14話 遠征4日目:森の異変

遠征も4日目を迎えた。


今日の野営地の番は蒼穹の担い手が行うようだ。

昨日の礼をあらためて伝えておく。

特にリーゼロッテには念入りに礼を言った。


朝食後はさっそく狩りだ。


いきなりクレイジーラビットと遭遇した。

今度はうっかり攻撃するなんてマヌケなことはしない。

ジークが最初に攻撃し、クレイジーラビットの攻撃を引きつける。

その間に他の3人で殲滅していく。


改めて外から見ても恐ろしい攻撃だった。

生き残れたのが奇跡とすら思える。


次にゴブリンの群れと遭遇した。

木の多い場所だったので、普通に剣で討伐した。


たぶんソロでも数匹ぐらいなら余裕だろう。

5匹ぐらいならなんとか。

10匹を超えてくると絶対にムリだ。

ソロで森に潜るのは当分先になりそうだな。


そんな感じでしばらく森を散策していると、木に大きな引っかき傷を見つけた。

ドレッドが真剣な顔をしている。


「これは……リトルベアがつけた傷に違いねェ。ここらは奴の縄張りのようだ」


「…………危険だ」


「ああ、目を付けられねェうちに離れよう」


来た道を戻る。

疑問に思ったことを聞いてみる。


「リトルベアってどんな魔物なんでしょう? そんなに強いんですか?」


「ああ、強い。リトルなんて名前をしてるが、ゴブリンに比べたらはるかにでかい。そのでかい図体からの一撃は半端じゃねェ。それに腕が長いから避けにくい」


「幸い鼻と耳は良くないから、視認されない限りは大丈夫ね。もし縄張りに入っているところを見られたら、戦うしかないわ。足も速いから逃げてもムダなの」


「あいつの素材は高く売れるから、いつかは狩りたいと思ってるんだが……。今はその時じゃねェ。リスクが高すぎる」


「…………左様」


なるほどね。

確かにリトルベア討伐はやめておいた方が良さそうだな。


いや、俺にとっては案外狙い目かもしれんぞ?

