第20話 マリナちゃんの妄想で綴る閑話
※変態のエロ妄想が続く閑話
直接的な描写は無いですが、気分が悪くなるかもしれません。
苦手な人は◆マークが出るまで飛ばして下さい。
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死ぬ気でやれば、なんていうけれど、いつ死んでもいい者は何もしない
マリナ・マドレ
お父様はわたくしを嫌っている。
お母様はわたくしとお父様を愛しているけれど、股座の蛇をお慰めするため閨に篭る。
マドレ領は豊かに暮らせる代わりに闇の濃い場所だ。
マドレの側室になれる者は名誉だと領民は言うけれど、皆、憎しみを瞳に宿していた。
ああ、ねじくれた幹を悪魔の手のように伸ばして、人惨果の樹が赤子を喰らう。
我々は永遠に救われない。
赤子の血を豊穣の糧とする罪の土地に縛られているのだから。
マドレの領地に住む者はみな、罪を知りながら目を逸らして豊かさに溺れる者たち。
父上によって学院へと追いやられたわたくしは、束の間の自由に喜びを感じ、その後はきまって絶望するのです。
屈託なく笑う者、絶望に泣く者、諦観に満ちたマドレの地とは違う。
太陽の下で生きる正しい人たち。わたくしの居場所はここにありません。マドレの地に縛られて、絶望しながら帰ることになりましょう。そして、安心するのです。
わたくしと同じ罪人が、マドレの地に住まう者なのですから。孤独ではないと、安堵するのです。
隣の席にいる男の子は、とても悪い子供だと皆様が噂しております。
悪党と評判の冒険者と連れだって花街へ出かける姿をたくさんの人が見ています。
毎朝、挨拶をしてくださるのですけれど、引っ込み思案なわたくしは小さな声でなんとか声を出すのが精いっぱい。
ある日など、お母様のお部屋と同じ情交の香りがして、わたくしは体が熱くなってお返事もできない有様です。
快楽は神の与えた唯一の善であると。子は快楽より産まれるのだと。
何も悪いことでないのです。
愛は快楽にあり、快楽に愛があると言うのです。
わたくしは、甘ったるい恋愛小説が好きです。
騎士様との身分違いの恋物語も好みでしたが、学院を舞台にしたものがもっと好きでした。
だいたいは素敵な少年紳士か、粗野で優しい男のどちらかが出るのです。
アラン・ドーレン様は後者のようでした。
小説の中の粗野で優しい男は、どんなお話でも、下着の外し方にとまどってナイフで切ってしまのです。
想像すると、それはとても甘美なものでした。
でも、わたくしのショーツの奥に隠れた蛇を見たら、ドーレン様はどのように思うのでしょうか。
嫌悪、侮蔑、憤怒、それとも恐怖でしょうか。
ああ、想像するだけで、わたくしの唇には引き攣れるような笑みが。
憤怒に充ちたドーレン様は、蛇をナイフで切り取ってしまうのです。わたくしが悲鳴を上げたら、彼は興奮して馬乗りになるのです。
血に塗れたわたくしの涙など気にも止めず、荒々しく腰を振るのでしょう。わたくしはたすけてとお願いするのに、いっそう興奮して責めは激しさを増すのです。
ふひ、くひひひ。
それとも、恐怖に怯えたドーレン様に、わたくしが馬乗りになろうかしら。
男同士が絡みあう小説は嫌いではありませんけれど、股座に蛇を持つわたくしにはあまりピンと来ないのです。
粗野な男を屈服させるというのはどんなものでしょうか。
怯えきるドーレン様の男を優しく撫でましょう。そうして、その瞳に安堵が混じりはじめたら、粗野な菊を貫くのです。
泣き叫ぶでしょう。
菊の花弁は乱暴にしてはいけませんし、本当は下準備も必要なのですけれど、これはわたくしの妄想なので、そこはさて置きましょう。
力を抜くように言いながら、わたくしは突くのです。
抵抗も虚しくわたくしに弄ばれるドーレン様の瞳には、今度は諦念の色が。体に快楽を刻みつけるのです。
蛇の扱い方は殿方よりも熟知しておりますもの。お手の物なのです。
ふふ、ひふ、ひひひひ。
朝の挨拶だけで様々なことを思い描きます。
学院の日々が終われば、もう会うこともないのでしょう。
きっと、彼は心の恋人というものなのです。
◆◆◆
