久留野雫

「楠の事が好きでごめんね。」

 雫がそんな事を言ってきた。

「雫の事を好きになれて嬉しいよ、僕は。」

「そもそも無理矢理付き合って、とお願いしたのは僕の方じゃないか。」

「そうだけど。」

 今日の雫はいじらしいな。ちょっとかわいい。

「まずは思い出してご覧。付き合い始めの頃を。」

「やめて、恥ずかしい。」

「やめない。あの頃の雫は高嶺の花でしたね。告白されても断り続けた伝説の美少女。1人で学食を食べる姿に見惚れる男共。ああ、そう言えば僕もその1人だったかな。」

 あの頃の雫は今の印象とは真逆だった。あれはあれで好きだったんだけど。

「まだ続きますか、楠さん。」

「まだ導入ですよ、雫さん。」

 さて、今日は何から話そうかな。

「伝説の美少女に立ち向かう勇敢な男子がまた1人現れました。彼はその美少女に振られます。さて、ここで問題。その美少女は彼を何て振ったのでしょうか?」

「あなたみたいな人達は正直言って迷惑です。」

「正解。」

 良くあそこから付き合うまで持っていけたな。自分の事を褒めたくなる。

「なんやかんやでその美少女と彼は付き合う事になるのですが。」

「えっ、そこ重要じゃない?読者が置いていかれるよ。」

「長くなるよ。良いの?」

「巻きで。」

「了解。」

 要点だけ語るか。

「その勇敢な男子は、実は仲間内の罰ゲームで美少女に告白したのでした。しかし、彼の仲間達は1回の失敗では満足せず、そこから何度も彼に告白を強要したのです。」

「おい、ちょっと待て。どう言うことだ、それは。」

「聞いた通りの話ですよ、雫さん。」

「マジかよ。失望したぞ、楠。」

「待って待って。好きだったのは事実ですよ。」

「信用できない。」

「大好きです。世界中の誰よりも。」

「白々しいぞ、楠。」

「マジです。本気と書いてマジです。」

 話をそらすか。

「勇敢な男子と美少女は付き合う事になりました。しかし、彼女の傍若無人な態度に圧倒されます。近づかないで。視界に入るな。息をするな…。彼は耐えます。」

 良く耐えたな、自分。

「虚言を吐くな。というか、まだ話は終わってないんだけど。」

「えっ、なんのことかな。」

 これは不味い展開だ。雫の機嫌を取り戻す方法が思いつかない。

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