18話 主従契約
しばらく待つ。
店員の男が、ローブを着た老人を連れて部屋に戻ってきた。
ミティもいっしょだ。
俺の気のせいかもしれないが、どことなくうれしそうに見える。
ミティ可愛いよミティ。
店員を見ると、紙と首輪を持っている。
「まずはこの書類の記載事項を確認して頂きます。これ1枚で以下4点の証明書となっております」
そう言って店員が紙を1枚渡してくる。
重厚感のある特殊な紙だ。
内容に目を通す。
1つ、ラーグ街の冒険者タカシは金貨80枚をラーグ奴隷商会へ支払う。
2つ、ラーグ奴隷商会はドワーフの奴隷ミティをラーグ街の冒険者タカシへと引き渡し主従契約を結ばせる。
3つ、ラーグ街の冒険者タカシはラーグ奴隷商会に対し金貨320枚の借金を負う。
4つ、上記借金の利息は1ヵ月3%とし期限は3年以内とする。
ん?
期限内に完済できなかった場合についての記載がないな。
店員に聞いてみる。
すると彼はこう答えた。
「そういった場合の処理については、サザリアナ王国法に記載があるためそちらの書類には記載されておりません。他にご質問はございますか?」
なるほどね。
他には特に気になる点はない。
問題なさそうだ。
書類にサインする。
店員が紙を1枚渡してきた。
「こちらが契約書の控えになっております」
こういう格式のある紙を受け取ると、借金の実感が湧いてくる。
少し不安な気持ちもあるが、今さら後には引けない。
ローブの老人がミティと共に近づいてきて言う。
「では今から主従契約を結ぶ。この首輪に血を垂らすのだ」
小さい針を渡された。
これで自分の指を刺して血を出せということか。
自分で自分の指を刺すのは少し怖いな。
今回の遠征では、クレイジーラビットで死にかけたり災害指定生物に立ち向かったりもした。
でもこれはこれでまた少し違った怖さがある。
しかしいつまでもウジウジしていても仕方がない。
思い切って指先を刺して血を出す。
その血を首輪に垂らす。
首輪が軽く発光した。
その発光した首輪がミティにつけられる。
ミティ可愛いよミティ。
しばらくして、首輪の発光は治まった。
「主従契約は無事成功した」
そう言ってローブの老人はさっさと出ていってしまった。
店員が話しかけてくる。
紙を1枚渡してきた。
「タカシ様、こちらが奴隷の扱いに関する注意事項となっております。念のためご一読下さい」
読んでみる。
俺にとってさほど重要なことは書いていない。
奴隷をむやみに虐待してはならないとか、当たり前だろう。
こんなに可愛いミティをいじめるわけがない。
ちなみにこの虐待禁止ルールは建前ではないらしい。
あまりにもひどいと、逮捕されることもあると書いてある。
首輪がある限り奴隷は主人を攻撃できないし逃亡もできない。
正確に言えば、攻撃はできるけどすさまじい頭痛がする、逃亡はできるけど首輪に探知機能がありいずれ発見される、ということだ。
「では、これにて本日のご取引は完了致しました。またのお越しをお待ちしております」
可愛いミティと共に奴隷商館を出る。
まずはどうしようか……。
服屋に行くか。
今の彼女は貫頭衣1枚しか着ていない。
もっと良い服を着せてあげたい。
「ミティさん、まずは服屋に行きましょうか」
「はい、ご主人様。……あの、私は奴隷ですので、私に対して丁寧な口調は不要ですが」
おっと。
彼女が可愛すぎるので、つい緊張して丁寧な口調で話してしまった。
主人と奴隷という関係だし、対外的にも丁寧語はやめておこう。
「ああごめんごめん。ミティが可愛いからつい丁寧な口調にしてしまったよ」
あっ。
つい本音が漏れてしまった。
ミティの反応はどうだ?
「私が可愛い、ですか。お戯れはおやめ下さい、ご主人様」
ミティの顔がほんのりと赤くなっている。
それにしても、ご主人様。
良い響きだ。
しかし個人的には名前で呼んでもらいたい。
「俺の名前はタカシっていうんだ。タカシと呼んでほしい。呼びにくかったらタカシさんとかでもいいけど」
「タカシさん、ですか……。タカシ様でもよろしいですか?」
「うーん。まあそれでいいよ。あ、服屋についたよ」
服屋とはいっても、それほど高級店ではない。
むしろ安っぽいといってもいい古着屋だ。
多額の借金があるから、できるだけ出費は減らさないと。
可愛いミティには釣り合っていないが、ここは我慢をしてもらう。
ちなみに俺も以前ここに来たことがある。
最初にミッション報酬でもらった服だけではやっていけないからな。
勝手は分かっているので、店内を物色する。
数着の服を選んだ。
一応本人にも確認しておこう。
「ミティ、この服でいいか?」
できるだけミティに似合いそうな可愛い服を選んだつもりだ。
「えっ。それが私の服ですか?」
ミティが驚いたような顔をしている。
マズイ。
失敗したか?
