39話 火魔法創造のテスト

 朝だ。

宿の1階に降りる。

朝食をとりながら、ミティに話しかける。


「ミティ。ちょっと1人で済ませたい用事があるんだ。ミティは部屋でしばらく待っていてもらえないだろうか? それとも、どこか行きたいところでもある?」


 いまさらだが、火魔法の詠唱をミティに見られるのは少し恥ずかしいのだ。


「えっと。そうですね。なんだか、元気が有り余っているんです。何かを思い切り投げたい気分です」


 やべ。

昨日のスキル操作の影響か?


 確かに、突然自分の身体能力や投擲の技術が向上していたら、違和感を感じるよな。

当たり前だ。

むしろ、よく今まで勘づかれなかったな。


「そうか? なら北の練習場で投擲の練習でもしているか? あのあたりはファイティングドッグもあまりいないし。もしいても、今のミティなら無理なく倒せるはずだ」


 実際、ミティが1人で討伐したことが何度もある。

今回との違いは、俺が後ろで見ているかどうかだけだ。


「そうですね。お言葉に甘えて、そうしたいと思います。ありがとうございます」


「俺が向かうのも北の草原なんだ。途中までいっしょに行こうか」


 今からの行動予定が決まった。

朝食を食べ終え、部屋に戻る。

支度を済ませ、北の草原に向かう。



 北の練習場に到着した。


「じゃあ、また後でな。ファイティングドッグの奇襲にだけは用心してくれよ」


「分かりました。タカシ様もお気をつけて」


 ミティと別れる。

俺はそこから少し歩く。


 この辺でいいか。

詠唱を聞かれるのが恥ずかしいわけだから、そこまで遠く離れる必要もない。

この距離でならば、ミティをギリギリ視認できる。

細かな様子までは分からないが、魔物の群れに囲まれたりすれば、すぐに気づけるだろう。


 さて、まずはファイアーボールの改造魔法を試すか。

威力と射程距離をそのままに、連射性能を上げることが目標だ。


 1000個ぐらいのファイアーボールを同時に発動し、標的に向けて殺到させるイメージをする。


「散れ。千本桜!」


 …………。

うんともすんとも反応がない。

残念ながら発動しなかったようだ。


 やはりいきなり1000個は無理か。

詠唱も短すぎるのだろう。


 イメージと文言を変え、改めて挑戦する。


「炎の精霊よ。わが求めに応じ、敵を葬れ。地獄に咲く美しき幻葬。舞え、桜吹雪!」


 それっぽいことを並べて呪文風にしてみたが、全然だめだ。

イメージが固まっていないのが問題か。

地獄に咲く幻葬って何だよ。

自分で言ってて恥ずかしくなってきた。


「炎あれ。わが求むるは豪火球。百本桜!」


 今度は微妙に手ごたえがあった。

手のひらサイズの火の球がいくつか発生し、フラフラとその辺に飛んでいった。


 悪くはない。

呪文はそのままで数を減らしてみよう。


「炎あれ。わが求むるは豪火球。十本桜!」


「……七本桜!」


「……五本桜!」


「……三本桜!」


 何度も試した。

三本桜が最も良さそうだ。


 普通のファイアーボールと比べると、詠唱が少し長く、消費MPも多い。

その分、ほぼ同時に3発撃てる。

威力はもとのままぐらいか。


 千本桜にできればカッコよかったのだが。

現実は厳しい。

たった三本とは。


 これでは、対クレイジーラビット戦で使うのは難しそうだ。

練習を重ね、数を増やしていきたい。

最終目標は千本だ!


 ステータスで魔力強化をレベル3や4にしていけば、制御能力も向上するだろう。

しかし、スキルに頼らずとも、何度も使用していれば徐々に上達はすると思う。

根気が大切だ。

 

 ファイアーボールの改良で、結構時間をとってしまった。

まだまだやることが残っている。


 時間が足りない。

火魔法の改良は、今日のところはあと1種類ぐらいで留めておくか。

何を優先しようかな。


 砦の防衛では、矢を射られる機会があるかもしれない。

火の防御魔法を練習しておきたい。


「炎よ。われを守り給え。ファイアーウォール!」


 いきなりいい感じだ。

目の前に火の壁ができた。


 が、これは……。

どうなんだろう。


 発動中、MPがそれなりの速度で消費されていくのを感じる。

燃費は悪い。


 火力も中途半端そうだ。

これでは、矢を防ぐどころか、むしろ矢の威力が増す結果に終わるだろう。

ただの矢にわざわざ火を付けていくのか。

ダメじゃねぇか。


 対人防御としても、思い切って飛び込んでさっと通り過ぎれば、ヤケドぐらいで済んでしまいそうだ。

それに、壁とはいっても、幅はせいぜい数メートル程度。

横から普通に回り込むことができる。


 これは使えないな。

どこを修正すべきか。

“範囲魔法で壁を作り維持する”という発想は良くなさそうだ。

根本的に変える必要がある。


 矢がこちらに届く前に、灰にして焼失させればいいわけだ。

それにはかなりの高火力が必要となる。


 標的とする木片を用意し、離れたところに置く。

高火力で、一瞬で灰にさせるイメージを込める。


「焼き尽くせ。バーンアウト!」


 シンプルイズベスト。

これでどうだ。

 

