38話 ミッション報酬の整理
宿屋のイスに座りながら、引き続きシステム操作を進めていく。
ミティは少し離れたところでくつろいでいる。
ミッション画面を開く。
ミッション
どれか1つのスキルをレベル5にしよう。
報酬:中級者用の装備等一式、スキルポイント20。
このミッションが無事に達成済みになっていた。
報酬を受け取る。
中級者用の装備等一式は、床にドサッと積まれた。
ミティがこちらを見ている。
「どうされましたか?」
「ああ、いや……」
いまいちうまい言い訳が出てこない。
ちょっとうかつだったか。
ミティが見ていないところでやるべきだった。
「知り合いに道具などを譲ってもらったから、アイテムルームから出して整理しているんだ」
これぐらいの言い訳が無難だろう。
まだミッションとか異世界転移のことは話す時期ではない。
「そうでしたか。何かお手伝いできることはありますか?」
「ありがとう。だいじょうぶだ。それほど量もないし。ミティは休んでいてくれ」
たぶん変なものはないとは思うが、まずは自分1人で確認しておきたい。
ミティの申し出は断った。
改めて、積まれた物にざっと目を通す。
服・剣・鎧・貨幣・カバンがある。
ラインナップの種類自体は、初心者用の装備等一式のときと同じだ。
おそらく、質がグレードアップしているのだろう。
服は、フォーマルな雰囲気のあるものだ。
公式の場で着るものだろう。
中級者にもなれば、そういう機会もあるということか。
いつかのときのため、大切にとっておこう。
剣は、なかなか上等そうなものだ。
今使っている剣よりも少し長い。
アイアンソードと名付けよう。
もしかしたら鉄製ではないかもしれないが。
こういうのは雰囲気が大切だ。
鎧は、金属製ではなく革製のものだ。
革製という意味では今使っている鎧と同じだ。
見た感じ、少し上等なもののようだ。
貨幣は、金貨100枚だった。
大きな収入だ。
初心者用の装備等一式で貰ったときは、金貨10枚と小銭が少々だった。
金額が跳ね上がっている。
借金をいくらか返済しておくのが良いかもしれない。
利子はそれほど気にならない。
借金をきちんと返す意思があるという意思表示をしておきたい。
夜逃げしたと思われてもつまらないしな。
カバンは、なんとアイテムバッグであった。
さっそく物を入れてみる。
容量は、アイテムボックスと同じか少し大きいくらいのようだ。
50cm×50cm×50cm。
もしくは70cm×70cm×70cm。
こんなところだろう。
俺が持っていても、戦術的に意味がない。
これはミティに渡すことにしよう。
石や岩を大量に入れておけば、投擲物がなくて困るということはなくなる。
中級者用の装備等一式の整理が終わった。
次はスキルポイント20だ。
なんと、俺だけでなくミティにもスキルポイントが20入っていた。
嬉しい誤算だ。
加護を持っている人にもスキルポイントが入るのか。
となると、今後のミッション達成は、パーティメンバーを揃えて加護付与に成功してからにするのがいいかもしれない。
……いや、必ずしもそうでもないか。
達成できそうなミッションはどんどん達成して、報酬でパーティをどんどん強化していった方が、最終的には効率が良くなりそうだ。
加護を付与できるようになるタイミングも読みにくいし。
気にせずどんどんミッションを達成していくのが良いだろう。
さて、俺のスキルポイントはどう使おうか。
少し考える。
候補は5つほどか。
1つ目の候補は、治療魔法だ。
今までは俺の身の丈に合わないと思っていて避けていた。
しかし、レベル1か2までぐらいであれば、だいじょうぶな気もする。
冒険者生活は生傷が絶えない。
今回の遠征に万全を期すためにも、治療魔法を取得しておきたいところだ。
2つ目の候補は、魔法関連のサポートスキルだ。
MP強化、魔力強化、MP消費量減少、MP回復速度強化あたりを強化する。
魔法全般の使い勝手が増すだろう。
もしくは、高速詠唱のスキルを取得する。
詠唱時間が長い火魔法レベル4のボルカニックフレイムが通常戦闘でも使いやすくなりそうだ。
また、今後に火魔法レベル5を扱う上で、重要になってくるかもしれない。
3つ目の候補は、風魔法だ。
俺がミティに教えるために取得したい。
戦闘の幅が広がるし、火魔法との相性も悪くなさそうだ。
4つ目の候補は、水魔法だ。
現状では水魔法はレベル1。
小さな水球を創れる程度だ。
火魔法の誤射により森林火災などが発生してしまったときに、迅速な消火ができるようにしたい。
5つ目の候補は、空間魔法だ。
現状では空間魔法はレベル2。
アイテムボックスとアイテムルームが使える。
順当に考えて、レベル3ではアイテムハウスとかアイテムエリアみたいにより容量の大きな収納ができるようになりそうだ。
あるいは、ワープとか転移魔方陣作成みたいな移動系の魔法も有りうる。
ゾルフ砦からラーグの街まで、ささっと帰ることができるかもしれない。
こんなところか。
どれも夢が広がるスキルでわくわくする。
が、残念ながらスキルポイントは20しかない。
水魔法の優先度は低い。
スキル1のウォーターボールでもある程度は消火できる。
俺の魔力のステータスもずいぶん向上したので、性能も上がっている。
水魔法はとりあえずそのままの方向性でいいだろう。
空間魔法にはロマンがある。
しかし、喫緊の課題を解決するものではないし、不確実だ。
空間収納には今のところ困っていない。
ワープなんていう魔法が本当にあるのかも疑わしい。
空間魔法も後回しでいいか。
やはり治療魔法か。
人を治療する能力を得て、俺の中の何かが壊れないかが心配だが……。
とりあえずレベル1を取得して様子を見よう。
いざとなればスキルリセットもあるしな。
魔法関連のサポートスキルは、明日の火魔法レベル5の試射の様子を見て判断する。
「あともう少しMPがあれば……」とか「あともう少し速く詠唱できれば……」とかいうような事態になれば、それに対応したスキルを強化・取得したいと思う。
風魔法は、最優先ではない。
しかし、できるだけ優先したいスキルではある。
ミティに風魔法を教え、戦闘の幅を広げたい。
魔法関連のサポートスキルが不要そうなら、風魔法を取得しよう。
方針は決定した。
ステータスを開く。
治療魔法を取得する。
頭の中に、治療魔法レベル1のイメージが流れこんでくる。
治療魔法レベル1は”キュア”だ。
ちょっとしたすり傷などを治すことができる。
また、切り傷や捻挫レベルのケガも、痛みを和らげ完治を早めることができるようだ。
さっそく試してみよう。
毎日の冒険者生活で、細かな傷が少なくない。
頭の中で詠唱を開始する。
患部を包み込むように両手をかざす。
「キュア」
小さいすり傷が消えてなくなった。
確かに効果はあるようだ。
続けて切り傷にもキュアをかけていく。
しばらくそうしていると、ミティが声をかけてきた。
「どうされましたか?」
「ああ。以前から治療魔法の練習をしていたんだが、初めて成功したんだ」
実際にはステータス操作で取得したのだが、まだ正直に言う段階ではないだろう。
「治療魔法……ですか。すごいです」
「すごい……のかな? 成功したとはいっても、小さなすり傷を治す程度だよ」
「治療魔法を覚えるためには、専門の学校や教会で数年間学ぶのが一般的だとされています。すり傷の治療とはいえ、自分で練習を重ねて使えるようになる人は、少ないかと」
「なるほど」
ふーむ。
確かにそれは、すごいといえばすごいのかもしれない。
だが、激レアというほどのものでもなさそうだ。
専門の学校で数年間学べば、治療魔法を使えるようになるわけだからな。
「ところでミティ。せっかく治療魔法を使えるようになったんだ。傷を治してあげるよ」
「えっ。いえ。私ならだいじょうぶです。ご自身の方を優先してください」
「いいからいいから。ミティがきれいな体でいてくれた方が、俺もうれしいし。遠慮は要らないよ」
そう言って、多少強引に迫る。
ミティはしばらく遠慮していたが、ついには観念したようだ。
冒険者生活で傷がつきやすいのは、足だ。
徒歩での移動時に、足元の草木で擦ってしまうことが多い。
ミティをイスに座らせる。
足を出してもらう。
「汚い足ですいません……」
「そんなことないよ。きれいだよ」
美しい足だ。
思わずなめたくなるが、我慢する。
ミティに変態だと思われてしまう。
俺たちにそんなアブノーマルプレイは早すぎる。
普通のプレイもまだなのに。
思考がそれた。
足の治療だ。
頭の中で詠唱を開始する。
患部を包み込むように両手をかざす。
「キュア」
小さいすり傷が消えてなくなった。
何度か発動し、ミティの足のケガを一通り治す。
「ありがとうございます、タカシ様」
「ふ、ふつくしい」
「……?」
「いや、改めてきれいな足だなって」
「いえ、そんな」
ミティの顔が赤くなる。
ちょっとセクハラ気味だったかもしれない。
気をつけよう。
キュアの効果は微小だ。
ごくごく小さいケガにしか有効ではない。
その分、消費MPも少なめだ。
何度も繰り返し使用できる。
戦闘中では何度も使用している余裕はないだろうが。
今回のように落ち着いた環境で使用する分にはキュアだけでも十分に有用だ。
MP関連のスキルの恩恵もあるだろうな。
普通の人なら、それほど何度もは使えないかもしれない。
さすがに1日数発が限界、ということはないと思うが。
あまり効果が強すぎる魔法だと、俺の器では扱いきれない。
その点では、安心した。
一方で、物足りない気持ちもある。
すり傷ぐらい、そもそも放置していても大きな問題はない。
もっと効果の大きな治療魔法が欲しい。
その気持ちをぐっと抑え込む。
とりあえず治療魔法はレベル1で様子を見ていくことにする。
ミティの治療を終える。
しばらくして、ミティは寝たようだ。
まるで天使のような寝顔だ。
ミティの寝顔を眺めながら眠りにつきたいところだが、我慢する。
今日のうちにミティのスキル操作を済ませておきたい。
ミッション報酬で入ったスキルポイント20だ。
ミティのスキル取得方針をどうするか。
昨日も考えてたところだ。
大きく悩むことはないだろう。
一応、考えをおさらいしておく。
ミティの持っているスキルは全部で5つだ。
槌術レベル3。
投擲術レベル2。
腕力強化レベル3。
器用強化レベル2。
MP回復速度強化レベル1。
槌術レベル4は目立ってしまうので、まだ早計。
魔法スキルがないので、MP回復速度強化のスキルを上げる必要性はない。
既存のスキルを強化するのであれば、投擲術か器用強化しか選択肢はない。
新たなスキルを取得するにしても、鍛冶は時期尚早。
風魔法はいずれ俺が教える予定。
肉体強化や体力強化あたりが有力候補になる。
今の俺たちの移動手段は徒歩だ。
日々の戦闘に加え、単純に移動するだけでもかなりの体力を消耗している。
明後日からのゾルフ砦への護衛依頼では、護衛者も馬車の荷台に乗せてもらえるらしい。
徒歩ではない分楽だろうが、それでも長時間揺られていれば、体力は消耗するだろう。
体力強化は取得しておくべきだ。
加えて、事前に考えていた投擲術か器用強化のどちらかをレベル3にする。
悩むところだが、今回は投擲術を強化することにする。
ミティのステータスを開く。
体力強化を取得する。
投擲術をレベル3にする。
よし。
これでミッション報酬の整理は終わった。
明日は護衛依頼の顔合わせがあるが、その前に済ませておくべきことが多い。
ミッション報酬で得た新しい武具の感触を確かめること。
火魔法レベル5の試し撃ち。
火魔法レベル5の様子次第で、MP関連のサポートスキルを取得し、再度試し撃ち。
MP関連のサポートスキル取得を保留にした場合、その分のスキルポイントで風魔法を取得し、試し撃ち。
風魔法を取得した場合、ミティに風魔法の指導。
アイテムバッグをミティに渡し、それの試運転。
ラーグ奴隷商会に行き、いくらかの借金の返済。
ざっとこんなところか。
明日は忙しい1日になりそうだ。
レベル12、たかし
種族:ヒューマン
職業:剣士
ランク:D
HP:92(71+21)
MP:115(46+69)
腕力:44(34+10)
脚力:43(33+10)
体力:94(41+12+41)
器用:51(39+12)
魔力:84(42+42)
武器:ショートソード
防具:レザーアーマー、スモールシールド
残りスキルポイント10
スキル:
ステータス操作
スキルリセット
加護付与
異世界言語
剣術レベル3
回避術レベル1
気配察知レベル2
MP強化レベル3
体力強化レベル2
魔力強化レベル2
肉体強化レベル3
火魔法レベル5 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム、火魔法創造」
水魔法レベル1 「ウォーターボール」
治療魔法レベル1 「キュア」
空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」
MP消費量減少レベル2
MP回復速度強化レベル1
称号:
犬狩り
ホワイトタイガー討伐者
レベル9、ミティ
種族:ドワーフ
職業:槌士
ランク:E
HP:72(55+17)
MP:39(30+9)
腕力:140(50+15+75)
脚力:31(24+7)
体力:65(36+11+18)
器用:23(10+3+10)
魔力:38(29+9)
武器:ストーンハンマー
防具:レザーアーマー
その他:アイテムバッグ
残りスキルポイント0
スキル:
槌術レベル3
投擲術レベル3
体力強化レベル1
腕力強化レベル3
器用強化レベル2
MP回復速度強化レベル1
称号:
タカシの加護を受けし者
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