第3話 4月9日金曜日

きりーつ、気を付けー、礼。

___さようなら。




わいわいとクラスメートが教室から出ていく。

そのまま帰る人もいれば、これから部活の人もいる。




_____。

「はる〜、部活いこ?早くしないと始まっちゃうっ!」

「ごめん。今行くね。」


バスケ部が同じで、高校で仲良くなった隣のクラスのりんが迎えに来た。

凛と一緒にいられるのも、皆とバスケができるのも、あと1年か...

最後まで、たくさんバスケができるといいな...


「ちょっと、はる〜?早く行くよ?」


またぼーっとしてた...

悪夢となって毎日のように見る、あのトラックの映像。

怯えているせいで夜も眠れず、寝ても悪夢に覚まされるおかげで、ほとんど寝れてない。この1週間は、あの夢しか見ていない。

寝不足のせいで頭は回らないし、体も重い。

中学からバスケは続けているが、アップだけでも疲れてしまう。

春休みもずっと部活はあったから体力が落ちたわけじゃないはず...






___部活も終わると、ほんとに1週間が終わった。

明日は隣の学校との練習試合があって、メンバーに入っているけれど、

授業がないから少し楽。


家が隣ということもあり、部活の終わり時間が一緒のときは優と帰ることが多い。

途中までは友達もいるけど、最寄り駅が違うから駅からは絶対に2人。


一緒に帰れるのもあと1年なのかな...





「ねぇ、遥香?」

どうしたんだろう。と温かい優の声に耳を澄ます。



「隈やばいけどやっぱなんかあった?寝れてない?

 部活中もすごくつらそうだったよね...」



背中に手を回しながら言い訳を考える。

私のことを誰よりもわかっている優だから嘘を付くのが難しい。



「...。怖い夢ばっかり見ちゃっててさ、寝れてなかったんだよね。」



優は「怖い夢?小学生かよ。」とちょっと笑った後、私の話を真剣に聞いてくれた。

特に嘘を付く必要もない気がするから、最近見ている悪夢の話をする。

エンジンの音とか、迫ってくる大きな影とか、耐えられなかった衝撃以外の話を。



一通り私の話を聞いてくれたあと、いくつか質問された。

最近似たような映像を見たか。最近怖いと思っていることはあるか。など。

気付かれないように気をつけながら、ないと思うけどな〜なんて答えた。



「もし俺が死ぬとしたらさ、死ぬ日は前もって知っておきたいな」


「知ってるって怖くない?」


質問に返ってきたのは意外な答えだった。


全く怖くないわけじゃないよ?でも、あとから後悔したくないじゃん。

どうせ死ぬなら、やりたいことを全部やってから死にたい。

人間いつかは死ぬんだからさ、死ぬ日がわかってたらそれまで精一杯生きようと思えると思うし、その方が残された死ぬまでの時間を楽しく過ごせると思わない?


「た、確かに...」


続く言葉が出てこなくなるような、不意を突かれた話だった。

ただ怯えているんじゃなくて、やらなきゃいけないこと、やりたいこと、私だからできること。やることなんていくらでもある。でも、残された時間は1年間。増えることはない。怖がってなんかいられない。1年間の意味がなくなってしまう。



「ありがとう。」

「なにが?」

「あっ、こっちの話。」


私が言うと、なにそれ、と優は笑った。

抱えていたものが嘘みたいに体が軽くなった。もちろんまだ怖いけど、とにかくできる限りのことを全部やろう。”その日”が来るまで。



___あぁ、やっぱり優の隣にいたいな。今まで以上に一緒にいられる時間を大切にしないと...

この時間が永遠に続けばいいのに、なんて思っていたんだった。



___残り358日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る