17話 報酬と借金

 特に何事もなく翌朝を迎え、ラーグの街に戻ってきた。

まずはみんなで冒険者ギルドへ報告に向かう。


 受付嬢にホワイトタイガーの出現と討伐を報告した。

すぐにギルド長が出てきて、コーバッツやドレッドらと真剣な顔で何やら話し合っている。

難しい話は彼らに任せておこう。

俺は報酬が気になる。


 まず、ゴブリンやクレイジーラビットの報酬。

これが“赤き大牙”全体で金貨100枚になった。

これを4人で割るので、1人金貨25枚。

5日間の成果なので、1日あたり金貨5枚。

かなりの高収入だ。


 ユナによると、“赤き大牙”としては今までで最高の結果らしい。

ファイアートルネードでのゴブリン狩りの効率。

さらには俺のアイテムルームの収納量。

この2つが組み合わさった結果だとのこと。

ちなみにアイテムルームの分の金貨5枚も別枠でしっかりと頂いている。


 次に、リトルベア2頭の報酬。

これは自分達で倒したわけではないので、買い取り報酬だけだ。

1頭目は金貨40枚、一部が損壊している2頭目は金貨20枚になった。

3パーティ合同で行動しているときに発見したものなので、全員で山分けすることになる。

ポーターを除いて、12人。

つまり1人あたり金貨5枚だ。

ポーターの取り分は黒色の旋風内で話し合って決めるようだ。


 最後に、ホワイトタイガーの報酬。

討伐報酬が金貨170枚。

災害指定生物第3種の魔物なので、討伐するだけでこの報酬だ。

加えて、買い取り報酬が金貨250枚。

討伐報酬と買い取り報酬を合わせると、金貨420枚。

12人で分けるので、1人あたり35枚だ。


 これらを全て合わせると、金貨70枚。

たった5日間で、金貨70枚だ。

日収金貨14枚。

つまり日収14万円。

これはやばい。


 今回の遠征の功績で俺はDランクに昇格した。

ホワイトタイガー討伐への貢献・容量の多いアイテムルーム・強力な火魔法。

この辺りを評価してのDランク昇格らしい。

本来はCランクに昇格してもおかしくないぐらいだが、まだ冒険者登録をして日が浅く経験が不足しているため、Dランク昇格までに留めたとのことだ。

他にもドレッドら数人がランクアップしたようである。


 あっ。

そういえばリーゼロッテにHPポーションのお返しをしないと。

直接金貨で支払うのも少し下品か?

しかし同じくらいの効能のポーションを買おうにも、どの種類か分からない。

直接聞いてみよう。


「リーゼロッテさん。私に使って頂いたHPポーションはどのくらいの効能のものだったのでしょうか? ぜひお返しをしたいのですが」


「いえ、よろしいんでしてよ。あれはわたくしが勝手に使っただけですから」


 リーゼロッテは少し困った顔をしている。


「そういうわけにもいきません。聞けば、安いものでも金貨数枚はするらしいではないですか。私の気が収まりません」


「えーと……。困りましたわね……」


 彼女は本当に困ったという顔をしている。

なんだかこっちが悪いことをしている気分になってきたぞ。

するとそこに、コーバッツがやって来た。


「ふふふ。リーゼロッテのお人よしは並大抵じゃないぞ。普通にお返しをしようとしても断られるだけだ」


 金貨数枚するものを人に使って、お礼もいらないとか。

お人よしにもほどがあるだろう。

やはりCランク冒険者ともなれば、普段から儲かっているのか。

それとも良いところのお嬢さんなのかもしれないな。

なんか上品な感じのする人だし。

いずれにせよ、このまま引き下がるわけにもいかない。


「ではどうすれば良いのでしょうか?」


「彼女は実は食いしん坊でね。変わった料理が好きなんだ。タカシ君が今後珍しい食材を手に入れたら、彼女にごちそうしてあげる。タカシ君、リーゼロッテ、それでどうだい?」


「リーゼロッテさんがそれでよろしいのであれば、私はそれで構いませんが……」


 彼女が食いしん坊キャラだったとはな。

確かに胸のあたりはいろいろ詰まっているが。

背も高めだし。

やはり栄養状態が良いとこうなるのか。


「まあ……。どうしてもとおっしゃるのであれば、それでよろしいですわ」


 言ってることは「仕方ないからそれでいい」といった内容だ。

しかし表情を見る限りはうれしそうだ。

少しにやけている。


 まあ彼女が満足そうなら別にいいか。

余裕ができたら料理スキルを取得するのもありだな。

珍しい食事を手に入れてきて、それを料理スキルを使って調理する。

上手くいけば彼女の忠義度が上がるだろう。


 ユナやリーゼロッテ、それに他のみんなとも握手をして別れる。

たった5日間の付き合いだったけれど、収穫も大きかった。

レベルが6から10になった。


 それに報酬だ。

今回の報酬である金貨70枚。

もともと持っていた金貨20枚。

合わせて金貨90枚。

これでミティの前金を支払うことができる。

早速奴隷商館に向かおう。


 奴隷商館にやってきた。

いかつい顔の門番がいる。

顔の割に丁寧な口調の人だ。


「いらっしゃいませタカシ様。武器はこちらでお預かり致します」


 ん?

