19話 ミティの過去
宿に到着した。
俺が遠征まえに利用していた宿だ。
中に入り店員のおばちゃんに話しかける。
「こんにちは。ここの食堂は奴隷と同席できますか?」
「それは無理だよ。泊まりだけなら大丈夫だけどね」
やはり食事の同席は無理なのか。
屋台で食べ物を買っておいて正解だ。
泊まりだけならOKというのは助かった。
実は「奴隷を泊めるような部屋はない。馬小屋なら貸してやる」とか言われたらどうしようかと心配していたんだ。
「分かりました。では泊まりだけで。2人部屋は1泊いくらでしょうか?」
「銀貨3枚だよ。泊まってくかい?」
「はい、2泊分お願いします」
この宿に長期連泊するつもりはない。
奴隷と同席できる食堂付の宿が見つかれば、そちらに移りたい。
それに、ミティのレベリングをある程度済ませたら、期間限定ミッションのために東に向かうつもりだしな。
銀貨6枚をおばちゃんに渡す。
「カルラ! お客さんを部屋まで案内しておくれ!」
「はーい!」
奥から若い女性店員が出てきた。
何度か顔を見たことがある。
たぶんおばちゃんの娘だと思う。
2階に向かって階段を上っていると、彼女が話しかけてきた。
「ここ数日いなかったね。どうしたの?」
「ちょっと西の森へ遠征に行っていまして」
「へー。あんまり無理しないようにね。なんか頼りないし」
「あはは……」
この娘はけっこうずけずけと物を言うタイプだな。
2階の部屋に到着した。
彼女は1階に戻っていった。
部屋に入ると、1人部屋よりも大きな部屋だった。
まあ当たり前だが。
ベッドも2つある。
テーブルとイスもあったので、腰かける。
ミティは立ったままだ。
俺が彼女に座るように言うと、床に座った。
慌てて立ち上がらせ、今度はちゃんとイスに座らせる。
ミティは何やら緊張しているような動揺しているような顔をしている。
まあいっしょに食事をすれば落ち着いてくるだろう。
アイテムボックスにしまっておいた食べ物を取り出し、テーブルに並べる。
「さあ食べよう。ミティ、遠慮せずにたくさん食べるといいよ」
俺は食べ始める。
ミティは食べ始めない。
オロオロして、こちらの表情をうかがっているようだ。
俺はミティを安心させるように微笑み、「うんうん食べな食べな」とうなづいてやる。
ようやく彼女も食べ始めた。
最初は遠慮してか少しずつしか食べなかった。
それも安そうなものばかりで、好きだと言っていた肉料理には手をつけない。
俺はひたすら微笑みながら「うんうん食べな食べな」とうなづいてやる。
次第に食べるペースが上がり、肉料理にも手を出すようになってきた。
俺もどんどん食べる。
彼女を見ると少し涙ぐんでいるようだ。
しばらく食事を続けた。
俺はもうおなかいっぱいだ。
彼女はまだ食べて続けている。
このペースだと、少し足りなそうだ。
しかしいきなり食べ過ぎるのも体に悪いだろう。
今日はテーブルに今ある分だけにしておこう。
食事を終え、一息つく。
ミティも少しは俺に慣れてきただろう。
少し彼女と雑談をする。
最初は他愛もない話をしていた。
しかし俺と彼女の共通の話題などあまりない。
いつのまにか彼女の昔の話をしていた。
彼女は生まれつき不器用だった。
ドワーフは、5歳になると誰でも鍛冶の練習を始める。
その結果鍛冶の才能があると判断されれば、ドワーフにとって憧れの職である鍛冶職に就くことになる。
鍛冶の才能がイマイチと判断されても、鍛冶のサポートをする職や手先の器用さを活かせる職に普通は就く。
彼女の不器用さは、鍛冶の才能以前のレベルだったそうだ。
いくら練習しても、ハンマーで自分の手を叩いてしまう。
当然、金属の形を整えたりすることなどできるはずもない。
ミティは鍛冶ができないほど不器用。
そんな噂が周囲に広まってしまった。
不器用なドワーフに対する周囲からの偏見。
彼女は、周囲に役立たず扱いをされながら育った。
そんな中、両親だけは普通に接してくれていた。
しかし、なぜか次第に家計が苦しくなっていく。
そして両親は断腸の思いでミティを奴隷商人に売った。
奴隷商人に売られた後も、なかなか買い手がつかない。
不器用なドワーフは役立たず。
そういう認識が彼女の生まれた地域では一般的だった。
たまに買い手がつきそうになっても、不器用という一言で皆が興味を失い去っていく。
そんな日々が続く。
とうとうしびれを切らす奴隷商人。
思い切ってドワーフ人口の少ない別の地域の奴隷商人に売ることにしたようだ。
それがラーグ奴隷商会の商人だった。
ラーグへ向かう道の途中で俺と出会う。
その後ラーグに到着して数日が過ぎ、奴隷商会にやって来た俺と再会したということだ。
重い話だ。
奴隷という立場を強く意識し遠慮する、ミティの態度。
それはおそらく育ちが原因だろう。
周囲に役立たず扱いされて育ったから、自分の存在価値に自信が持てなくなっているんだ。
