28話 食事会へのお誘い

 スメリーモンキー討伐から一夜が明けた。

朝から西の森で精力的に狩りをした。

少し早めに冒険者ギルドに戻る。

討伐報告を済ませ、素材の買い取りを頼んでおく。


 受付嬢の情報によると、現在“蒼穹の担い手”は護衛依頼などを受けておらず、このラーグの街を拠点に狩りをしているそうだ。

つまり、ここ冒険者ギルドで待っていれば、報酬を受け取りに来たリーゼロッテらと会うことができるというわけだ。


 しばらく待つ。

リーゼロッテらが帰ってきた。

彼らが討伐報告を済ませて報酬を受け取るのを待ち、話しかける。


「こんにちは、リーゼロッテさん、コーバッツさん。それに他の皆さんも」


「あら、タカシさん。お久しぶりですわ」


「やあ久しぶりだね、タカシ君。どうしたんだい?」


「実は昨日スメリーモンキーの肉が手に入りまして。よろしければ皆さんを食事会にご招待できればと」


「スメリーモンキーですって!? それは素晴らしいですわ! ぜひその食事会に参加させて下さいまし!」


 リーゼロッテの目の色が変わった。

珍味好きの食いしん坊というのは本当のことらしい。


「ほう、スメリーモンキーか。良かったなリーゼロッテ。しかし私達も参加していいのかい?」


「ええ、食事は大人数で食べたほうがおいしいですから。ちゃんとスメリーモンキー以外の料理も用意しておきますよ」


「それはありがたい。その食事会はいつ開かれる予定なんだい?」


「それは“蒼穹の担い手”の皆さん、特にリーゼロッテさんの予定をきいてから決めようかと」


「わたくし達のパーティは、1週間後にラーグを離れて東に向かう予定でしてよ。それまでの夕食であれば、いつでも大丈夫だと思いますわ」


「それは良かった。では明後日の夕食はどうでしょうか?」


「ああ、それでいいだろう。場所はどこだい?」


「ラビット亭という食堂はご存じでしょうか? そこを貸切にする予定です」


「ラビット亭……すまないが知らないな。リーゼロッテは知っているか?」


「いえ、わたくしも存じ上げませんわ」


「それでしたら、私がここ冒険者ギルドから案内しますよ。明後日の狩りが終わったあと、この辺りでお待ちしています」


「分かった。では明後日を楽しみにしているよ、タカシ君」


 そう言って彼らは去って行った。

俺とミティも冒険者ギルドを出て、ラビット亭へ向かう。



 ラビット亭に着いた。

夕食を食べながら、モニカに話しかける。


「食事会の日程は明後日の夕食になりました。貸切にできますか?」


「ああ、大丈夫だよ。人数と予算はどれくらいだい?」


「人数は、今のところ7人ですね。あと何人か誘えればと思っています。予算は金貨10枚ぐらいまでなら大丈夫です」


 リーゼロッテ含む“蒼穹”メンバーが5人。

それに俺とミティを加えて7人だ。

あと、できれば“赤き大牙”とか“黒色の旋風”とか“荒ぶる爪”あたりも誘いたいと思っている。


 予算は少し多めに言っておいた。

初めてこのラビット亭に来たとき、俺は予算を奮発して金貨1枚とした。

俺とミティ2人で金貨1枚、つまり1人あたり金貨0.5枚分だ。

そして俺とミティに豪華な料理がたくさん出てきた。


 せっかくみんなを招待するわけだから、その奮発した初日ぐらいの基準で料理を出してもらいたい。

そう考えると、1人あたり金貨0.5枚が7人で金貨3.5枚。

仮にあと5人誘うとして、金貨2.5枚を足して金貨6枚。

わざわざ貸切にしてもらうわけだから、金貨2枚を足して金貨8枚。

不慮の事態などに備えた余分資金として、金貨2枚を足して金貨10枚。


 予算が多すぎるかもしれないが、まあ足りないよりはいいだろう。

西の森で狩りをするようになってからは、毎日金貨10枚ほどを稼いでいる。

この調子でいけば、借金完済もそう遠くはない。

多少のぜいたくは大丈夫だ。

それに、今までお世話になった人への感謝を込めた食事会なのだから、ケチるのも良くないだろう。


「金貨10枚!? それはまた奮発したね。君ってもしかしてお金持ちの息子だったりする? もしくは見かけによらず凄腕の冒険者とか?」


 見かけによらずって……。

そんなに俺が弱そうに見えるかな?


