第1話 タイムリミット

ドガンッっという鈍い音によって目が覚めた。

金属と骨がぶつかる音、体が砕けるような痛みが襲ってきた衝撃。そして、猛スピードでトラックがこちらへと向かってくるあの光景が頭から離れない。耐え難い恐怖に押しつぶされそう。ひとまず落ち着こうと深呼吸をすることをを試みるが、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、肺に空気を入れることができない。






___見通しの悪い急カーブ。

歩いている人はよく見るが、車やトラックはほとんど見ないような場所のはずだった。



タッタッタッっと2〜3歳の男の子が傍の民家から飛び出してきた。

奥から重たいエンジンの音がする。早く助けてあげないと、勝手に足が出ていた。急いで男の子を抱えて逃げようと思ったが、このままだと間に合わない、そう気づいたときにはもう遅い。ありったけの力で、芝生の生えた柔らかそうな土の上へ男の子を投げたと同時に奥から走ってきたトラックにぶつかった。

そこで夢は終わった。






____「次は精一杯生きなさい。」

夢の中で誰かの声を聞いた。

遥か昔の友達のような、自分のお母さんのような、懐かしさと優しさに満ちたその声が誰のものだったのかはわからない___




枕元のスマホで日付を確認する。


4月3日土曜日 05:37


確かに昨日あの日、私は死んだはずだった。


2021年4月2日金曜日

地方の町で起きた人身事故。死傷者は2人。

居眠り運転でスピード違反をしていたトラックが女子高生に衝突。

直前に横切った幼児を助けるために飛び出し、帰らぬ人となった。

幼児は転んでかすり傷を負ったが、命に別状はなかった。






あぁ、私死ぬんだ。お母さんのお手伝いもっとすればよかったな。もっと話しておけばよかったな。友達と買い物に行く約束守れないな。勉強をもっと頑張っておけばよかったな。なんて、よく言われている”走馬灯”なんてものを見るわけでもなく、そんなことばかりが頭をよぎった。残念だな、ぐらいの感覚でしかない。



後悔もなければ、死ぬことへの恐怖もない。16年間の人生お疲れ様でした。


ただ、全部中途半端だったと思う。だからだろうか。




___あなたに1年間の最後の時間をあげる。

これはご褒美じゃなくて、精一杯生きなかったことへの罰よ。


”誰か”からそんなことを言われたのだ。

きっと天使とか、神とか、仏とか。そんな”誰か”に。

そんなことを言われたけど、どうしたらいいのかわからない。




___”あの日”の出来事というか、”昨日”の出来事と言うのか...

震えが止まらない。歯を食いしばって手を固く握っても、止まることはない。割れるように頭も痛いがなんとか立ち上がると”その日”に大きく印をつけた。






残された時間は1年間_365日。

やらなければいけないことはただひとつ。

”本当なら来るはずのなかった”最期の1年間を精一杯生きること___

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