この人に俺の名前は伝えていないはずだが。

まあいい。

大人しく武器を渡して預かってもらう。


 店内に入ると、若い店員に応接室っぽいところに案内される。

始めて来たときと同じ対応だ。

ソファに座る。

お茶が出される。


 始めて来たときは、この丁重なもてなしに焦ったんだよな。

少し懐かしい。

今は金貨90枚とひと財産持っているので、精神的に余裕がある。


 しばらくして、50歳くらいの店員が部屋に入ってきた。

俺の向かいのソファに腰掛けて、話しかけてくる。


「お待たせしましたタカシ様。ラーグ奴隷商会へようこそ。本日はどのようなご用でしょうか?」


「ミティというドワーフの娘はまだいますか? 彼女の前金を払っておきたいのですが」


 これでもう売れたとか言われたらショックだ。

1ヵ月ぐらい寝込むかもしれん。


 店員の口が開いていく。

大きめに開いていきそうだ。

これはア段を発声する口の形だ。

つまり「はい、まだいますよ」と答えるということだ。

なぜなら、「いいえ、もう売れてしまいました」だったらイ段を発声する口の形になるからだ。

このように大きめに口は開けない。


 いや待てよ?

よく考えれば「残念ですがもう売れてしまいました」の可能性もある。

この時も最初はア段を発声する口の形になる。


 そんなことを1秒にも満たないわずかな時間で思考する。

しかし思考したところでどうなるわけでもない。

無情にも判決の時間がやってくる。


「ええ、まだいますよ。彼女の前金をお支払いして頂けるのですか。それは私どもにとって大変ありがたいことです」


 ふー。

良かった。

しかし別にア段でもイ段でもなかったな。


「では早速お願いします。ここに金貨80枚があります」


 そう言って俺は金貨80枚を渡す。


「はい、確かに80枚ありますね。確認致しました。……ところでタカシ様にご相談があるのですが」


「なんでしょう?」


「金貨320枚をお貸し致しますので、前金とは言わず彼女を購入されませんか?」


「それは……どういうことでしょう? 私のような者にそれほどの金貨を貸し付ける信用や価値があるとは思えませんが」


 いきなりミティが手に入る。

その誘惑に乗りそうになるが、必死でこらえる。

甘い話には裏がある。

とんでもない利子を取られたりとか、借金の形に俺自身が奴隷に落とされるとか。


「いえ、タカシ様にはそれだけの価値があると私どもは確信しております。聞けば、冒険者ギルドに登録してわずか10日ほどで“犬狩り”との通り名を持つようになったとか。将来有望な冒険者であるとの噂ですぞ。加えて、この短期間で金貨80枚を集めるその能力。大金をお貸しするのに十分な理由です」


 うーん……。

俺の犬狩りはそんなに有名だったのか?

確かに赤き大牙が俺を勧誘したきっかけもそれだったが。

一応話を進めてみるか。


「利息はどうなるのでしょう? 期限は?」


「利息は1ヵ月あたり3%で、期限は3年以内とさせて頂きます」


 1ヵ月あたり3%?

かなりの高利率だ。

1ヵ月あたり金貨10枚は稼がないと、借金がふくらむ一方になってしまう。

いや、そんなにびびる必要もないか。

今回の遠征では、ゴブリンやクレイジーラビットの分だけでも、1日あたり金貨5枚を稼いだ。

その前には、ファイティングドッグを狩ってるだけで1日金貨2枚を稼いでいたこともある。

よほど大きなケガでもしない限りはだいじょうぶだ。

しかし万が一ということもあるし、質問しておこう。


「もし期限内に完済できなければどうなりますか?」


「資産を売却して返済にあてて頂きます。それでも足りなければご本人様の奴隷落ちで対処します」


 奴隷落ちか……。

重い話だ。

自分が奴隷に落ちるとか考えたくないな。

たぶん完済できると思うが、それでも不安はぬぐいきれない。

俺の不安が顔に出ていたのか、彼は優しそうな顔をしてこう言った。


「そう心配なさらないよう。私どもは、タカシ様ならば絶対に完済してくださると確信しております。それに、ミティも冒険者として狩りに同行させられるのでしょう? 彼女の稼ぎは主人であるタカシ様のものとなります。彼女は働き者で力も強い。これまでよりも一層収入は増えるでしょう。だいじょうぶですよ」


 そうか。

そう言われればそうだな。

ミティも戦力となるのだ。

実際に動きを見ないと判断できないが、2人だけで森への遠征も可能になるかもしれない。

そしてその儲けは全て俺とミティのもの。

1日あたり金貨10枚、いや15枚も夢ではない。


 加護がつけばさらに夢は広がる。

加護がどの程度強力なスキルかは分からないが、ステータス管理や異世界言語と並ぶようなスキルだ。

相当期待していいだろう。

ここは思い切って借金で購入しよう。


「そうですね……。では借金をして、そのお金でミティを購入しようと思います」


「おお! よく決心なさいましたな。彼女は本当に良い子ですぞ。では早速用意して参りますので、少々お待ち下さい」


 そう言って店員の男は部屋から出ていった。



レベル10、たかし

種族:ヒューマン

職業:剣士

ランク:D

HP:79(61+18)

MP:100(40+60)

腕力:36(28+8)

脚力:35(27+8)

体力:81(35+11+35)

器用:42(32+10)

魔力:36


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー(ボロボロ)、スモールシールド


残りスキルポイント5

スキル:

ステータス操作

スキルリセット

加護付与

異世界言語

剣術レベル3

回避術レベル1

気配察知レベル2

MP強化レベル3

体力強化レベル2

肉体強化レベル3

火魔法レベル4 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム」

水魔法レベル1 「ウォーターボール」

空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」

MP消費量減少レベル2

MP回復速度強化レベル1


称号:

犬狩り

ホワイトタイガー討伐者

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