「はっ」


 跳ね起きた。


「いだいっ」


 軟らかいものに、ぶつかる感触。


「ちょ、もうちょっと、ゆっくり起きて。無い胸がさらになくなっちゃう。うしなわれちゃうから」


 彼女の、声。


 安心して。力が抜けた。


 いる。彼女が。ここに。


「かお」


「かお?」


「かおをみせて」


 胸が邪魔で、顔が見えない。


「え?」


 彼女。


 さっきから、私の胸をしきりに揉んでいる。


「おはようございまあす」


 いたいいたい。


 おなか。つねってる。


「うなされてたけど」


「うん?」


 彼女の、顔。


 いつもの、笑顔。


 安心して、涙が、こぼれてきた。


「なんで泣くの」


「目に胸が入った」


「目に入るほど小さいって?」


「つねらないで。おなか。そこはおなかだから」


「うわっ」


 抱きついて。


 体勢を入れ替えて。


 私が膝枕する形に。


「あ」


 映画。ケイ素でできた生物と人間が戦うやつ。


「まだやってたんだ」


「うん。ひとがしぬのこわくて、でもあなた寝ちゃうから。こわくてあなたの胸を握ってた」


「それで胸がじんじんするのね」


「おなかにすればよかったかな?」


「おなかもひりひりしますけど」


「おなかああ」


「おへそを吸うな」


「安心するう」


「よかったですねえ」


 彼女の頭を、撫でる。


「どんな夢を、見てたの?」


「うん?」


 思い出そうとする。


「わすれた」


「そっか。残念」


「なんで」


「わるい夢をみるとね、いいことが起こるんだよ。夢には、現実を整理する作用があって」


「はいはい」


「ぐるじい」


「密着しておへそ吸うからでしょ」


「むねにきりかえます」


 はいあがってこようとする彼女を、やさしくへそまで押し戻した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る