13話 ユナとの息抜き

3日目の朝だ。


良く眠らせてもらった。

まだ体は痛むが、動かせないほどではない。


今日も一日がんばるぞい!


そう思ったが、今日はうちのパーティが野営地の番をするらしい。

本当は4日目の予定だったが、俺の負傷により交替してもらったようだ。


せっかくなので、午前中は大人しく療養に専念した。

他のみんなも、最低限の警戒はしつつもリラックスしている。

まあ昼間で明るいしな。

夜警のときとは状況がちがう。


しかし午後になると、あまりにヒマ過ぎて何かしたくなってきた。


まずは水魔法の練習をしよう。

ウォーターボールを発動する。

球状のまま水球を維持する。

そのまま上下左右と移動させてみる。

魔力の値が高いと、魔法の応用性が高まるようだ。

以前発動したときよりも、自由自在に操れる。

ただし、相変わらず速度は大したことない。


良いことを思いついた。

ユナの背後から水球を近づけてイタズラしよう。


ゆっくり……ゆっくりだ……。

あせらない……あせらない……。

駄目だ、まだ笑うな……こらえるんだ……。


しかしあと1mというところで気配に気づかれたのか、振り向かれてしまった。


「もう! 魔物か何かかと思ってビックリしたじゃない!」


ゴメンナサイ。

しかしそう簡単にあきらめる俺ではない。

改めて水球をユナに当てにいく。


「ほーれ。ほーれ。大人しく当たっちゃいなー」


なんかだんだん楽しくなってきたぞ。

がんばって避けるユナ。

水球は遅いし小回りもイマイチなので、なかなか当たらない。

ならばと追加で2つ目の水球を出そうとしたが出なかった。

どうやら同時に出せるのは1つまでのようだ。


「ふふん。私に当てようなんて100年早いわね。身の程を知りなさい!」


ユナがドヤ顔で挑発してくる。

ムキになって当てにいく俺。


「うおおおお! 絶対に当ててやるぞおおおお!」


「望むところよ! かかってきなさい!」


俺達が熱くなってきたところで、ドレッドから怒られた。


「お前らうるせェぞ! ヒマなんだったら剣か弓の練習でもしてろ!」


ゴメンナサイ。


気を取り直して剣の練習をする。

とはいってもあまり激しい運動はできない。

型を確認するだけにした。


ふとユナのほうを見てみると、弓の練習をしている。

10mほど先の木に当てているようだ。

ちょっと気になったので近づいてみる。


「なあ。俺も弓の練習をしてみたいんだけど」


「はあ? あなた剣士でしょ。火魔法も使えるし、弓なんて練習しなくていいじゃない」


「まあそう言わずにさ。もしかしたら俺には弓の隠れた才能が……」


「はいはい、分かったわ。やってみなさい」


俺の才能のくだりは軽く流された。

なぜだ。


ユナから弓を借りて、構える。

力は大丈夫だ。

無理せず弦を引けている。


しかし狙いが安定しない。

手先の微調整が上手くいかない感じだ。

おかしいな。

器用のステータスは結構高いはずなんだが。


とりあえず撃ってみる。

木のはるか手前で地面に刺さった。

ついでに横にも大きく外れている。


「初めてにしてはまあまあね。上達には練習あるのみよ」


それから何本か撃ってみたが、とうとう1本も木に命中しなかった。

俺に弓の才能はなさそうだ……。

スキルで取ってみてもいいが、盾術と同じく自力で取ってみようと思う。


そうだ、盾術だ。

実戦でもちょくちょく盾を活用しているんだが、まだ盾術は取れていない。

日暮れまでまだ時間もあるし、練習しておこう。

そうなると相手が欲しい。


ユナは弓使いだし、ドレッドかジークだな。

彼らに声をかけようと思ったところ、ユナに止められた。


「ふふん。まあ待ちなさい。私も短剣ぐらいなら扱えるわ。相手をしてあげる」


なんでも敵に接近されてしまったときのために、普段から練習しているそうだ。

ただし実際の剣だと怖いので、手ごろな大きさの木片を使ってもらおう。


ユナが木片で攻め、俺が盾で防ぐ。

試合形式の練習にした。

ユナの勝利条件は、俺の頭部・腕・腹のいずれかにまともに当てること。

俺の勝利条件は、夕暮れまで防ぎきること。

ん?


「なあ。この条件は俺がちょっと不利じゃないか? 夕暮れまでまだかなりあるぞ」


「勝負する前から言い訳かしら? 男のくせに情けない奴ね」


ユナはやれやれと呟いて、大げさに首を振る。


カッチーン。


「いいだろう。俺に勝負を挑んだことを後悔するがいい!」


「ふふん。そう上手くいくかしら?」


しばらくの間は俺が見事に防ぎきってみせた。

もうそろそろ夕暮れといっていい時間帯だろう。


「あと少しで俺の勝ちだ! ふはははは、残念だったな小娘!」


「何よ! 勝負は最後まで分からないわ!」


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」


俺達が熱くなってきたところで、ドレッドからまた怒られた。


「お前らうるせェぞ! そろそろ夕暮れだ! 大人しくしてろ!」


ゴメンナサイ。



そんなこんなで日も暮れた。


黒色の旋風と蒼穹の担い手も無事帰ってきている。

夕食も食べ終えた。

そろそろ寝よう。


天幕に入り横になる。

しばらくして隣に人の気配がした。

ユナだ。

心なしか顔が赤い。


「ねえタカシ……。隣で寝てもいい?」


「ああ……」


平静を装っているが、内心はパニックである。


これはあれかな?

そういうことなのかな?

でも近くにはジークも寝ているぞ。

どうしよう?

どうしたらいいんだろう?


そんなことをゴチャゴチャ考えてると、隣から寝息が聞こえてきた。


そうですよね。

寝るって別にそのままの意味ですよね。

よく見ると別に顔も赤くないし。

深読みして恥ずかしいです。

はい。

私も寝ますね。

おやすみなさい。

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