ゴブリンやクレイジーラビットは群れで行動するから狩りにくい。

しかし相手がクマならば1対1で戦える。

スキルでゴリ押ししたら勝てそうだ。


いやいや、やはりムリだ。

最近は魔法関係のスキルばっかり取ってるからな。

魔法は前衛に守ってもらいながらじゃないと活かし切れない。


剣術や回避術をもっと強化して、腕力強化あたりを取得すればいけるかもしれないが。

当面は諦めるのが得策だろう。


その後、ゴブリンの群れに遭遇した。

俺のファイアートルネードの出番だ。

狩りは極めて順調に進んでいる。


そんな時に、不可解な光景を目にした。

大量のクレイジーラビットの死体だ。


「何よ、これ。こんなの初めて見たわ」


ユナが動揺したような声で言う。


「ゴブリンの群れと戦ったのでは?」


「…………違う」


ジークが俺の説を否定する。

十分ありうる話のはずだが。

魔物同士で争うこともあるのだから。


「見てみろ、ここにはクレイジーラビットの死体しかねェ。もしゴブリンだったらゴブリンの死体もあるはずだ」


「ではリトルベアならどうでしょう?」


リトルベアは強いっていう話だし、クレイジーラビットを蹴散らしてもおかしくはないはずだ。


「いや、それもないな。リトルベアは歯や爪での攻撃も行うが、基本的にはパンチで叩き潰すような攻撃をする。このクレイジーラビットの死に方は妙だ」


確かに。

このクレイジーラビット達は打撃でやられたわけではなさそうだ。

噛みちぎったような、切り裂いたような、引きちぎったような。

そんな傷あとがある。


「ちょっと! あの木を見て!」


ユナが1本の木を指さして言う。

見ると、大きな傷のついた木があった。

近づいてよく見てみる。


「こんな傷は……見たことがねェ」


ドレッドが緊張した声で言う。

さきほどのリトルベアがつけた傷とはまったくの別物だ。


「何かしらこれ。引っかいたあとではないわよね。噛んだあとかしら?」


「だとすると……危険だ。見ろ、かなり深くまでえぐれてやがる。生半可な力じゃねェ」


生物がつけたとは思えないような傷だ。

俺がもし噛まれたら確実に致命傷。

こんな傷をつけられる魔物とは戦いたくない。


「…………急いで戻ろう」


「ああ、まずは野営地に戻るぞ。蒼穹の担い手と合流して、今後の方針を考えなければならねェ。黒色の旋風とも上手く合流できれば良いんだが……」


「今後の方針とは何でしょう? もともと明日で遠征も終わりますし、撤退で良いのでは?」


「ことはそう簡単じゃないわ。この西の森は、比較的レベルの低い狩場よ。クレイジーラビットの群れを相手にして生き残れる。そんな魔物、本来リトルベアだけのはずなのよ」


「南の山脈の向こう……いわゆる“魔の領域”から魔物が流れ込んできたのかもしれねェ。放置すればどんな影響があるか分からん。3パーティ合同で魔物の種類だけでも調査する。場合によっては討伐も検討するべきだ」


討伐する可能性もあるのか……。

こんな傷をつけられる魔物を?

俺は昨日死にかけたばかりだぞ?

まあ自分のミスだけど。

正直逃げ出したい。


ちなみに大量のクレイジーラビットの死体はアイテムルームに収納しておいた。

討伐報酬はもらえないが買い取り報酬はもらえるのだ。


野営地に戻り蒼穹の担い手と合流する。

黒色の旋風の帰還を待ちつつ、とりあえず情報共有だ。


しばらくして、黒色の旋風が戻ってきた。

何やら慌ただしい。


「大変だ! ホワイトタイガーがいた!」


ホワイトタイガーは災害指定生物第3種に該当する危険な魔物らしい。

この森では最強とされているリトルベア。

それを上回る戦闘能力がある。

街や都の近くにはまずいない。

いたとしても、上級冒険者や騎士団に直ちに討伐される。

この森からラーグの街まではそれほど遠くない。

緊急事態だ。


「俺達の手には負えない。リスクが高すぎる。一時撤退し増援を呼ぶべきだ。正体は割れたから調査も必要ない」


蒼穹の担い手のリーダーが言う。

彼の名前は確かコーバッツだ。


撤退が決まりかける。

それをドレッドがとめる。


「いや待て……。大量のクレイジーラビットの死体を俺たちは見た。状況から考えて、クレイジーラビットと1戦を交えたことは間違いない。いくらホワイトタイガーでも、多少は弱っているはずだ」


確かにドレッドの意見も一理ある。

あの猛攻を受けては、強い魔物でもただではすまないはずだ。

しかしそれにコーバッツが毅然と反論する。


「多少弱る程度ではまだ危険だ。災害指定生物をなめてはいけない。ここは撤退すべきだと俺は考える」


Cランク冒険者であるコーバッツの意見は重い。

さすがにドレッドもそれ以上意見することはなかった。


「撤退はいつ始めるの? もう昼を過ぎたわ。今からだと、夜までに街に着くか怪しいわよ?」


ユナが言う。

夜の行軍は危険だ。

明日の朝まで待つべきかもしれない。


「いや、今すぐに撤退を開始しよう。確かに夜の行軍は危険だが、ホワイトタイガーがいる森での野営よりはマシだ。それに、少しでも早くこのことをギルドへ報告したい」


特に反論もなかったので、今から撤退することに決まった。

果たして無事街にたどり着けるのかどうか。

もう一昨日みたいに死にかけるのは嫌だぞ。



レベル9、たかし

種族:ヒューマン

職業:剣士

ランク:E

HP:73(56+17)

MP:93(37+56)

腕力:34(26+8)

脚力:33(25+8)

体力:74(32+10+32)

器用:38(29+9)

魔力:33


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー(ボロボロ)、スモールシールド


残りスキルポイント0

スキル:

ステータス操作

スキルリセット

加護付与

異世界言語

剣術レベル3

回避術レベル1

気配察知レベル2

MP強化レベル3

体力強化レベル2

肉体強化レベル3

火魔法レベル3 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード」

水魔法レベル1 「ウォーターボール」

空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」

MP消費量減少レベル2

MP回復速度強化レベル1


称号:犬狩り

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