「うーん、強いて言えば冒険者のほうですね。でも俺はまだまだ駆け出しですよ」


「駆け出しでそんなに稼いでるんだ。これは今後もお得意様になってもらわないとね」


 そんな会話をしながら、料理を食べ終えた。

食事会は明後日の夕食で本決まりだな。

その後、宿に帰って就寝した。



●●●



 今日も朝から西の森で精力的に狩りをした。

少し早めに冒険者ギルドに戻る。

討伐報告を済ませ、素材の買い取りを頼んでおく。


 知り合いが来るのを待つ。

最初に赤き大牙が帰ってきた。

彼らが討伐報告を済ませて報酬を受け取るのを待ち、話しかける。


「お久しぶりです、赤き大牙のみなさん」


「あら。タカシじゃない。久しぶりね」


「おう。元気そうだなタカシ。そっちの嬢ちゃんは誰だ?」


「こちらの娘はミティです。今は彼女とパーティと組んでいます」


「……へー、そうなんだ。最近の狩りは順調なの?」


 ユナの顔が一瞬引きつったように見えた。

まあ彼女のパーティを抜けといて他の人とパーティを組んでいるわけだからな。

不愉快に思われたのかもしれない。

口に出して文句は言わないようだし、俺もあまり気にしないことにしよう。


「順調だよ。この前も西の森でスメリーモンキーを狩ったところだ」


「スメリーモンキー? 聞いたことのない名前ね」


「おう。俺とジークは以前狩ったことがあるぞ。ひでえ臭いのする奴だろ?」


「…………あれは厳しい戦いだった」


「ドレッドさんとジークさんはご存じでしたか。それでですね、せっかくスメリーモンキーという珍しい食材が手に入ったので、お世話になった皆さんへのお礼を兼ねて食事会を開こうと思っているんですよ」


「ふふん。いい心掛けね」


「おう。そいつはありがたい。それでその食事会はいつあるんだ?」


「明日の夕食ごろを予定しています。明日の狩りが終わったあとにここ冒険者ギルドで待っていて頂ければ、私が食堂へ案内します」


「おう分かった。それじゃまた明日な」


「ふふん。スメリーモンキーとやらがどんな味がするか、楽しみにしているわ!」


 そう言って彼らは冒険者ギルドから出ていった。

すると入れ替わるように荒ぶる爪の人達が冒険者ギルドに入ってきた。



 ディッダ達が討伐報告を済ませて報酬を受け取るのを待ち、話しかける。

今までと同じように食事会に誘う。

彼らも明日の食事会に参加してくれるそうだ。


 思ったよりも参加してくれる人が多いな。

蒼穹5人、大牙3人、爪4人、それに俺とミティ。

現在で14人だ。

あとでモニカに伝えておこう。

予算も金貨10枚だと足りないかもしれない。


 ディッダ達と少し雑談をする。

しばらくして、誰かが冒険者ギルドへ入ってきた。

アドルフの兄貴とレオさんだ!


「へっへっへ。タカシじゃねえか。久しぶりだな。それにディッダ達も」


 ん?

兄貴達は彼らのことを知っているみたいだな。


「お久しぶりですアドルフの兄貴、レオさん」


「「「「お久しぶりです兄貴達!」」」」


 うん。

彼らも兄貴達にあいさつしているところを見ると、知り合いのようだ。

もしかして彼らとは兄貴達の舎弟仲間ってことになるのか?

いや、俺のほうが新人だから、弟弟子ってところか。


「いつラーグに戻っていらしたのですか?」


「昨日だ。まあ俺達にかかれば護衛依頼なんぞ楽勝よ。ギャハハハ!」


「へっへっへ。それで、タカシとディッダは知り合いになったのか?」


「はい。先日いっしょに狩りにいきまして、スメリーモンキーを討伐しました」


 因縁をつけられて狩り勝負になったことは伝えなくてもいいだろう。

なんか告げ口みたいだし。


「へっへっへ。それはいいことだ。ディッダやウェイクはチンピラみたいな言動をしているが、根はいい奴らだ」


「それに腕もなかなかだ。タカシも学ぶところは多いと思うぞ。ギャハハハ!」


 それをあなたが言いますか、アドルフさん……。

完全に自分のことじゃないですか。

俺も将来は後輩冒険者の面倒を見る予定だが、チンピラ風にならないように注意しよう。

いや、前振りじゃないぞ?


「そうだ、ちょうど良かった。明日の夜に夕食会を開く予定なんですが、よろしければ兄貴達もどうでしょうか? スメリーモンキーを出すつもりです」


「へっへっへ。スメリーモンキーか。滅多に食べられないものだしな。参加させてもらおうか」


「あの味はくせになる味だ。たまに食べたくなる。ギャハハハ!」


 兄貴達にも参加して頂けることになった。

しばらく彼らに近況報告をする。

彼らも近いうちに東に向かうらしい。


 兄貴達と荒ぶる爪は冒険者ギルドから出ていった。

そしてその後、黒色の旋風を見かけた。

ポーターの人もいっしょだ。

食事会に誘ってみたら、返事はOKだった。



 さて、これ以上多くなるのもマズイか。

蒼穹5人、大牙3人、爪4人、兄貴達2人、黒色4人、それに俺とミティ。

合計で20人だ。


 1人あたりの料理代を金貨0.5枚として、20人だと金貨10枚だ。

モニカに伝えている予算とちょうどぴったり。

しかし、わざわざ貸切にしてもらう分の追加料金や念のための余分資金も必要だろう。


 ラビット亭に行き、夕食をとる。

モニカに人数の変更と予算の追加を伝えておこう。


「モニカさん。明日の参加者が20人ほどになりそうなんですが、大丈夫でしょうか? もちろん予算も追加します」


「20人!? そんなに大人数の料理を一度に作るのは久しぶりだ。でも問題ないよ。腕がなるさ!」


 俺が開催する食事会に多くの人が参加してくれる。

うれしい気持ちもあるが、もし失敗したらという不安な気持ちもある。

まあ俺にできることは少ないが。


 モニカさん、頼みますよ。

どうかいつも通りにおいしい料理をお願いします。

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