15話 ホワイトタイガー討伐作戦
あれから急ぎで撤退の準備を始めた。
やはり冒険者。
いざというときの行動は早い。
わずか数分で撤退の準備は終了し、街への行軍を始めた。
隊列は行きと少し異なる。
最も戦闘能力の高い“蒼穹の担い手”が先頭。
これは変わらない。
進行先の魔物を蹴散らして後続の安全を確保してもらう。
“黒色の旋風”が中央。
そしてパーティバランスの良い“赤き大牙”が後方だ。
無言で緊迫した行軍が続く。
茂みから物音がする度にドキっとする。
心臓に悪い。
歩く。
さらに歩く。
突然、左手の方向から威嚇するようなうなり声が聞こえてきた。
距離はそれほど遠くない。
心なしか声が弱々しいように感じられる。
「今のうなり声は何でしょうか?」
「リトルベアが威嚇するときの声だ。だが妙だな。本来の奴の威嚇はこんなものじゃねェ」
「何にせよこっちに来ないように祈るしかないわね。リトルベアと戦っている場合じゃないもの」
そんな会話をしていると、前方に蒼穹の担い手と黒色の旋風が立ち止まっていた。
近くにはクマのような魔物の死体。
これがリトルベアか?
「おう。リトルベアを討伐したのか? 俺達が追いつくまでのわずかな時間に倒すとは……。さすがCランクパーティがいれば半端じゃねェ討伐速度だな」
「いや、違う。いくらなんでもこんな短時間ではリトルベアの討伐はできない。この死体はもともとここにあったんだ」
コーバッツが言う。
「何? リトルベアを倒せるような魔物はこの森にはいねェ。……まさかホワイトタイガーが?」
「そう考えて間違いないだろう。リトルベアの首筋を見てくれ。この傷がおそらく致命傷だ」
見ると、首筋に噛まれたような傷がある。
他にも手・足・胴体など全身に血がついている。
「おう。良く見りゃ手についてる血はコイツのじゃねェな。ホワイトタイガーとはいえ、さすがに無傷じゃすまなかったみてェだな」
「加えて先ほどのうなり声。2頭目のリトルベアと対峙しているようだ。リトルベアが勝つことはないだろうが、ホワイトタイガーは相当弱っている可能性が高い。」
あのうなり声はホワイトタイガーとリトルベアが戦っているときのものなのか。
しかしクレイジーラビット戦後にリトルベアと2連戦とは……。
「おう。そりゃ討伐のチャンスじゃねェか? 」
「ああ、これは千載一遇の機会だ。おそらく、魔の領域から流れてきたばかりで、この森の生態系を把握していなかったのだろう。うかつにもクレイジーラビットやリトルベアに手を出してしまったんだ」
「街へ戻り討伐隊を編成するとなると、1週間はかかる。その間に奴は傷を癒し、この森の生態系を理解してしまう。今討伐しない手はねェ」
「俺もそう思う。しかしリスクも低くはない。みんなの意見を聞きたい」
コーバッツはそう言って辺りを見回す。
うーん……。
俺としては正直怖いという思いが強い。
しかし、これは滅多にないチャンスだということも理解できる。
そんなに強い魔物なら、報酬や経験値にも期待できそうだし。
他の人の様子を見てみる。
蒼穹の担い手は全員が討伐派のようだ。
リーダーを信頼しているのだろう。
ドレッドとジークも乗り気だ。
黒色の旋風の4人・俺・ユナ。
このあたりが少し悩んだ顔をしている。
そんな俺達を見て、コーバッツとドレッドが声をかけた。
「ホワイトタイガーは、討伐報酬も買い取り報酬も高い。これだけの人数で分けるから莫大な報酬とまでは言えないが、数か月は生きていけるだけの金が入るだろう。それに、災害指定生物を狩ったとなると、ちょっとした英雄だぞ。一般市民に知れ渡るほどではないが、冒険者の間では一目置かれる存在になる」
「なに、それほどの危険はねェはずだ。中級の魔法を使えるやつが2人いる。リーゼロッテとタカシだ。特にタカシ、お前の火魔法ででかい先制攻撃をかませば、相当有利になる」
ふーむ。
そう言われると討伐のメリットがリスクを上回るように思える。
正直、金は欲しい。
おそらく、ゴブリンやクレイジーラビットの報酬だけでは、ミティの前金80枚には足りないだろう。
先ほどのリトルベアの買い取り報酬を足してもおそらく足りない。
経験値もたくさんもらえそうだし、ここは勇気を出すか。
「決心がつきました。私も討伐すべきだと考えます」
俺はそう言った。
俺の声に続いて、ユナと黒色の旋風も討伐決心の声をあげる。
その後は、コーバッツとドレッドを中心に具体的な戦法を詰めていく。
話し合いが続き、ほどなく終了した。
コーバッツが代表して作戦をまとめる。