バイアメオン家の次男坊にしつこく誘われて困っています。
次男坊でありながら野心があるのでしょう。
マドレの婿養子など地獄であるというのに、何も知らないというのはとても、とても羨ましいものです。
「おい、マリナちゃんが嫌がってんだろ」
物語の少年紳士のように助けてくれるのは、クラスメイトのリューリちゃんでした。
男勝りというのでしょうか。溌剌として爽やかな、わたくしの初めてのお友達です。
「……邪魔をしないでくれたまえ」
「ああ、聞こえねえよ」
帝都にその名を轟かせるキラミデ物産の代表の一人娘であるリューリちゃんは、とても人気のある女の子です。
男性からも女性からも好かれる竹を割ったようなお人柄。
竹は根を横に長く張るのです。
わたくしにはリューリちゃんの根はとても身近なものです。
閨でお母様に貫かれて、一層悦びの声を上げる女とよく似ておりました。
バイアメオンの次男坊はリューリちゃんに睨まれてすごすごと立ち去ります。
これは日常の中によくあることでした。
わたくしは、お礼をするのです。
誰もいなくなった夕暮れの教室に二人きりになりました。
白蛇様のお力を借りて人払いをしてみましたら、思いの外、上手くいって少し驚いてしまいました。
ここしばらく、とても、とても力の湧き上がる感覚があるのです。
ああ、これが白蛇様の加護なのでしょうか。
わたくしもお母様のようになってしまうのでしょうか。
知を忘れ、苦しみの無い無垢の世界で快楽に耽るというのは、とてもとても恐ろしいというのに、魅力的に思えました。
「マリナちゃん、二人で会いたいって、何かあったの」
わたくしは熱に浮かされたように、フワフワとした心持で口を開きます。
「リューリちゃん、とてもキレイ。こっちに」
手を伸ばせば、リューリちゃんはおずおずと、取りました。
抱きすくめて、わたくしから口を吸いました。
最初は抵抗しようとしましたが、目と目があいましたら、潤んで、抵抗をやめました。
リューリちゃんは女色でした。それも小さな女の子にいじめられたいと思ってしまう、そんな屈折した願望があったのでしょう。
庇護の対象に汚されたいと願っていると、白蛇様の加護でわたくしは知りました。
「リューリちゃんはとっても、はしたない、わたくしの考えた通りのひとなのね」
「え、あの、ご、ごめんなさい」
「わたくしに優しくしたのも、こんなことがしてほしかったからなんでしょう」
足と足の間を弄れば、甘い声が走ります。
「はしたないわ。でも、好きよ」
ああ、これがお母様のいた世界か。
なんて甘美なのでしょうか。
肉欲の果てに愛があるのでしょう。
「マリナちゃん、好き、好きなの」
「ええ、私も、大好き」
蛇をリューリちゃんは受け入れました。
そして、わたくしは、ようやく前を向けるようになりました。
ひひ、はは、あははははは。
白蛇様のお力で、わたくしは様々なことを知れました。
仮面と帽子の悪魔を小間使いにして、わたくしは学生生活を楽しみます。
毎朝、気力に充ちて朝を迎えます。
太陽のなんと眩しいことか。今は、目を逸らさなくとも、光を見れました。
「おはよう」
と、ドーレン様が挨拶をされました。
わたくしは、この力で彼を魅了したくなってしまいます。それをぐっと我慢しました。
彼は心の恋人。
もっと、もっと良いところで、わたくしの醜さと醜悪さを見せつけて、激しく、情熱的に、獣のようにして睦み合いたいのです。
どんな顔をして啼くのでしょうか。そして、わたくしも、どんな声で啼くのか。その時が人間であることを捨てる時なのかもしれません。ああ、楽しみでなりません。
ついつい力が漏れてしまいますけれど、ドーレン様は意にも介しませんでした。
その涼しい顔を、穢したい。
ああ、蛇が、鎌首を。
◆
姉様のことは、白蛇様が知らせてくれました。
お父様が何かを企んで、小間使いを殺して廻っている。
白蛇様は、過去にもそんなことを企んだ当主がいたと教えてくれました。愚かなことです。
依頼人は、すぐに小間使いが始末してくれました。
暴力ギルドにわたくしを攫うように命じたお父様には、どんなお仕置きがいいかしら?
