審に思われるのは仕方がないし、問題もない。

今は時期尚早というだけで、いずれはステータス操作のことを話すつもりだからな。


 その後、ミティに風魔法の練習をしてもらったが、習得はできなかった。

しばらくは様子見だな。

今日は他にやることがあるので、風魔法の練習を切り上げることにする。


「さて、ミティ。風魔法の練習は、このぐらいにしておこうか」


「……分かりました。あの、覚えられなくてすいません……」


 ミティがしょんぼりとしている。

いやいや、あんな適当な説明ではできなくても仕方がない。


「いや、もともと1日やそこらで習得できるとは思っていないし、問題ないよ」


「そうでしょうか……」


「俺も教えるのは初めてだし、気楽にいこう。しばらくは、できるだけ毎日練習しようか」


「はい、頑張ります!」


 ミティの風魔法の練習が終わった。

次にやることは、アイテムバッグの試運転だ。

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