「最終確認だ。まずはタカシ君のファイアートルネードで先制攻撃をする。奴がこちらに走り寄ってきたら、うちのリーゼロッテのアイスレインで迎え撃つ。その時、弓士も援護射撃をする。その後は、弓士の援護を受けつつ近接職が中心となって戦っていく。タカシ君とリーゼロッテは静かに待機。魔法に対する奴の警戒が薄れた頃合いを見て、再度魔法を使ってくれ」
俺の役割が大きい。
最初の一撃と最後の一撃。
特に最初の一撃の重要性は高い。
責任の重さに押しつぶされそうだ。
しばらく森を散策すると、無事にホワイトタイガーを発見した。
日本で見たことのあるトラよりも一回り大きい。
体は雪のように白く美しい。
しかしよく見ると全身に少なくない傷があり、血で汚れている部分も多い。
少し弱っているようだ。
口には立派な歯。
サーベルタイガーのような歯だ。
リトルベアの死体を食べているのだろうか。
周囲への警戒を解いているように見える。
限界まで近づいていく。
気付かれたら終わりだ。
コーバッツに目で確認をする。
コーバッツがうなづいた。
心の中で魔法の詠唱を開始する。
今までよりも範囲と威力が大きくなるように意識する。
両手を前方にかざし、魔法を発動させる。
「ファイアートルネード!」
ごうっという音と共に火の竜巻がホワイトタイガーを襲う。
奴が悲鳴をあげる。
体からは煙が上がっている。
こちらに気付き、今度は怒ったような威嚇の声をあげる。
奴が近寄ってくる。
そこにリーゼロッテの魔法がさく裂する。
「アイスレイン!」
多数の氷の球が奴に向かっていく。
矢の援護もある。
少なくない数が命中した。
奴は少しスピードを落としたが、そのままこちらに向かってくる。
とうとうこちら側のすぐそばにまでやって来た。
近接職の人の出番である。
コーバッツとドレッドを中心に戦っている。
黒色の旋風のサポートもなかなかだ。
ユナと蒼穹の男が弓で援護している。
明らかにこちらが優勢だ。
奴の動きは思っていたよりも速くない。
これまでのダメージが相当積み重なっているのだろう。
クレイジーラビットの猛攻を受けたあとに、リトルベア2頭との戦闘。
さらにはファイアートルネードにアイスレインと弓のダメージも加わった。
動きがにぶらないわけがない。
あっ。
奴がユナに狙いを定めて走り寄ろうとしている。
マズイぞ。
しかしそんな心配は無用だった。
ジークがしっかりと間に入り、奴の進行方向を防ぐ。
さすがジークだ。
彼の防御は頼りになる。
しばらくはそのまま戦闘が続いた。
奴の体中には無数の剣傷がある。
そろそろ頃合いか。
コーバッツに目で合図を送る。
近接職の人達が、少しだけホワイトタイガーとの距離をあける。
隣のリーゼロッテを見る。
リーゼロッテがうなづく。
よし、まずは俺からだ。
心の中で魔法の詠唱を開始する。
両手を前方にかざし、魔法を発動させる。
「ファイアートルネード!」
火の竜巻が奴を襲う。
もう相当弱っている。
動きがかなり緩慢だ。
続けてリーゼロッテも魔法を発動させる。
「アイスレイン!」
多数の氷の球が奴に向かう。
ほとんどの球が命中した。
もはやまともに避けることもできないようだ。
近接職が一斉に奴に攻撃する。
奴の抵抗は弱々しい。
必死に噛みついたり体を動かしたりしているが、みんな上手く防いでいる。
これで終わりだ。
そう言わんばかりにコーバッツが槍で深々と貫き動きを止める。
奴が小さくうめく。
ドレッドが大剣を首に向かって勢いよく振り下ろす。
ホワイトタイガーの首が斬り落とされる。
こうして、ホワイトタイガーの討伐は無事に終了した。
レベル10、たかし
種族:ヒューマン
職業:剣士
ランク:E
HP:79(61+18)
MP:100(40+60)
腕力:36(28+8)
脚力:35(27+8)
体力:81(35+11+35)
器用:42(32+10)
魔力:36
武器:ショートソード
防具:レザーアーマー(ボロボロ)、スモールシールド
残りスキルポイント20
スキル:
ステータス操作
スキルリセット
加護付与
異世界言語
剣術レベル3
回避術レベル1
気配察知レベル2
MP強化レベル3
体力強化レベル2
肉体強化レベル3
火魔法レベル3 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード」
水魔法レベル1 「ウォーターボール」
空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」
MP消費量減少レベル2
MP回復速度強化レベル1
称号:犬狩り
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