「帽子の悪魔はどう思う?」
「マリナ様の蛇でいたぶられてはいかがでしょう」
それはお母様がやっているし、つまらないわ。
ああ、そうだ。
「ねえ、暴力ギルドに姉様を攫うように言って」
目の前で、あの男の目の前で、優しかった姉様を穢してやろうと思いました。
とっても冴えた思いつきで、わたくしの頬が緩みます。
「それはようございますな。流石はマリナ様です」
ほほほ。
ふふふ。
わたくしたちは朗らかに笑いました。
姉様はお父様に愛されておりました。
姉様のお母様はとてもお優しくて、わたくしにも良くしてくださいました。
姉様はお優しくて、一緒に四葉のクローバーを捜したことは大切な思い出です。
うふふ、あはははは。
お母様のようになる。
だから、もうよいのです。
わたくしは、愛しいものを穢したくてなりません。
だって、全ては、わたくしから消えてしまうのですから。
何かに刻みつけたいではありませんか。
わたくしの醜悪さを、無垢になる前にこの世に遺すのです。それだけが、わたくしのいた証となるのですから。
ふひ、ひひひひ。
◆
アラン・ドーレン様、心の恋人がわたくしにすり寄ってきました。
ああ、この方も同じか。
気持ちが冷めていきます。
恋愛小説の粗野で優しい男も、白蛇様の御力には、ただ一本の男根でしかありません。
リューリちゃんが痛めつけたということを知っても、心は動かされませんでした。
なのに、彼はやってきました。
ああ、なんということでしょう。
リューリちゃんは、わたくしがドーレン様を心の恋人としていることに気付いていたのでしょう。嫉妬とは恐ろしいもの。
顔は腫れ上がって、喋る度に無くなった歯の隙間が目立つ間抜けな顔。
いつも、どこか達観したような顔をしていたというのに、今は少年のようです。
「さてと、それじゃあまずは、キミのお姉さんのことから話そう」
アラン・ドーレン様そう仰いました。
わたくしは、固まった顔で彼の語るお話を聴きます。
どうして、どうして、どうして。
どうして姉様、わたくしの大切なものを持っていってしまうの。
お父様の愛も、姉様の優しいお母様の愛も、なんで独り占めしてしまうの。
この上、アラン様までも奪うというのか。
許せない。
奪ってやらないと。
白蛇様のお力を使います。
わたくしの魅了は、全ての男を蕩けさせるでしょう。わたくしは魔神の子なのですから。
「もちろん、女友達は歓迎さ」
腫れた顔で笑って言うアラン様に魅了は効いていない。
どうして、どうして。
ああ、何か、何か、力ある何かを隠し持っている。
何かが、わたくしの力を掻き消している。
恐怖に襲われました。
その後、どんなことを話したのかあまり覚えていません。
白蛇様のお声が遠くに聞こえるようになっていて、わたくしは以前のようにとまではいかなくても、落ち着きました。
少なくとも、白蛇様のお力に浮足立った気持ちではなくなったのです。
それから、アラン様とはよく話すようになりました。
想像していたものよりも、アラン様は粗野ではありません。
町方のように話すのですけれど、いつもわたくしを笑わせようとお気を遣っていらっしゃるようで。
わたくしも半分は男ですから、それは友達のようで。
どうしたらいいのでしょうか。
白蛇様、どうしたらいいのでしょうか。
失いたくないという気持ちがあるのです。
パーティーにお誘いしました。
本当はこのパーティーでつまみ食いをしようと思っていたのですけれど、わたくしはアラン様が気になって仕方がないのです。
情熱的なお言葉に、頭が沸騰しそう……。
口を吸ってしまいました。
今度こそ、わたくしのものになると思っていたのに、またも魅了は効きません。
どこからか海の匂いがしています。
それから、事件が起こりました。
バイアメオン家の次男坊との決闘にも、心が躍りました。
だって、恋愛小説でよくあるんですもの。
わたくしを取り合う男が二人。
ふひ、ひひひひ。
粗野で優しい男に相応しい勝利ではないのでしょうか。
もう我慢ができませんでした。
裸で迫ったというのに、効きませんでした。
好みが違うのかと、リューリちゃんまで用意したのに、それも無意味です。