俺にできることは何だろう。
分からない。
分からないが、俺はもう一度彼女の微笑みを見たい。
いや違うな。
俺は何度でも彼女の満面の笑みを見たい。
俺の素直な気持ちを彼女に伝えることにする。
「ミティ、今まで大変だったんだね。でももう心配しなくてもいいんだよ。俺は絶対に君を役立たず扱いなんてしない。俺は君のことが必要で買ったんだ」
俺が彼女を買った理由は、加護への期待と戦力強化だ。
しかし、たとえ加護が付かなくて戦闘に期待できなくなったとしても、俺は絶対に彼女を捨てたりはしない。
そう心に誓う。
「あ、ありがとうございます、タカシ様。私にできることなら何でもします。どうか奴隷として末永くお使い下さい」
「こちらこそ末永くよろしくな、ミティ」
しかしまだまだ硬さが残っているな。
もっとこう、友人とか恋人のような感じでいいんだが……。
そうだ、恋人だ。
「俺とミティの関係は、確かに主人と奴隷というものだ。しかし、俺はミティのことを恋人のように扱いたいと思っている。最初に会ったときに微笑んでくれただろう? あれで一目ぼれしたんだ」
彼女の現在の忠義度は39。
購入時からぐんぐん上昇している。
大丈夫だ。
まさか「奴隷だから仕方なく話してあげてるだけ。お前ごときが私の恋人? ふざけんな」とかは言われないはずだ。
大丈夫だ。
大丈夫だよな?
「わわ、私がタカシ様のここ恋人ですか!? そんな、恐れ多いです。奴隷として近くに置いて頂けるだけでも私は十分満足です」
「恐れ多くなんてないよ。俺なんて大した人間じゃない。俺は本来ミティに釣り合うような人間じゃないんだ。でもどうしてもミティが欲しくて、借金してまでミティを手に入れた。どうかそんなことを言わず、恋人のように接して欲しい。そして、あの時の微笑みを見せておくれ」
本来、異性を口説くときに自分を下げるようなことを言うべきじゃない。
しかし今回は別だ。
ミティに自身の価値を認めさせる必要がある。
そのために、まず俺という人間の価値を下げる。
そうすれば、間接的にミティの価値を上げることになる……ような気がする。
それに俺が大した人間じゃないのは本当のことだしな。
ステータス管理というチートスキルがなければ、ファイティングドッグやゴブリン1匹にすら軽くやられそうなザコだ。
「……はい……。あ……ありがとう……ございます……。わ……私は、昔から、何にもできなくて……。ずっと……ずっと役立たずって……言われてきて……。でも、初めてタカシ様にお会いした時……、かっこよくて、優しそうな人だなって……。こんな人にお仕えできたら……そう、思って……。」
ミティの目からは大粒の涙がこぼれている。
俺は彼女の話に「うんうん」とうなづいている。
しかし俺がかっこいい?
自分ではそう思ったことはないが、ミティに言われると素直にうれしい。
「……タカシ様に買って頂いて、可愛いって言ってくれて……、服とかご飯とか…………本当に、うれしくて……。それだけで幸せなのに、恋人って……。本当に私は、タカシ様のおそばに……いてもいいんだって…………」
「うんうん。ミティはずっと俺のそばにいていいんだよ。でも1つ忘れてないかい? ほら、笑って。うれしいときは笑うんだよ」
俺が彼女の目を見てそう言うと、彼女も見つめ返してきた。
しばらく見つめあう。
そして、彼女はニコッと微笑んでくれた。
レベル10、たかし
種族:ヒューマン
職業:剣士
ランク:D
HP:79(61+18)
MP:100(40+60)
腕力:36(28+8)
脚力:35(27+8)
体力:81(35+11+35)
器用:42(32+10)
魔力:36
武器:ショートソード
防具:レザーアーマー(ボロボロ)、スモールシールド
残りスキルポイント5
スキル:
ステータス操作
スキルリセット
加護付与
異世界言語
剣術レベル3
回避術レベル1
気配察知レベル2
MP強化レベル3
体力強化レベル2
肉体強化レベル3
火魔法レベル4 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム」
水魔法レベル1 「ウォーターボール」
空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」
MP消費量減少レベル2
MP回復速度強化レベル1
称号:
犬狩り
ホワイトタイガー討伐者
レベル2、ミティ
種族:ドワーフ
HP:34(26+8)
MP:16(12+4)
腕力:29(22+7)
脚力:10(8+2)
体力:21(16+5)
器用:3(2+1)
魔力:14(11+3)
残りスキルポイント10
スキル:
MP回復速度強化レベル1
称号:
タカシの加護を受けし者
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます