27話 ミティと川で水浴び

 スメリーモンキーの死体をアイテムルームに収納する。

さっさとここから離れよう。

チンピラ4人とミティと共に森の出口へと向かう。


 チンピラ達は便まみれで臭いからできれば近寄って欲しくない。

しかし俺をかばってのことなので、そんなことを言うわけにもいかない。

川で洗い流したいところだが、森の川は水生の魔物がいて危険だ。

森を出るまでは我慢するしかない。

せめて俺のウォーターボールで少し洗い流しておくことにしよう。


「俺は初級の水魔法が使えます。それほどの量は出せませんが、よろしければどうですか?」


「おお! そいつはありがてえ」


「くっくっく。このにおいにはウンザリしていたのだ」


 彼らの了承がとれた。

ウォーターボールを発動し、彼らにあてていく。

レベル1の水魔法だからそんなに出力はないが、ずいぶんマシになった。


「礼を言うぜ。しかしさすがは期待の新人様ってとこだな。水魔法まで使えるとは」


「くっくっく。実力だけならば完全にCランクはある。あとは経験を積むだけだな。せいぜい頑張るといい」


「分かりました。精進します」


「今さらだが俺達の名前を教えておこう。俺の名前はディッダ、こいつはウェイク、あとの2人はダンとボブだ」


「くっくっく。何か困ったことがあれば俺達を頼ってくれていいぞ。“荒ぶる爪”といえばラーグの街じゃそれなりに名の知れたパーティだ」


「ありがとうございます。何かあればぜひお願いします」


 今日の狩りで彼らとも一定の信頼関係を築けたな。

それほど悪い人達でもなかったようだ。

アドルフ兄貴達と同じパターンだ。

一見チンピラだけど実は良い人、みたいな。


 ふとステータスを見ると、ミティのレベルが6から7に上がっていた。

槌術をレベル3にしておく。


 

 森から出てしばらく歩く。

この辺りまで来れば大丈夫だろう。

水生の魔物の数は少なくなっている。


 ディッダ達が川に入り、体や装備を洗っていく。

俺とミティにもにおいが付いているかもしれないので、軽く洗っておく。

もちろん彼らよりも上流でだ。

下流だと彼らについていた便が流れてくるからな。


 洗い終えて川から出る。

ファイアーボールを弱めに発動し、球形のまま維持する。

ドライヤーのようなものだ。

俺とミティを乾かす。

ディッダ達がこちらを見ている。


「おお? いい魔法を持ってるじゃねえか」


「ええ、よろしければどうですか?」


「くっくっく。お願いしよう」


 ファイアーボールでディッダ達を乾かした。

これである程度は清潔になっただろう。

ラーグの街へ向かって出発する。



 しばらく歩き、ラーグの街に到着した。

いつもいかつい顔をしている門番の人が、今日は一段といかつい顔をしていて怖かった。

大通りを通って冒険者ギルドへ向かう。

周りの人がときおりこっちを見て何かつぶやいている。


「ひそひそ」


「この…………あの……が……じゃない?」


「うっ」


 いったい何なんだろう?


 冒険者ギルドに到着した。

中に入り受付嬢にギルドカードを渡す。

なんか彼女が変な顔をしているな。

まあいい。

討伐の報告をし、素材の買い取りもお願いする。


 スメリーモンキーや他の魔物をアイテムルームから出す。

受付嬢が叫ぶ。


「うっ。臭い! それは……スメリーモンキー!? 早くしまって下さい!」


 慌ててアイテムルームに戻す。

スメリーモンキーは便だけでなく、体からも異臭を放っている魔物らしい。

きちんと水で洗えばにおいは落ちる。

討伐後にきちんと体を洗っていないスメリーモンキーは、ギルドでは買い取ってくれないということだ。

このことを、俺とミティはもちろんディッダ達も知らなかった。


「なるほど。あなた達からひどいにおいがする原因はスメリーモンキーを相手にしたからなのですね」


「私達も臭いのですか? これでも川で洗ってきたんですが……」


「ええ。はっきり言って臭いですね。ひどいにおいがします」


 ガーン。

女性から臭いと言われるのは結構ショックだ。


 俺達自身からも相当なにおいがしていた。

だからみんな俺達を見て変な顔をしていたということか。

俺達6人は鼻が麻痺していて自分のにおいに気付かなかったのだろう。

ショックを受けている俺に、受付嬢がアドバイスをくれる。


「スメリーモンキーは念入りに洗いさえすれば、珍味として一部のマニアに人気があります。もう一度街の外の川で洗って来たらどうでしょう? もちろんその後は自分の体を洗うことも忘れずに」


 ほう、スメリーモンキーは珍味なのか。

リーゼロッテへのお礼にはいいかもしれないな。

彼女は変わった食材が好きだという話だ。


 冒険者ギルドから退出し、再び6人で街の外に向かう。

途中で古着屋に寄って、ボロ布を格安で譲ってもらった。

大通りを歩いていく。

周りの人がときおりこっちを見て何かつぶやいている。

原因が分かった今となっては、はずかしい気持ちが強い。

うつむきながら早足で移動する。



 川に着いた。

まずはスメリーモンキーの死体を洗おう。

アイテムルームからスメリーモンキーを出す。


 ボロ布を使い手分けして洗っていく。

鼻が麻痺しているのでもはや臭いとは思わない。


 しばらくして、ようやく洗い終わった。

スメリーモンキーをアイテムルームに戻す。


 今度は自分達の装備や体を洗う必要がある。

ディッダ達は既に服を脱いで川に入り、装備や体を洗っている。

俺とミティも洗わないと。

しかしディッダ達にミティの裸を見せるわけにはいかない。


「ミティ、向こうのほうに行こうか」


「はい、タカシ様」


 彼らから十分に距離をとる。

この距離ならよく見えないだろう。


「じゃあミティ、この辺で洗おうか。着替えはこっちに置いておくから」


 服を脱ぎ、装備や体を洗っていく。

最初は装備からだ。

もちろんミティのほうはなるべく見ないようにする。

俺達にはまだこういうのは早い。

少しずつ親交を深めていつかはそういう関係になりたいとは思うが。


 横目でチラチラと覗いてみたい。

覗いてみたい。

そんな欲望を必死で抑えつつ、もくもくと洗っていく。


 装備は洗い終えた。

今は体を洗っている。

ミティが近づいてくる気配がした。

どうしたんだろう。

裸の女の子がすぐ近くにいると思うと、ドキがムネムネしてくる。

ちがう、胸がドキドキしてくる。


「タカシ様、お、お背中をお流しします」


「!?」


 いや落ち着け俺。

背中を洗ってもらうだけだ。


「ああ、お願いするよ」


 しばらく背中を洗ってもらった。


「あ、あの、つ、次は前も洗いますね」


 そう言って彼女は俺の前に回り込もうとしてくる。


「いや、ちょっと待って! 前はいいから!」


 彼女がこんなに積極的な人だったとは。

遠慮なく洗ってもらおうか?

いや、ちらりと見えた彼女の顔は真っ赤だった。

たぶん無理をしているんだ。

ここは我慢だ。


 それに彼女のアレが少し見えてしまった。

そのため俺のアレがああなってしまっている。

彼女に俺の前を見せてはダメだ。


「前はまた今度でいいよ。ほら、ミティも自分の体をさっさと洗ってしまおう」


「そ、そうですか? 分かりました」


 ミティはほっとしたような残念そうな何とも言えない様子だったが、一応は納得したようだ。

危機は無事回避した。

正直もったいない気持ちもあるが、こういうのは段階を踏まないとな。


 その後も念入りに体を洗い続けた。

洗い終えて川から出る。

ファイアーボールを弱めに発動させ、球形のまま維持する。

俺とミティの体や装備を乾かし、服を着る。


 ディッダ達にも使ってやろう。

彼らに近づいていく。

ファイアーボールでディッダ達を乾かす。

これで十分に清潔になっただろう。

ラーグの街へ向かう。



 再び冒険者ギルドへやってきた。

ここまでの周囲の反応や受付嬢の顔を見る限り、においはとれたと思ってよさそうだ。


「では、改めて討伐報酬と素材の買い取りをお願いします」


 俺はそう言ってスメリーモンキーをアイテムルームから出す。

今度は彼女は叫ばなかった。

俺が自分達で食べる用に、数キロはとっておいてもらう。

その分は俺の報酬から差し引かれることになる。


 スメリーモンキーの報酬はそれほど高くなかった。

珍味ではあるけど一般的に人気のある食材ではないらしい。

しかしゴブリン等はしっかり狩っていたので、報酬全体としてはなかなかの高額になった。


 スメリーモンキーは西の森で討伐したということを伝えると、受付嬢は神妙な顔をしていた。

ディッダ達も言っていたが、スメリーモンキーは本来西の森には生息していないらしい。

先日のホワイトタイガーの例もある。

森の生態系に異変が生じているようだ。

まあ難しいことはギルドマスターとか偉い人に任せておこう。


 ディッダ達との狩り勝負はかろうじて俺とミティの勝ちとなった。

結構ぎりぎりだった。

やはり人は見た目では判断できない。

外見はただのチンピラなのに、なかなかの腕をしている。

しっかりと金貨10枚をディッダ達から頂いておいた。

彼らに別れを告げる。


 モニカの食堂で夕食を取る。

彼女にスメリーモンキーの調理について相談しておく。

珍味というだけあって、素人には少し調理が難しいらしい。

それならばとモニカに調理を頼んでみたら、快諾してくれた。

ただしスメリーモンキーは独特のにおいがするため、調理する日はラビット亭を貸切にする必要がある。

日程が定まり次第彼女に連絡することになった。


 スメリーモンキーという珍しい食材が手に入ったのはうれしい。

リーゼロッテの都合をきいて、近いうちに食事会を開こう。

楽しみだ!



レベル7、ミティ

種族:ドワーフ

職業:槌士

ランク:E

HP:60(46+14)

MP:33(25+8)

腕力:115(41+12+62)

脚力:25(19+6)

体力:39(30+9)

器用:9(7+2)

魔力:31(24+7)


武器:ストーンハンマー

防具:レザーアーマー


残りスキルポイント0

スキル:

槌術レベル3

投擲術レベル1

腕力強化レベル3

MP回復速度強化レベル1


称号:

タカシの加護を受けし者

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