坂道のアポロン

「今日はセックスをします。」

 また、雫の癇癪が始まった。

「いいえ。今日は映画館に行くんですよ、雫さん。」

 坂道のアポロンのチケットを財布から取り出して見せる。

「そんな映画は良いから、セックス・セックス・セックス。」

「無理はやめなって。それにまだ朝だよ。」

「私は大丈夫だから。頑張るから。」

 雫は駄々をこねる。子供か。

「坂道のアポロン見たくないの?この前貸したら面白いって言ってたじゃん。」

「だから見たくないの!原作のイメージが崩れる。実写化なんてくそだよ。」

「見たくないだけかよ…。良いから行くよ。」

 僕は雫を家から引っ張り出した。どうせ映画を見始めればはしゃぎ出すのはわかっている。


 映画館に着いた。

「ポップコーンはなに味が良い?」

「キャラメル、いや、王道の塩味も良い。待って、ハーフ&ハーフ。それだと量が…」

「面倒くさ。すいません。キャラメルと塩味特大サイズを1つずつ。後はコーラLサイズを2つ。」

「かしこまりました。少々お待ち下さい。」

 店員がポップコーンを取り出しに奥へと下がる。

「ちょっと、何かってに注文してるの?罰として楠のポップコーンも頂くから。」

「わかったから静かに待とうね、雫さん。」

「何、その子供扱い。」

 そうこうしている間に店員がポップコーンとコーラをもってきた。

「雫、ほら行くよ。」

 僕は雫を連れて劇場に入っていった。


「薫、めっちゃかわいい。推せる。」

「うわっ。演奏むちゃくちゃ上手いじゃん。」

「雫さん。少し黙ろうか。」

 雫が騒ぐ。毎度の事だが。

 僕は雫を観察していた。目を輝せる雫。高揚して少し赤く染まった頬。半開きになっている口。少し濡れている唇。

「ディーン・フジオカ尊い。あ、ポップコーンもらうね。」

 雫は僕のポップコーンに手を伸ばす。僕も雫のポップコーンを頂く事にした。


 映画が終わり雫と2人で劇場を後にした。

「エンディングはないね。あれはない。」

「同感。流石にね、あの展開であれはないよ。」

「本当に盛り上がり最高潮でこっちは準備万端だったのに。あぁ、実写映画はなんでこうなんだろう。」

「まあまあ、続きはファミレスで話そうか。」

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