風邪をひくから服を着ろと言うので、わたくしはムキになってしまいました。
それからは、ずっと笑ってしまうことばかり。
女に恥をかかせてくれたのに、わたくしは笑ってしまって。
ああ、笑うことって、こんなに気持ちよかったのね。
胸の奥がすっとして、とても、気持ちが軽いのです。
そうしてお話が始まります。
「マリナちゃん、見つめられたらドキドキしてきたな。もう、魔神のこととか関係なく、俺と結婚、今は婚約だけど、やらないか?」
それはとても魅力的なお話でした。
魔神に抗おうなどと真面目に語るのです。アラン様は。
でも、魅了が効かないのにどうして。
「は、どうしてっ、……どうして、わたくしなんかと」
「マリナちゃんとシスティナさんがセックスして子供造るのを想像したら、首を吊りたくなるからだよ」
ああ、わたくしの気持ちが冷めていきます。
姉様のことを助けにきたのですね。
どうしてどうしてどうして。
なんで、姉様はわたくしの欲しいものを、全部取り上げてしまわれるの。
お父様も、優しい姉さまの優しいお母様も。
粗野で優しいアラン様も。
わたくしが本当に欲しいものばかり、どうしてあなただけが手にしているの。
「ごめんなさい。今日は帰って」
「ん、分かった。前向きに考えてくれよ、デートの時に返事をきかせてくれ」
「ごきげんよう、アラン様」
それから、わたくしは泣きました。
リューリちゃんの言葉には応えずに泣きました。
泣いて暮らしました。
すぐに憎しみはやってきました。
白蛇様のお声がわたくしを慰めてくれます。
姉様を八つ裂きにしようかしら?
『大切な畜生胎じゃ。悪魔たちに四肢を切り落とさせるのがよかろう。アレの目の前でやってみれば、良い声で鳴くのではないか』
白蛇様はとても冴えていらっしゃる。
◆
姉様の舞台は面白かった。
朝までは、アランさまと姉様にお仕置きをすることばかり考えていたのに……。
アラン様といると、わたくしの醜い心が暴れずに落ち着いてくれる。
舞台をアラン様は熱心に見ていて、感想を求めてくるので、姉様ではなく玉子サンドを褒めてしまいました。
サロンのテラスでも、粗野で優しい男は不器用な優しさがありました。
困らせてやろうと口を開きます。
「わたくしも、普通の女の子のこと、知らないのよ」
「そっか。じゃあ、俺の好きなとこ行っていいか?」
せっかく困らせてやろうとしたのに、わたくしが困らされました。でも、男らしいように見えます。
それから、間接キスをしました。
本当に、ヘンなひと。
一緒にいるだけで、楽しい気持ちにさせてくれる。
だから、逃げてほしかった。
白蛇様がお出でになられてしまえば、人に為す術は無いのです。
マドレ家の種馬である当主は、過去七代の内半分以上が白蛇様の
わたくしの意識は白蛇様に取り上げられてしまいます。
アラン、見ないで。
下着を脱ぎ捨てるはしたない姿と、秘所より白蛇様の這い出す醜さを。
それから、わたくしはぼんやりと、そのやり取りを見ていました。
白蛇様に絡め取られたアラン。
ああ、幸せに満ちた悪夢から人は逃れられない。
わたくしは見てしまいました。
アラン様の前世という夢を。
寂寥とした記憶でした。
苦しみと後悔と罪悪感と絶望に充ち満ちた心でした。
わたくしも悲しいのです。
アランはわたくしなど、見てもおりません。
姉様に亡き女(ひと)を重ねていました。
アランの世界では、姉様もわたくしも価値が無いのです。
だって、あの夢に、わたくしと姉様は出てこないんですもの。
ああ、どうしてそんな残酷なことをするの。
生きてもいない女に、いい格好をしようとして命をかけるなんて。
わたくしたち姉妹は、あなたに惹かれていたのに。
あなたは、一度も見ていない。
わたくしたちをダシにして、何一つ見ていないだなんて、そんなの残酷すぎる。
あなたと結婚なんてしたくない。
ずっと、お父様みたいにわたくしを見てくれないのが、分かりきってる。
あなたなんか大嫌い。
わたくしは、それが悲しくて悔しくて、走りました。
それ以外の大切なことは、何も考えたくありませんでした。
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