好みの服じゃなかったか?
まさか「ふふん。こんなセンスの欠片もない服を選ぶなんてね。私が自分で選ぶからタカシは黙って見てなさい」みたいな?
俺が内心メチャクチャ焦っていると、ミティが続けてこう言った。
「私は奴隷ですので、そのような高級服は必要ありませんが……」
ほっ。
気に入らないわけではないようだ。
しかし、これが高級服だと?
そんなことはないはずだ。
その辺を歩いている人を見ても、これと同程度のランクの服を着ている。
いや待て。
俺は外で奴隷を見たことがない。
あったとしてもあまり意識して見ていなかったので覚えていない。
奴隷の服の基準はどれくらいなんだろうか。
ヘタに良い服を着せていると、悪目立ちするかもしれない。
まあそこまで大きく心配するほどのことでもないだろう。
防具や服次第では、首輪も隠せそうだし。
この店よりもランクを落とすとなれば、ボロ布同然の服とか今と同じような貫頭衣1枚とかになってしまう。
可愛いミティにそんな服は着せられない。
「いや、いいんだ。これはミティのための服だ。それでどうだ? この服でいいか?」
「は、はい。ありがとうございます」
ミティは少し動揺しているようだ。
ミティの同意が得られたので、選んだ服を購入した。
少し腹が減ってきたな。
もうそろそろ夕飯の時間だ。
普段ならば宿の食堂で食べるところだ。
しかし今日はミティがいる。
奴隷は床で食べる風習とかがあったら嫌だ。
宿の自室で食べることにしよう。
服屋を出て、食べ物を売っている屋台を探す。
よく見ると、ミティの栄養状態は少し悪いようだ。
やつれているというほどではないが、腕や足が細い。
ドワーフである彼女は力が強いのが長所だ。
明日からは魔物狩りに同行してもらう。
たくさん働いてもらうためにも、おなかいっぱい食べてもらわないと。
「ミティの好きな食べ物って何かな?」
好きな食べ物をたくさん買ってやろう。
「えっ。ええと……タカシ様がご用意してくださるものであれば、なんでもよろこんで食べさせて頂きます」
一瞬言いよどんだな。
なんでだろう。
たぶん奴隷だから遠慮してるとかだろうな。
さっきからの会話で、「自分は奴隷だから」ということを強く意識しているように感じた。
俺としては、もっと自然体でも構わないのだが。
「そうか。しかし明日からミティにはたくさん働いてもらうつもりなんだ。そのためにも、好きなものをたくさん食べて明日に備えて欲しいと思っている。ミティの好きな食べ物を教えてくれないか?」
「わ、私は、お肉を使った料理が好きです」
おそるおそるといった感じでミティはそう答えた。
肉料理か。
やはり力自慢のドワーフだけあって、パワーの出そうなものが好きなのかな。
無事好きなものを聞き出した。
肉料理を中心に屋台で食べ物を購入し、宿に向かう。
レベル10、たかし
種族:ヒューマン
職業:剣士
ランク:D
HP:79(61+18)
MP:100(40+60)
腕力:36(28+8)
脚力:35(27+8)
体力:81(35+11+35)
器用:42(32+10)
魔力:36
武器:ショートソード
防具:レザーアーマー(ボロボロ)、スモールシールド
残りスキルポイント5
スキル:
ステータス操作
スキルリセット
加護付与
異世界言語
剣術レベル3
回避術レベル1
気配察知レベル2
MP強化レベル3
体力強化レベル2
肉体強化レベル3
火魔法レベル4 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム」
水魔法レベル1 「ウォーターボール」
空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」
MP消費量減少レベル2
MP回復速度強化レベル1
称号:
犬狩り
ホワイトタイガー討伐者
レベル?、ミティ
種族:ドワーフ
HP:???
MP:???
腕力:高め
脚力:???
体力:???
器用:低め
魔力:???
スキル:???
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