 木片が炎に包まれる。

数秒後、木片は灰となった。


 悪くない。

が、良くもない。

焼き尽くすのに数秒かかっていては、対矢の防御魔法としては使えない。


 普通に攻撃魔法として使うのはどうだろう。

試してみよう。

ファイティングドッグを探す。


 少し歩いたところにファイティングドッグがいた。

呪文を詠唱する。


「焼き尽くせ。バーンアウト!」


 犬が炎に包まれる。

が、少しして自然に火が消えた。


 それなりのダメージは与えたようだ。

しかし、致命傷ではない。

近寄って、剣で倒した。


 バーンアウトの魔法は、先ほど試したときは木片を数秒で燃やし尽くすほどの火力があった。

しかし、犬に対してはさほどのダメージではなかった。


 木片と犬では、質量に大きな差がある。

犬が燃え尽きて灰にならなかったことは、さほど不思議ではない。

ただ、木片が燃えたときの勢いからすると、もう少し犬に大きなダメージを与えていてもよいと思う。


 なぜ、犬にはイマイチのダメージだったのだろうか。

イメージの問題か?

俺はバーンアウトの魔法の創作にあたって、”矢などの投擲物を燃やし尽くすようなイメージ”で呪文を考え出した。

自分で呪文を考え付いた時点でのイメージが重要なのかもしれない。

“焼き尽くせ。バーンアウト”の呪文は、あくまで矢などの投擲物に対してのみ効果的で、生物に対してはあまり効果的ではないと考えた方がよさそうか。


 もう少し検証が必要だ。

今度は、“生物を燃やし尽くすようなイメージ”の呪文を考える。

単体攻撃魔法は、ファイアボールやボルカニックフレイムで十分間に合っているが、検証のためだ。

しばらく考える。


 “焼き払え。インフェルノ”。

こんな感じでいいか。

適当だが、まああくまで実験のためだ。


 ファイティングドッグを探す。

手頃なやつがいた。


「焼き払え。インフェルノ!」


 犬が炎に包まれる。

なかなかの火力だ。

先ほどのバーンアウトの魔法よりも明らかに高火力だ。

その分、消費MPも少し多い。


 一撃で倒すことはできなかったが、もうフラフラだ。

近寄って剣で倒した。


 今度は、今の対魔物用の呪文を、木片に対して使う。


「焼き払え。インフェルノ!」


 木片が炎に包まれる。

数秒後、木片は灰となった。

火力はバーンアウトと同程度か。


 ふーむ。


 対物体用に創作した呪文は、魔物に対しては効果がイマイチである。

対魔物用に創作した呪文は、魔物にも物体にも効果がある。


 こんな感じの実験結果となった。


 この結果だけ見れば、対魔物用の呪文は、対物質用の呪文の上位互換のように感じられる。

しかし、実際はそうではない。

消費MPの多さ、詠唱の長さ、要求されるイメージの正確さ、などなど。

いろいろな要素が組み合わさって、バランスが保たれているのだと思われる。


 ”火の防御魔法を創作する”という今回の目的からすると、バーンアウトの魔法は悪くない。

バーンアウトの魔法を今後練習していこう。


 MP関連のスキルの取得については、今回は保留とする。

多少MPや魔力のステータスが向上しても、劇的に使い勝手が良くなるとは思えない。


 ステータスの向上よりも、まずは練度の向上が課題だろう。

今後、”三本桜”と”バーンアウト”の練習をして練度を高めていくことにする。


 そして、練度の向上に合わせ、MP関連のスキルも取得し、いずれは2つの創作魔法を実戦レベルで使えるようにしたい。

三本桜については、数を増やし、千本桜に到達することを最終目標とする。

バーンアウトについては、矢を一瞬で灰にするぐらいの火力を得ることを目標とする。


 遠く険しい道のりになりそうだが、コツコツと頑張っていこう。



レベル12、たかし

種族:ヒューマン

職業:剣士

ランク:D

HP:92(71+21)

MP:115(46+69)

腕力:44(34+10)

脚力:43(33+10)

体力:94(41+12+41)

器用:51(39+12)

魔力:84(42+42)


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー、スモールシールド


残りスキルポイント10

スキル:

ステータス操作

スキルリセット

加護付与

異世界言語

剣術レベル3

回避術レベル1

気配察知レベル2

MP強化レベル3

体力強化レベル2

魔力強化レベル2

肉体強化レベル3

火魔法レベル5 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム、火魔法創造 “三本桜” “バーンアウト”」

水魔法レベル1 「ウォーターボール」

治療魔法レベル1 「キュア」

空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」

MP消費量減少レベル2

MP回復速度強化レベル1


称号:

犬狩り

ホワイトタイガー討伐者



未達成のミッション:


ミッション(期間限定)

ゾルフ砦の防衛に加勢しよう。

報酬:スキルポイント20


ミッション

竜種を1頭討伐しよう。

報酬:スキルポイント20

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る